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「え、あたし? 知らないよ、覚えてないよそんなこと」
「うむ、それも仕方ない。千代子を元の世界に戻した時に、こちらの記憶は生きていく上で妨げになると思って封印したからな」
「ハナコが?」
「そう、私がだ。前回の聖女召喚の際、魔族と人間はお互いに協力したのだ。人間は元の世界に帰りたいという聖女の力にはなれなかったのでな、異世界と行き来できる私がお前を向こうに連れて帰ったのだ。
向こうの世界で私の姿は目立ちすぎるため、とりあえず犬に姿を変えた。大したことではないが後始末もあったのでな、誰かに姿を見られるのはまずかった。その時にはじめに見つかったのだ」
「お前がオスとは思わなかったからハナコと名付けたけど、結局ずっとハナコだったんだな」
「そうだな、股を確認すれば分かるものを迂闊ものよ。
ともかく私はその時にハナコという柴犬の姿になった。もちろんその時には千代子の記憶はまだ消してなかったので、千代子は苦笑いしていたぞ。向こうの世界は楽しかったので、一週間ほど遊んでから千代子の記憶を消して帰る予定だった。しかしーー」
「……その頃はじめちゃんが亡くなったのよね……」
「そうだ。千代子はすごい気落ちしていたな。魔族の私から見ても辛いほどだった。
だから私は千代子の記憶を消した後、はじめの魂をこちらに転生させたのだ」
「えっ、そんなことが出来るのか?!」今度はネルソンが大きな声を出した。
「出来る。何せ私は魔族の王だからな」
「え、もしや伝説の怪物……」
「お前らにはギャロットと呼ばれていたな。魔族での名はポチオだ」
「ポチじゃないか」ハディントンがボソッと突っ込んだが、ハナコもといポチオは無視した。
「ともかく、私ははじめの魂をこちらに記憶を持ったまま転生させた。聖女が何年後に必要になるかは分からないが、300年も経てばまた呼ばれることもあるだろう、その時に運が良ければまた千代子が呼ばれると思ってな」
「まあ、すごいロマンチック!」
アンナが目をキラキラさせはじめた。
「ともかく、転生したはじめに私はこの国に千代子が来たことがあること、記録が残っているはずだからそれを活かすよう伝えた。はじめはそれを承知し、私に千代子を頼むと言った」
「ずいぶんちゃんと覚えてるではないか、何が忘れただ」
「本当に忘れていたのだ、はじめ。お前をこちらに転生させるだけで相当な魔力を使った。人間の寿命などせいぜい100年だから、我が一族には100〜300年後には戻ると伝えた。そして千代子の元に戻ったとき、私は魔力を使い果たし自分が魔族であったことを忘れ、ハナコとして生きることになったのだ」
ハナコ(ポチオ)は感慨深そうに話したが、その場にいたその他全員が「えぇ、そんなことある?」という顔をしていた。
「じゃあハナコがチヨさんと一緒にここに転移してきたのは、あなたが元々この世界の生き物だからだったんですね」
「おそらくそうだろう」
「何故記憶を思い出したんだ?」
と今度はネルソンが尋ねた。
「元々ここに戻ってきた時に、不思議な違和感はあった。はじめの匂いを嗅いだ時も懐かしい気がしたしな。だが一番は、ルオンが私を魔術師でいっぱいの会議室に連れていったことだ。あそこは魔力が充満していたので、私の涸れ果てた魔力も急速に回復し、同時に記憶も甦ったのだ」
「なるほど……」
とルオンが頷く。
「あれ、もしかして、最近魔族の襲来が多いのは……」
「そろそろ約束の300年が経つので、部下達が私がいないか探しに来ていたのだろう」
(何と迷惑な……)とルオンは思ったが黙っていた。




