8 見たことあるけど誰だか思い出せない人、いるよね 認知症じゃないよ
肖像画の顔品評会をしながら歩いていくと、先を行っていたハナコがある絵の前で立ち止まった。
それから千代子を見、また絵を見たが千代子のそばに戻ってきた。
「ハナコったらこの王様知ってるのかしら、ねぇ?」
千代子が笑いながら絵を見ると、非常に見たことがしょうある気がする。
「この方はどなた?」
「この方は第59代国王、ノア様です」
「ふーん。……すごく見たことある気がするのよね、おかしな話だけど。近所にいたかしら、こんな顔」
ノアは茶色の髪に茶色の瞳、絵では40歳くらいのようで優しげな笑みを浮かべている。
帽子を被っている絵もたくさんあったが、この絵は帽子は被っておらず、また服装もどちらかというと質素な方だった。
「ダメだ〜思い出せない。絶対どっかで見たことあると思うんだけど……女学生時代に毎朝通学時間一緒だった人とかかしらねぇ、それか映画の登場人物かも」
「そうかもしれませんね。
……そういえば、ノア様の時に前回の聖女様がいらしたのですよ。黒髪の若い美しい乙女だったとか」
エリザベスは、映画という言葉が全く何のことだか見当もつかなかったが、そんなことはおくびにも出さずに会話を続けた。知る必要があればその時聞けば良い のだった。
「そんな人見覚えあるわけないよねぇ、300年前でしょ、確か。まあ世の中には同じ顔が3人はいるって言うからねぇ」
ハナコはまた先を行く。2人もまた歩き始め、ついに絵の終わりまで来た。
「王様だ、今より若いね」
アースラン王の前で足を止めると千代子が言った。
「13年前に描かせたんです。即位した時のものです」
国王はまだ少し幼さが残るあどけない顔でこちらを見ている。
「カッコいいねぇ、こりゃ国民から大人気だろうね」
「そう願いたいですが、最近の国情では……」
千代子はエリザベスの方に振り向くと、目をまっすぐ見据えて言った。
「ベスちゃん。アースランちゃんがちゃんと国民に愛されるように、千代ちゃんは頑張るからね!」
まさかの国王までちゃん付けに一瞬呆気に取られたエリザベスは、フフフフと抑えきれない笑い声を立てた。
こんなに面白いのは何年ぶりだろう。
王妃としてできるだけ感情を表に出さないよう、感じないよう過ごしてきたが、千代子と一緒だとそのペースがかき乱されてしまうことをエリザベスは自覚せねばならなかった。
しかしそこに不快感はなく、むしろもっとその温もりが欲しいような気がしたのだ。




