2 1度に沢山の名前は覚えられません
通された部屋は豪華な貴賓室だった。
千代子は意外と落ち着きながら、星光寺のキンキラ屏風に負けないくらい立派な部屋だなとあたりを観察した。
白いテーブルクロスがかけられた長い机の両端には五人ずつ人が座っている。
千代子がいるのはいわゆるお誕生日席である。
向かって左の自分に近いところから、さっき挨拶したアースラン王、その隣がベッピン奥さんでエリザベスというらしい、その隣、宰相、確かドーナッツとかいう名前、その隣、何とか大臣、長谷川一夫に似ている、最後、何とか大臣、こっちはちょっとエノケン似。
次、右側、一番近いのが命の恩人ネルソン、クラークゲーブル似、その隣、ネルソンの部下、アーサー、その隣、更にその部下三名、顔がほぼ同じで見分けがつかない上に、最近記憶力が落ちてきた千代子には一度に全員の名前を覚えるのは不可能だった。
「全く年を取ると嫌ぁね、なんでも聞いたそばから忘れちゃうんだから。とりあえず名前が覚えられなかった人は似てる人の名前で呼ぶしかないか」と、膝に乗せたハナコをなでながら千代子が考えていると、「それで、聖女様のお名前を伺ってもよろしいでしょうか」と国王が聞いてきた。
千代子は立ち上がると、「神戸千代子です、命を助けて頂きありがとうございました。
こっちのシバはハナコって言います」と挨拶した。
「カンベチヨコ様、度々ですがこの世界にいらして頂きありがとうございます。早速ですが良ければお召し上がりください」
目の前には色とりどりの、美しく盛られたお菓子やフルーツが並んでいる。
侍女が来て紅茶を注いでくれた。
「美味しそうなお菓子がたくさんだねぇハナコ。
ハナコも食べられるもの、あるかなぁ?」
千代子はハナコを抱っこしながら遠慮せずにクッキーに手を伸ばした。
「ハナコ様には良ければこちらを」
銀食器に盛られたフルーツが運ばれてきたので、ハナコは千代子の足元でお相伴となった。
「んー、この紅茶、飲んだことのない不思議な味がしますね、美味しい」
「ありがとうございます。そちらは我が国の特産品、リモーヌという果物を使った紅茶でして」
エリザベス王妃がにこやかに教えてくれる。
「このクッキーもおいしいですねぇ、手が止まりません。あんこもちを食べ損ねたので、こんなに美味しいものを出して頂いてありがたいです」
千代子もニコニコしながら言った。
「ところで、何か私に助けて欲しいとか言ってましたけど、お役に立てるか。見ての通りですので」
「それなんです!」と国王が前のめり気味に話そうとした。
「陛下、落ち着いてください」
宰相が声をかける。
「う、うむ、そうだな。説明はドナッティ、お前から頼む」
(ドーナッツじゃなかったか、えーとドーナッテ? ダメだわ、何か違う)
ドーナッテ、もといドナッティは立ち上がると、千代子に向けて話し始めた。




