第77話 刻印
救護室へ入ると、クティラはベッドへ、サキの身体をそっと降ろした。
「『黄衣の刻印』は、まずどこから体内へ侵入したのか、その場所を確認しないといけないわね。アザレア、クティラ、サキの服を脱がせて!」
ユカリの鋭い指示が飛び、救護室に控えていたアザレアとクティラが迅速に動く。
その間にユカリは、呪いの侵入場所を特定するための高度な探索術式を編み始めた。
アザレアたちの手によってボロボロの衣服が手際よく脱がされ、サキが全裸の状態でベッドに横たわる。
同時に、ユカリの双眸の魔眼が怪しく、妖艶な黄色に光りだした。
ユカリはサキの白い肌へと顔を近づけ、頭の先からつま先まで、身体全体をじっくりと見回していく。
「刺入口は……ここね」
ユカリの視線が、サキの左足の太ももの裏側で止まった。
細い指先でそこを指差すと、右手に持った魔導ペンで小さくマーキングをする。その後も念のために全身をくまなく見回すが、呪いの刺入口はその一ヶ所だけだった。
ユカリは探索の術式を解くと、今度は後ろに控えていたルクレツィアへと視線を向けた。
「ルクレツィア、あなたの魔女回路の同調能力で、その刺入口から心臓までの呪いの経路を辿りなさい」
「はい、ユカリ様!」
ルクレツィアは緊張の面持ちでベッドへと近づき、サキの太ももの刺入口から心臓へと向けて、そっと両手をかざした。
ルクレツィアの指先から極薄のマナが放たれ、サキの体内の回路を探っていく。しばらくの間、静寂のなかで集中していたルクレツィアが、ふっと顔を上げた。
「ユカリ様、呪いの経路が分かりましたわ」
「ありがとう。じゃあ、ここに書き出してくれるかしら」
ユカリが差し出したのは、一枚の真っ白な羊皮紙だった。ルクレツィアはそれを受け取ると、魔導ペンへと自身の思念を深く送り込む。
すると、ペンはまるで意思を持ったかのようにひとりでに羊皮紙の上を走り出し、サキの全身の魔女回路のうち、邪悪な呪いに侵されてしまった経路を鮮やかな赤い線で緻密に描き出していった。
浮かび上がった赤い回路の図を、ユカリとアザレアが険しい表情で見つめる。
「思ったよりも全身の回路へ呪いが回っているわね、アザレア、癒しの魔法はあなたが得意だから、あなたがサキの心臓の浄化をお願い。私はこの赤く染まった経路を外側から一気に浄化するわ」
「ユカリ様。サキさんの心臓、必ずやお守りいたします」
アザレアが静かに、しかし力強く頷いた。
ユカリはクティラとルクレツィアを振り返る。
「クティラ、ルクレツィア、案内ありがとう。ここからは二人で限界まで集中して浄化術式を編むから……部屋の外で待っていてくれていて、いいわよ」
しかし、二人はその場を動こうとはしなかった。クティラは大きな瞳からぽろぽろと涙を流しながら、必死に訴えかける。
「クティラ、おとなしく見てる……。だから、ここでサキ、見ていたい……」
「わたくしも、静かに見守っておりますので……どうかここにいることを、お許しください。お願いいたしますわ」
サキを深く大切に想う二人の強い眼差しに、ユカリは一瞬だけ表情を和らげた。
「……分かったわ。二人とも、ここにいていいわよ。ただし、絶対に声を上げたり術式の邪魔をしたりしないこと。お願いね」
「うん!」
「ありがとうございます……!」と、二人が静かに頷くのを見届け、アザレアは同時に息を呑むようなユカリは、莫大なマナを引き上げ始めた。
サキの命を繋ぎ止めるための、夜を徹した過酷な浄化の儀式が始まろうとしていた。
緊迫の浄化の儀式が始まります。
魔術と呪いはこの世界では別物なので、魔術とは違い、呪いは浄化が必要なのです。




