第63話 三色の閃光
それからの1週間は、サキにとって地獄のような、しかし確実に己の身を削って糧とする過酷な日々となった。
これまでは『ケラエノ(雷)』と『クトゥグァ(炎)』の二属性を中心に、訓練を重ねてきたが、ユカリはサキの魔法の種類をさらに増やすべく、間髪入れずに次の試練を課したのだ。
「いい、サキ。『魔女回路』のバイパスをさらに広げなさい。次は『ヤディス(光)』の術式よ。これは、あなたの世界で言う、レーザーみたいなものね、遠くの敵を貫き通せる魔法よ」
ユカリの冷酷な指導のもとで、サキはマナを極限まで尖らせ、収束させる感覚を叩き込まれ続けた。
そして1週間の猛特訓の末、サキはついにそれを形にする。
「――ヤディス!」
サキが鋭く指先を突き出すと、そこからまるで、SF映画に登場するレーザーのような、一直線の眩い光線が放たれた。
光線は訓練場の分厚い的を狂いなく貫き、一瞬で融解させる。
出力を一点に集中させることで、速度と貫通力を爆発的に高めた実戦的な光魔法だった。
「まあまあね。それじゃあ来週からは、癒しの魔法を覚えるわよ」
(あ〜あ、癒しだったら、怖いこの人じゃなくて、早くウルちゃんを抱きしめたいよ〜)
「またいらない事を考えてるわね?癒しの前に、攻撃してあげようかしら?」
「ご、ごめんなさい!」
額の汗を拭うサキを見下ろし、ユカリはいつも通り淡々と告げた。
しかし、彼女の口から告げられた言葉は、サキにとって、思いもよらない言葉だった。
「その前に、魔女見習いになったあなたに、セラーノ王国の女王陛下が謁見して下さるわ」
「え?女王だって!?」
サキは思わず声を裏返した。
(ゲームやアニメだとここで、王様から依頼されて冒険に出るのがお約束だよな……。でも、この国の女王か……なんだかんだ言って、ユカリ様も含めて美人魔女の多い国だし、ちょっとは期待できるのかな……?へへへ)
ほんの一瞬、元アニオタの男としての邪念が脳裏をよぎった、その時だった。
「サキ。あなた、もう今は女性なのよ。まだ男性気分が抜けないのかしら?」
ユカリの紫の瞳が、凍りつくような冷たさを帯びてサキを射抜いた。
その綺麗な指先がパチパチと不穏なマナの光を放ち、サキの額へと向けられる。
「そういう変な男の気持ちが残っているなら、女王陛下に対して不敬だから、綺麗さっぱり全てを消去してあげようかしら?」
「ちょ、ちょっと待って!ユカリ様!私も命が惜しいから、女王様に変な事はしないし!変な気持ちも、持ちませんよ!!だから、記憶の消去だけはやめてくださいー!」
サキは血の気が引くのを感じながら、床に額を擦り付けんばかりの勢いで平身低頭した。
ユカリの「消去」が、冗談でも何でもなく、本当に脳の回路ごと焼き切られかねないことをサキは嫌というほど理解していた。
そんな必死なサキの横から、ぬっと触手を揺らしながらクティラが顔を覗かせる。
「サキっち、女の子好き?」
「ク、クティラ!そんなことは無いから!誤解だから!」
「じゃあサキっち、クティラは、女の子だから、私のこと、好きじゃない?」
「す、好きだけど!そういう気持ちじゃなくて〜!ああ〜!お願い!クティラ、話をややこしくしないでー!」
頭を抱えて絶叫するサキを見て、ルクレツィアは呆れたように小さくため息をつき、ユカリは指先の光を消すことなく、最後通牒のように冷たく言い放った。
「いい?くれぐれも、女王陛下に変な気や、不敬な行動は、絶対にやめるようにしなさいね。もしそんな事をしたら、あなたなんて、この世界から、私が塵も残らず消し去ってあげるから」
「は、はは……そんな事、する訳ないじゃないですか……」
セラーノ王国の女王との謁見。
どんなドタバタが繰り広げられるのでしょうか?




