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朝食会場からの帰り、千代子は廊下の肖像画を思う存分眺めることにした。
国王は仕事があるため、王妃がついて説明してくれることになった。
「スエラ国は今年で建国2026年になりますの」
「あらー、日本も今年は西暦2026年ですよ」
「不思議な偶然ですわね。我が国は初代国王、エドワード様が、魔物との領土争いに買ったところから始まったと言われています。その方がこちらです」
廊下の一番はじっこの一番目に飾られた肖像画は、黒いボサボサの髪にグレーの力強い目、意思の強そうな太眉にきゅっとひきしめられた真っ赤なたらこ唇が印象的だ。
昔いた八百屋の親父に似ている。お酒の飲み過ぎで死んだらしいが。
「気になる方がいらしたらご説明いたしますわ」
「ご丁寧にありがとうございます。
ところでエリザベスさん、ベスちゃんって呼んでもいい? 年寄りになると長い名前は舌を噛んじゃいそうで」
「え? ええ、もちろん構いませんわ……チヨコ様が良ければ」
「あーダメダメ! 私のことはチヨちゃん、ってさっき言いましたよ? 偉い人がチヨちゃんって呼んでくれないと、皆も私のことチヨちゃんって呼べないでしょう、だから、ね? それにあなたと仲良くなりたいし。
どうかしら、ベスちゃん」
王妃は明らかにとまどった表情を一瞬浮かべたが、
「分かりましたわ。チヨちゃん。これでよろしいかしら?」
「はーい、良く出来ました。ベスちゃんよろしくね」
良く出来ました、なんて褒め言葉は、王妃になって以来40年、聞いたことがない。エリザベス王妃の心の中でとまどいながらもくすぐったいような嬉しいような、長らく感じたことのない感情が芽生えた。
「ねぇねぇベスちゃんはどの国王様の顔が好き?」
「そうですね、わたくしはーー」
千代子はせっかくなのでガールズトークを楽しむ、というか、子どもほど離れた王妃と他に楽しめる話題が今のところ見つからないのだ。
国王の肖像画はうってつけだった。




