第66話 玉座の双影
「ユカリ様がそこまで言うお方なんだ。相当すごい人なんですね!」
「そんなの当たり前よ!この国の主柱となられるお方なのだから」
ユカリの口調に、一切の妥協はなかった。
魔女の頂点に立つ彼女が、心底から敬愛する存在。
女王とはいえ、どれだけの人物であるのか、サキには知る由もない。
馬車を降りると、そこには赤絨毯がどこまでも伸びる、荘厳な廊下が続いていた。
そして、その廊下の両脇には、武装した魔女の衛兵がずらりと並び、独特の圧迫感で侵入者を威圧する。
(はえ〜!完全になろう系異世界の王宮だよ〜!)
思わず辺りを見回すサキ。
「サキ、キョロキョロしないで。はしたないわよ」
「は、はい……」
突き当たりの巨大な扉の前で、ユカリが足を止めた。
「さあ、ここが謁見の間よ。頭を上げて良いとのお言葉があるまで、ご尊顔を拝見しないように、私と同じ様に、かしずくのよ」
「は、はい……」
喉が渇く。人生初の王様(女王)との対面。
異世界アニメに、冒険RPGゲームの知識を総動員し、なんとか粗相のないよう努めなければならない。
扉が開かれ、サキはユカリの先導で奥へと進み、冷たい床に深く平伏した。
しばらくして、平伏している先の方で、重々しく扉が開き、コツコツと歩いてくる気配がし、椅子座る音がした。
「わざわざご足労をおかけしました。本日は、よくぞこちらに来てくださいましたね。異世界からのお客様であるサキ様。ずっとお会いしたいと思っていました」
優しく、それでいて空間全体を震わせるような、気品ある声が響く。
(ん……?)
「元は男性でございましたのに、わたくしどもの勝手な都合で、女性となってしまい、大変なご苦労をおかけしてしまいました。大変申し訳ありません。伏してお詫び申し上げます」
「は、はい!ありがたき幸せ!」
(……って言い方で良かったんだよな、確か……)
頭の中でアニメ、ゲームの台詞を必死に再生し、なんとか無難な返答を捻り出す。
だが、床に伏せながらサキは違和感を覚えていた。
(あれ?なんだか……)
その違和感を追求する間もなく、女王の声が続く。
「サキ様、あなたの横に控えているユカリは、その様なご苦労をおかけしたあなた様に、日々優しく接してくれていますか?」
(うっ……!こ、これはどう答えたらいいんだ?!)
究極の選択の質問だ。間違った回答をすれば、ユカリによって命が無くなる可能性が高い。
サキの脳内警報が再大音量で鳴り響く。
正直に「いや〜、毎日鬼の様に厳し過ぎて、全く心の休まる暇もありません、いつも酷い目に遭ってるんです。もっと優しい訓練係と交代してください!」と、本音を訴えれば待遇が改善するかもしれない。
希望通り、訓練の担当を優しい魔女へと、替えてくれるかもしれない。
サキが恐る恐る視線を横に投げると、そこには横目で人間を視線で射殺せんとするほどの、恐ろしく冷徹な眼差しで、こちらを睨みつける、ユカリの姿があった。
「ひっ!!」
(あ、ダメだ……これ、正直に言うと、私の首から上が無くなるやつだ……!)
ここは日和るしかなかった。
サキは心の中で血の涙を流しながら、最大限の演技で声を震わせる。
「は、はい。ユ、ユユユカリ様には、や、ややや優しく、せ、せせ接して、いいい頂いておりますっ!」
「本当に?ふふっ」
「へ?」
女王が小さく笑った気がした。
「顔をお上げください、サキ様」
促されるまま、サキがゆっくりと顔を上げる。
その瞬間、彼女は脳が沸騰するような光景を目撃した。
目の前の玉座には、これまで一度も見たことがない、花が咲き乱れるような満面の笑みを浮かべるユカリが座っている。
(あ、あれ?ユカリ?!いつの間にそっちに!?瞬間移動魔法?え、この鬼魔女が女王……?)
パニックに陥り、慌てて横を向く。
そこには、変わらず先ほどまでの冷たい視線で、こちらを射抜くユカリが控えており、小声で告げてきた。
「陛下に向かって、なにを馬鹿な事を」
(しまったー!また心を読まれた!!)
「サキ様、私の双子の妹、ユカリ=カシルダ=ルウ=セラーノが、お世話になっております」
首を傾げてニッコリと微笑む、玉座に座る女性。
それはどう見ても、横にいるユカリと、瓜二つの顔を持つ女性。
ユリ=カシルダ=ルウ=セラーノ女王だった。
サキの思考が完全に停止した。
地獄のような訓練の元凶と、国の最高権力者が、血の繋がった双子の姉妹であった。
(な、なんで?パッと見、この二人、正反対っぽいけど、本当に姉妹なの?顔は一緒だけど……)
明らかになったユリ女王、暖かな雰囲気ですが、いかに?




