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異世界カルコサの魔女回路・理不尽にTS美少女にされた俺、魔女都市の娼館での特訓の末、魔法を駆使し成り上がる!過酷な世界に抗うダークファンタジー  作者: あさなゆうなぎ
第1章 チートもハーレムもない世界

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第79話 途絶の好機

「え……?うそ……アザレアっち、こんな時、冗談は……」


 クティラの声が、震えながら救護室の冷たい空気に溶けていく。


 ベッドの上のサキの身体は、完全にその生体反応を止めていた。

 上下していた薄い胸元はピタリと静止し、死の沈黙が彼女を包み込み始めている。


「嘘じゃないのっ!!クティラ!こんな時にそんなこと言うわけないでしょ!!」


 アザレアは自身の両手をサキの胸元にかざしたまま、大粒の涙を床にこぼして叫び返した。


「アザレア……う、うそでしょ……?お姉様が……?」

 ルクレツィアが、信じられないというように自身の口元を両手で覆う。


「嘘じゃないのよ!!こんな時に嘘なんて言うわけないでしょう!!」


「サキっち、サキっち……!」


 クティラが弾かれたようにベッドの傍らへと駆け寄り、サキの青ざめた頬に手を伸ばした。


「ああっ……サキっち、冷たい。冷たくなってる……!なんで!なんでよぉー!」


「お姉様……目を開けてくださいな……っ。目を開けて、わたくしのマスコットの、感想を聞かせて、くださいな……」


 ルクレツィアもベッドにすがりつき、大粒の涙をシーツに染み込ませて泣き崩れた。

 サキの、完全に命の灯火が消え失せた身体。そのあまりにも残酷な現実を前に、二人の哀しみの涙は、瞬時に煮え繰り返るような怒りへと変貌していった。


「ゆるさない……ゆるさない!!!! ハイパーボリアの奴ら!!!」


 クティラが顔を上げた。その青い瞳は怒りで不気味な緋色へと染まり、背後からうねり出た無数の青い触手たちが、みるみるうちに巨大化していく。


 ふかふかとしていた触手の表面は、激しい怒りのマナを帯びて、禍々しい赤色へと変色していった。


「クティラ、奴らのところ、今すぐ乗り込む!やつら全員、バラバラに引き裂いて皆殺しにする!!」


「わたくしも行きますわ!奴らを一人として生かしてはおけませんわ!生きながら魔女回路を無理矢理埋め込んで、わたくしの針と糸で、永久に地獄の苦しみを与え続けてやります!!」


 ルクレツィアの吊り目が、狂気的なまでの復讐心にギラギラと輝く。


 救護室の空気が、二人の放出する荒れ狂うマナによって物理的に軋み出した、その瞬間だった。


「二人とも、落ち着きなさい!!」


 ユカリの張り詰めた鋭い一喝が、部屋の窓ガラスをビリビリと震わせた。

 みるとユカリはまだサキへ、光を当てている。


「だって!ユカリ様、クティラの大好きなサキっちが死んじゃったんだよ……っ!」


「そうですわ!わたくしにとっても、かけがえのない大切なお姉様なのですわ!!」


「だから、落ち着きなさいと言っているでしょう!」


 ユカリは冷徹な魔眼を鋭く光らせ、取り乱す二人を射すように見据えた。


「今、サキの心臓は止まっているのよ」


「それはクティラも分かってる!だから、怒ってるの!」


「違うのよ。……クティラ、ルクレツィア、落ち着いて聞きなさい」


 ユカリは涙を流すルクレツィアの肩を強く掴み、その顔を覗き込んだ。

「ユカリ様……?どうなされたのですか?心臓が止まったということは……もう、お姉様は手遅れです……」


「違うわ。心臓が止まっている『今』だからこそ、サキの心臓を完全に浄化出来るのよ」


「え……?」


 アザレアが呆然と目を見開く。

「今までは、心臓が動くたびに莫大なマナが放出され、それが呪いと混ざって再汚染を繰り返していたの。でも、心臓が止まった今なら、新たなマナは供給されない。つまり、汚染マナの逆流も再汚染も起きないのよ!今なら、心臓そのものに溜まった呪いを、ピンポイントで一気に浄化し尽くせる!」


 ユカリの逆転の発想に、アザレアはハッとして息を呑んだ。

「アザレア、ほんの少しの休憩しかあげられなかったけど……申し訳ないけれど、あと一踏ん張りお願い!その間に、私は残りの全身の回路を浄化するわ!」


「でも……一度止まってしまった心臓は、どうするのですか!?」


「私に考えがあるわ!でも、長く止まったままでいれば、肉体は完全に壊死して二度と動かなくなる。猶予はほんの数分よ。だから急いで浄化を終わらせなさい!心臓が止まってマナが出ない、この僅かな時間しかないのよ!」


 ユカリの絶対的な確信に満ちた声が、全員の心に希望の火を灯した。

「――はいっ! やります!!」


 アザレアは涙を乱暴に拭うと、再びサキの胸元へと両手をかざした。限界を超えた肉体から、最後の、乾きかけたマナを絞り出してサキの心臓の浄化を開始する。


「クティラ、ルクレツィア、あなたたちも手伝いなさい!今のサキは体内のマナが極限まで減っているから、あなたたちの魔力でも十分に干渉できる!1秒でも早く、全身から呪いを浄化し尽くすのよ!クティラは、サキの頭を冷やして!以前、氷河に落ちて心臓がしばらく止まっても、無事に生還したという話を聞いたことがあるから!」


「うん、分かった!!」

「承知いたしましたわ!!」


 泣き崩れていた二人はユカリの命令にすぐさま飛びつき、最大の浄化マナをサキの身体へと流し込み始めた。


 クティラは、触手でサキの頭部を包み込み、イタカ(冷気の魔術)で冷やす。


 救護室の壁に掛けられた魔法時計の針が、非情な音を立ててコチコチと刻まれていく。ユカリはその文字盤を魔眼で凝視し、サキの心臓停止からの経過時間を秒単位で測りながら、自身のマナを限界まで高めて全身の汚れた経路を焼き払っていく。


 サキの白い肌の奥で、ルクレツィアの描いた赤い呪詛の経路が、魔女達の圧倒的な浄化の光によって、外側から、そして内側から急速に消滅していく。


やがて――。


「ユカリ様……!心臓の浄化、完了、いたしました……!」


 アザレアがそう告げると同時に、その瞳から完全に光が消え、糸が切れたように床へと崩れ落ちた。マナを完全に使い果たしたのだ。


「アザレアっち! お疲れ様、クティラの触手ちゃんで休んでて!」


 クティラは素早く、サキを冷やしている別の触手で、アザレアの身体を優しく包み込み、ベッドの脇の椅子へとそっと運んだ。


「わたくしも終わりましたわ!これで回路の隅々まで、汚れは一切残っておりませんわ!」


「サキっちの頭、しっかり冷えてる」


「よし……!これで全身から呪いは完全に排除できたわね!」


 ユカリは額の汗を拭うことなく、鋭く呟いた。

 サキの身体を蝕んでいた『イエロー・サイン・レイ』の黒い魔力は、これで綺麗に消滅したはずだ。


しかし、肝心のサキの心臓は、未だに不気味なほどの静寂を保ったまま停止している。


「でも、ユカリ様……浄化しても、心臓は、止まったままですわ……」


 ルクレツィアが不安そうにサキの胸元を見つめる。 ユカリはサキの傍らに立ち、決然とした表情で言い放った。


「クラエノ(雷の魔法)は、敵の心臓を一撃で止めることができるわよね?」


「ええ……。高電圧の刺激は、心臓の脈動を狂わせ、停止させますわ」


「ならば、その逆も然りよ。止まった心臓に、適切な強さの刺激を直接与えることで、再び動かすこともできるはず。昔、読んだ古代の魔導書(辞書)にそう書いてあったわ」


 かつてサキのいた現代世界でいう『電気ショック』の概念。ユカリはそれを、自身の雷撃魔法を応用して再現しようとしていたのだ。


「けれど、ある程度大きな衝撃を与えなければいけないし、術式の強さをほんの少しでも誤れば、心臓の組織を完全に焼き焦がしてしまう。……極めて精密なコントロールが必要よ。あなたたちには危なすぎるから、今すぐ部屋の外へ出なさい」


「ユカリ様……!」


「早く出なさい。もう、時間が無いのよ!」


 ユカリの気迫に押され、クティラとルクレツィアは、気絶したアザレアを抱えながら、すぐさま救護室の外へと退避した。


 バタン、と重厚な扉が閉まり、室内にはサキとユカリの二人だけが残される。


「よし……サキ。絶対に引き戻してあげるからね」


 ユカリはベッドの上のサキを凝視し、右手の指先をその胸元へ、心臓の神経の特定の位置へとピンポイントで向けた。肉体を焦がさず、しかし心筋を確実に跳ね上げさせる、極限まで調整された精密な『クラエノ』の電流。


「――クラエノ」


 バチッ!!


 サキの身体がベッドの上で大きく一度、跳ね上がった。

 しかし、脈動は戻らない。


「もう一度!――クラエノ!」


 バチッ!!


 二度目。それでもサキは動かない。


「お願い……戻ってきなさい! ――クラエノ!」


 三度目の火花。跳ね上がったサキの身体が、空しくシーツの上へと沈み込む。依然として、心臓は沈黙したままだ。


「くっ……!ならば、物理的な刺激を!」


 ユカリは躊躇うことなくベッドに上がり、サキの身体を跨ぐようにしてその上に乗った。 そして、重ねた両手をサキの胸骨の真上へと置き、己の体重をかけて強く、規則正しく何度も何度も押し下げた。現代日本でいうところの「胸骨圧迫(心臓マッサージ)」を、我流で必死に行い始めたのだ。


「お願い、サキ!戻ってきて……!」


 押し、押し、圧迫を繰り返す。 それでもサキの顔色は土気色のままだ。 ユカリはサキの顎を大きく持ち上げると、自身の唇を、サキの冷たくなりかけた唇へと強く重ね合わせた。


(サキ!戻ってきなさい!)


 自身の肺に溜まった空気を送り込むと同時に、ユカリ自身の純粋なマナを、サキの喉を通して体内の回路へと直接、大量に注ぎ込んでいく。


(私は、あなたを生かす義務があるのよ!あなたをこの世界へ引きずり込み、魔女の運命に巻き込んでしまった、私の罪の贖いでもあるの……!だからお願い!帰ってきて!お願いだから……!)


 ユカリは顔を上げ、再び狂ったように胸の圧迫を繰り返した。

「サキ!帰ってきて!帰ってきなさい……っ!」


 再び唇を重ね、自身の生命力そのものであるマナをサキの体内へと注ぎ込み続ける。その刹那、ユカリの魔眼は捉えた。

 

 サキの心臓の奥底、完全に浄化しきれず、細胞のさらに深部にこびり付いていた『イエロー・サイン』の、極小の「呪いの源(オリジン)」が、サキの息が吹き返るのを邪魔しているのを。


「これは……っ。なら、私が……!」


 ユカリは躊躇わずに、今度はマナの吸引を行い、サキの体内の呪いの源を、自身の身体へと強引に吸い出し、引き取ってしまった。


 邪悪な毒素がユカリの口内を通り、彼女自身の体内へと侵入していく。


 内臓を灼かれるような激痛がユカリを襲ったが、彼女は眉一つ動かさず、ただ必死にサキにマナを送り続けた。


(あなたは……私の後を継げる子。だから、私の命があるうちに、あなたを一人前にしなければいけないの)


 ユカリは心の中で、誰にも聞かせることのない独白を紡ぐ。

(だから……ごめんなさい、今まであなたに、あんなに冷たく当たってしまって……。あなたには少しでも早く私を、追い越して欲しかった。……あなたを、初めて異世界から召喚して見つけた、あの最初の日から、私は……)


 ドクン。


 その時、ユカリの手のひらの下で、サキの心臓がかすかに震えた。


「――っ!」


 ドクン、ドクン……!


 徐々に、しかし確実に、鼓動が大きくなっていく。サキの青ざめていた顔に、みるみるうちに赤みが差し、体内の魔女回路にユカリから分け与えられた温かなマナが、力強く巡り始めた。


 すぐに魔術でサキの心臓が止まっていた時間を確認する優花里。

「……はぁ、はあ……っ。この時間なら、だいじょう……ぶ……よか、った……うっ!」


 安堵の言葉を絞り出すと同時に、極限の魔力欠乏と、サキから吸い取ってしまった『呪いの源』の激痛がユカリの肉体を襲った。


 視界が急激に暗転していく。


 ユカリはそのまま力尽き、サキの胸の上へと、そっと倒れ伏して意識を失うのだった。

再び動き出したサキの心臓。

今回は、話が長くなったので長時間に思われるかもしれませんが、サキの心臓が止まっていた時間は2,3分なので、現実でも蘇生可能な時間です。

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