第71話 元男性のプライド
その日の夕方。特訓室の中には、幾度となくエルダの雷撃に破られ、満身創痍の姿で床に膝をつくサキの姿があった。
その都度、覚えたての『ノーデンス』で必死に治癒を行ってはいるものの、電撃による肉体的・精神的な疲労とダメージは、確実にサキの身体の奥底へ蓄積していった。
呼吸が浅く、マナの残量も底を突きかけている。
もう、サキは声を発することも出来ないほどに、ボロボロになって横たわっていた。
見かねたエルダが、流石にサキを気の毒に思ったようで、ユカリの方を振り返って許可を求めた。
「ユカリ様、本日はここまで、でよろしいでしょうか?」
「そうね、今日はこれ以上訓練をしても意味がないわね」
ユカリの冷淡な言葉に、サキは心の中で毒づく。
(同情じゃなくて、ただの特訓の効率だけかよ……。本当に冷血ドS魔女だな……)
「そんなの当たり前でしょ? あなたは私の貴重な時間を浪費しているのだから」
(チッ、ドS魔女が、即座に心を読みやがって!)
しかし、このユカリのあまりに容赦のない態度には、周囲の二人も、さすがに黙っていられなかった。
「ユカリ様、さすがにそれ、サキっち可哀想」
「そうですわね、ユカリ様。わたくしも以前から拝見しておりますが、サキお姉様に、少々当たりがきついのではないかと」
クティラと、ルクレツィアの言葉に、ユカリは一瞬だけ驚いたように目を見開いた。しかし、すぐにいつもの冷静な、鉄の表情へと戻る。
「二人が言いたいことは分かるわ。でもね、この子は一日でも早く、ウルを目覚めさせたい、攻撃と防御の両方を極めたいと言っているし、マナの生成量は我が国でも上位に入るの。それなのに、全くその力を使いこなせていないのよ」
ユカリはサキを一瞥し、さらに言葉を続けた。
「だから、男達に分けている無駄なマナの消費を少しでも早く抑えて、役に立つ魔女にしないといけないの。それに……この子はハイパーボリアから狙われているしね」
その言葉に、サキは返す言葉もなかった。
昨日、救療院でやっとノーデンスを使って、人の役に立つ喜びを知ったばかりだというのに、結局それ以外の部分では、自分は周りに迷惑をかけてばかりの、守られるだけの存在なのだ。
サキは唇を噛み締め、ゆっくりと立ち上がった。
「クティラ、ルクレツィア、ありがとう。……ユカリ様、エルダさん、もう少し訓練をお願いします」
自分を庇ってくれた二人への感謝を胸に、サキは自ら志願した。
その覚悟の言葉を聞き、ユカリの唇がニヤリと吊り上がる。
「エルダ、申し訳ないけれど、今日はもう少しだけ、この子の訓練に付き合ってもらえないかしら」
「承知いたしました、ユカリ様。それではサキさん、エルダー・シグナのご準備を」
エルダが再び間合いを取り、構え直す。
(くそ!このまま、みっともなく、床にへばりついたままで終わらせられるかよ!)
元男性としてのプライド、そしてここでの執念がサキの魔女回路を突き動かす。
サキはありったけの力を込め、目の前に魔法障壁を展開した。
「ほう、少し障壁が透明になりましたね」
エルダがその変化を敏感に察知すると同時に、再びその指先をサキへと向け、鋭い雷撃を発した。
空気を引き裂く青白い光が、サキの張った障壁へとまっすぐにぶつかり――。
「ぎゃああああ――っ!?」
「サキっち!!」
「お姉様っ!!」
鼓膜を揺らす爆音と共に、サキは本日何度目か分からない強烈な電撃を浴び、再び床へと転がった。
全身から煙が出そうなほどの痺れの中、サキは涙目で心の中で絶叫する。
(う、嘘だろ……!?普通、こういう覚悟を決めた熱い展開の時って、魔法が奇跡的に成功するもんじゃないのかよ……ッ!?)
現実はアニメのように甘くはなかった。
駆け寄ってきたエルダが、すまなそうにサキを見下ろす。
「サキさん、申し訳ございませんが、まだまだです。ただ、朝の最初の一撃の時よりは、少し魔法が良くなってはいます」
「よ、喜んで良いのか、どうなんだか……。結局、失敗だし……」
痺れる身体を這わせながら、サキは弱々しく呟いた。
そこに、ユカリの容赦のない追撃の声が降ってくる。
「ふふ、いい経験じゃない。今日はもう何回か、痛い目を見て終わりましょうか」
(く、くそ……今に見てろよ……!)
サキは床を強く握り締め、心の中で逆襲を誓いながら、再び身体を包むノーデンスの淡い緑の光を必死に練り上げるのだった。
ドSの優花里の言葉にも諦めないサキの心。
一筋縄では行かないこの世界で、この折れない心は、いつか花開く、と思います。




