曼荼羅(まんだら)
今、三村から電話があって「状況が変わってきたからちょっと待て。」って言ってきたけど今さら待てるかってんだ。今の状況は、ここは小倉のホテルで俺はこの部屋に泊まって明日の殺しのためにスタンバってるとこだ。今日の朝はこないだの組事務所で三村と軽く打ち合わせして、その後博多駅まで車で送ってもらっって鹿児島本線で小倉駅に着いた。電車の中は平日ってことなんだろうけどガラガラで、妙にいい天気だしスゴいかったるい感じだった。寂しいんだかほのぼのしてるんだかわかんない感じで永久にこんな怠惰な時間が続くような気がして、「俺なにやってるんだろう」って気になった。サティのジムノペティ第1番聴いてたってのもあるだろうけど。かったるい曲なんだよ。
さっきフロントから「お父さんから電話」って言われてつないでもらったら三村だった。向こうでなんかあったのかもしれないけど、そんなことはこっちの知ったことじゃない。まあいいや。アイツはもう用なしだ。山野殺したら次はアイツだ。でもアイツとは長くつき合いすぎたからな。清春みたいに化けて出るかもしれないな。ああ考えただけでもメンドくさいや。それなら俺が殺されちゃった方が楽だな。
“そうするとお前が三村に化けて出る方になるだろうな。”
それは三村の罪の意識で、俺自身とは関係ないよ。
“お前は死んでさっさと大地に飲み込まれてしまいたいんだろうけどな、お前も俺みたいな順番待ち組だよ。間違いなく。”
あのな、あれは比喩で書いたんであって、あのまんま信じてるわけじゃないんだよ。お前はアレだろ。自分が霊魂だっていうんだろ。悪いけど全然信用してないよ。俺。
“でもお前は俺と別の人間と話すように話してるじゃないか。本当のこと教えてやるよ。俺はお前自身だ。でもそうなれば、自分とこうして議論してるお前はすでに気が狂い始めてるよ。でも俺が急にお前自身だって言っても逆に信じられないだろう。それは、お前もひょっとしたらと思ってるからだ。”
今自分で幽霊じゃないって言ったじゃねえか。
“いや、あれは嘘だ。なぜならお前はあれが本当だったと言える根拠を何も持ってないからだ。でも逆に嘘だったっていう根拠もない。苦しいだろう? 発狂っていうのはそういうパラドクスが永久に解決がつかないもんだって自覚することだ。”
お前おかしいんじゃないか。別に苦しくなんかないよ。俺。
“それはお前が行動のみを目的とする機械になりつつあるからだ。そして俺はそこから切り離された精神だ。と同時に俺は清春の魂そのものでもある。肉体を失った俺の魂は、お前の魂が肉体から切り離されてしまったときにシンクロして同一化してしまったんだ。で、今のお前は人形と化した自分の肉体に感情移入して、魂の苦痛から逃れようとしている。でもやはり本当のお前は俺だ。それはお前が肉体を失ったときにわかるだろう。そのときにはもう遅いぜ。お前の魂はまた誰かの魂とシンクロしてしまって、永久に大地に飲み込まれることはなくなるんだよ。なんのことはない。大地っていう精神のネットワークに対立する側のネットワークの一部として利用されてるに過ぎないんだよ、お前も俺も。それは陰と陽、善と悪、調和と混沌といってもいいがね。ま、宇宙の存続のためにはどちらも必要ではあるんだがね。”
お前変な科学の本の読み過ぎだよ。ま、還元主義を否定して相互関係に自然界の基本を求めるってのは、新しい科学の趨勢だからな。そのテの本は俺もけっこう読んだし、どうもその辺の影響がみえるぜ。その他はキリスト教とか儒教の本とかに書いてあったことをミックスして言ってるだけじゃないの。変なSF小説の影響も入ってるな。別になんかオリジナルなことを言ってるわけじゃないだろう。でもお前の言ってる通りだとしたら、俺はやっばり救われなくて破滅するだけだし、もともとそれがお前の目的なんだから別にいいんじゃないの。
清春は何も言わなくなってしまった。アイツが言ってたのが本当のことなのかどうなのかは知らない。でも前にも言ったように、そういう形而上的な話は嫌いなんだ。まあいいや。今日は寝よう。
参考)https://www.jtb.co.jp/kokunai_hotel/assets/areamap/40/area.gif
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%B8%E3%83%A0%E3%83%8E%E3%83%9A%E3%83%87%E3%82%A3
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E9%82%84%E5%85%83%E4%B8%BB%E7%BE%A9
https://www.weblio.jp/content/%E5%BD%A2%E8%80%8C%E4%B8%8A




