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「この廊下を真っ直ぐ行きますと今朝、朝食を召し上がられた食堂です。食堂の向かいには談話室が5月いまして、食後こちらで皆様が歓談されることもございます」
アンナは動きの遅い千代子のペースに合わせて歩いてくれる。
時々稲光が窓から差し込んでくるが、城の作りがしっかりしており雨音はそこまで気にならない。
「そしてこの上には図書館がございますが……階段は大丈夫ですか?」
「ええありがとう。手すりを使ってゆっくり歩けば大丈夫なのよ」
ハナコはあちこちパトロールに忙しい。
そこかしこの匂いを嗅いで回っている。
階段の上から誰かが降りてきた。見たことある気がする。
「おはようございます、聖女様! と……チヨコ様とお呼びするべきでしたね」
「おはようございます」
千代子はゆっくり丁寧にお辞儀をすると、
「確か昨日お会いしたかしら」
「ええ、そうです。魔法局に所属しているリオンです」
「ああ! えーっと……アーサーさん? の隣に座っていた方よね?」
「隣はレオンですね。その隣に座っておりました。
僕たち顔が似ているのでなかなか見分けがつかないかもしれませんが、レオンは髪が肩くらいまでで瞳の色が緑、僕は髪が短くて青なんです。もう一人、一番端に座っていたのがルオンで、彼は髪が長いのと耳が僕らよりも大きいので、それで区別して頂くのがいいかと」
「あらあらこんがらがりそう……えっとあなたが……」
「リオンです。間違えても大丈夫ですよ、皆間違えるので」
リオンは笑いながら言った。
上からもう一人同じ顔が降りてきた。長い髪を三つ編みにしているので、ルオンだろう。
「おはようございます、チヨさん」
ルオンの方はだいぶ気さくな性格らしい。
「おはようございます」
「図書館に行かれるのですか? 王宮の図書館はすごいですよ! ありとあらゆる本がそろってますから」
ハナコがしきりにリオンとルオンの匂いを嗅ぐ。
「わっ! かわいいな。触っても大丈夫ですか?」
「ハナコって言うのよ、撫でてあげて大丈夫よ」
リオンとルオンはハナコの顔をわしゃわしゃと撫でた。
「君は何て言う生き物なんだい? 聖女様の世界にいる生き物なんだね……うわっ」
顔を近づけすぎたリオンの鼻を、ハナコがペロペロと舐めたのだ。
「あらあら、ハナコはあなた達が好きになったみたいね。好きな人の顔をなめるのよ」
「そうなんですね、顔をなめられるのはちょっとごめんだな」
リオンは鼻を左手で拭きながら苦笑いして言った。
「ところで図書館に行かれるなら案内を…」
ドオオン!!
近くで雷が落ちたようで、ルオンの発言を遮るように大きな音がした。
「すごいですね……こんな状態が何ヵ月も?」
「そうですね、大体3ヶ月ごとに豪雨と干魃が繰り返されています」
「リオン様、ルオン様!」
そこへ若い男が慌てた様子で走ってきた。
「西のザイオン地域にあるカイラ川の上流で大きな土砂崩れが起きたようで、対策本部を立ち上げるので急いで来るようにとのことです!」
「またか……! キリがないな、ともかく急ごう。
すみませんチヨさん、図書館案内はまた今度に」
「いいえ、急いで行ってくださいね」
ルオンとリオンは迎えに来た男と小走りで階段を降りてどこかへ向かっていった。
「このお城は頑丈だからいいけれど、庶民の方達は大変じゃない?」
「はい、なので魔法局の方が地域の主要な建物に強化魔法をかけ、家屋が脆弱な方々には避難してもらっているんです」
なんとしても早く雨を止まさせてあげたいと千代子は思った。
「アンちゃん、音楽室はあるのかしら、楽器が見たいのだけれど」
「はい、では先に楽器室にご案内いたしますね」
巫女舞において神楽は舞と一心同体、切り離せないものである。
舞踊る巫女の祈りを、音が支え強め天の神に届けるのだ。
「足元にお気をつけくださいね」
アンナはランプを掲げながら言った。
「晴れていればお城の中ももっと明るいのですけれど……」
「こんな雨ですもの、仕方ないわ」
何度か道を曲がって楽器室にたどり着いたが、千代子は絶対に誰かに案内してもらわないと迷うと確信した。
楽器室の前に着き、ドアを開けようとして千代子ははたと思い止まった。
「そういえば、勝手に楽器を見せてもらっても大丈夫かしら。許可はいらないのかな」
「そうですね、見るだけならば問題はないかと。
触れてはいけないものもあるそうですので、後で確認すれば良いのではないでしょうか」
そうね、と千代子はドアを開けた。すると笛の音が響いてきた。
(すごい防音機能だわ)と思うと同時に、聞こえてきた笛のメロディに耳をすませると驚いた。
「あんれまあ! これは晴れ乞いの神楽曲!」




