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割りとすぐにネルソンがルオンと一緒に来た。
「お待たせしましたチヨコ様、ハディントン様がお呼びとか?」
「ええ、舞に使う楽器があるみたいなの。それに曲もあのおじいさんが知ってるわ」
「なんと……! 楽器室には繊細な楽器もあるためハナコ……様はその間軽食でもとって頂こうかとルオンを連れてきたのですが。よろしいですか?」
「ハナコはハナコでいいのよ、私もチヨちゃんでいいからね。
ハナコおやつくれるって、ルオンさんと二人で行ける?」
「ワンワンッ」
「あらそう、えらいわね! 美味しいもの食べてらっしゃい」
「それじゃハナちゃんお預かりしますね」
ヒョイッとルオンはハナコを抱っこする。ハナコはルオンの顔をペロペロとなめはじめた。
「なんだーなめるなよぉ、俺もお前が大好きだよ〜」
と言いながら、では戻ります、と体を浮かせて階段を上がっていった。
「あんれまあ〜、あの人、浮かんでたよ?」
「魔法ですね。階段を走って上るよりは楽なので」
ネルソンが説明する。
「我々は前国王様の元へ急ぎましょう」
三人が急いで楽器室に戻ると、ハディントンが他に2人連れて楽器を音楽室に運んでいた。
「やあネルソン、昨日ぶりだな。今日はかなり面白いものが見られると思うぞ」
「ご機嫌うるわしう、ハディントン様。
だいぶ変わった楽器ですね。こちらは太鼓でこちらは小さいシンバルといったところですかな?」
千代子には見慣れた楽器であるが、この国の人達には物珍しいもののようである。
「お前たち、さっき話した通りだ。大体でいい、合わせるぞ。とりあえずまずは聞いてくれ」
ハディントンが笛を吹きはじめると他の二人がそれに合わせて楽器を鳴らし始めた。力強く、体の奥底から生命力がわいてくるようだ。
ひとしきり演奏が終わるとハディントンは肩で息をしながらどうだった、と聞いた。
千代子は驚いていた。
ほぼ完璧に晴れ乞いの舞の神楽だったからだ。
「細かいところの修正は必要ですが、ほぼ問題ありません。300年前? の神楽がこんなにきちんと残っているなんて、ビックリしましたよ」
「そうだろう、なんせこの楽譜だって我が国のものとは全く違うからな、ご先祖様はこの神楽を違わずに残すのに腐心されたと思う。雨乞いの神楽も、豊作祈念の神楽も残っておる!」
と、いうことは、少なくとも今この国が直面している天候問題については少なくとも奉納舞ができるということだ。
「素晴らしいですね! 私の肩があがるようになったらすぐにでも舞を奉納しましょう!」
千代子としては神楽についてはほぼ諦めていたので、ここで神楽が完璧に演奏できることは想定外だった。
だから音楽はそれなりの雰囲気で合わせてもらえればいいと思っていたのだが、やはりきちんとした神楽があるのとないのとでは神へ届く祈りの力も違ってくるだろう。
昔、たくさん練習した時のことが思い出され懐かしくなってくる。
「なんだ肩があがらんのか。腰も膝も痛いんじゃないのか? そんなことで舞が踊れるのか?」
感傷に浸る気持ちを余計な一言が邪魔してくる。
「肩だけです。毎日マッサージして動かしてたら、動きます」
「肩は我々が癒しの魔法で少し軽くすることができますので」
「ついでに儂の腰もよろしく頼む」
ちゃっかりハディントンが口を挟む。
いちいちうるさい男だな、と千代子は思うが、昔仲が良かった男の子のことを思い出して嫌いにはなりきれない。
その子は流行り病で16で亡くなってしまったのだ。
それでーー
それで?
今、何を考えかけたのだろう、思考はどこかへふっと飛んでいってしまった。こうなったら戻ってこない。
まあ気にすることはない、どうせ今は関係のない話なのだから。




