第61話 ウルと魔女達
「ただ、なんだよ?」
食い下がるサキの言葉を受け止め、ユカリは深く、重い吐息をこぼした。
その美しい顔に浮かんでいるのは、サキの浅はかさをあざ笑うような色ではない。
カルコサという過酷な世界で、数多の生殺与奪を握ってきた『王国の魔女の総指揮官』としての、圧倒的な現実の重みだった。
ユカリは一歩、サキへと歩み寄る。その紫の魔眼が、サキの魂の底を見透かすように細められた。
「確かにあの子は、他の魔女を助けるためにああなってしまった。でもあなたは、ウルの事には思い至っても、その他の魔女たちの事も考えているのかしら?」
「……え?どういう事だよ?」
サキの身体が、思わず強張る。
「今回の戦いで、ウルだけではなくて、マナが欠乏したり、手足をなくした者も、死んでしまったものもいる。あなたはウルの事を知っているから、ウルだけを心配しているけれど、他の魔女達の事も考えたことがあるの?」
冷徹な、けれど反論の余地のない言葉がサキの胸に突き刺さる。
サキの頭に浮かんでいたのは、あの地下室で静かに眠る、薄いピンク色の髪をしたウルを救うことだけだった。だが、ユカリが見据えている戦場は、そんなに狭いものではなかったのだ。
「確かに私もウルは可愛いし、早く目覚めさせてあげたい。それに彼女の火力は卓越している」
ユカリは視線を一度、遠くの空へと向けた。
そこにはまだ、ハイパーボリア皇国との激戦の爪痕であるおぞましい魔力の残滓が揺らめいている。
「でもね、全員を指揮した私は、ウル以外の彼女達も、同様に早く治してあげたいの。ウルだけに治癒のソースを全て使えば確かに早くなると思う。でもこういう戦いには、それぞれに与えられた役割をする数多くの魔女達も必要なの」
再びユカリの鋭い視線が、射抜くようにサキへと戻る。
「あなたは、ウルの次はその全ての魔女達に何かしてあげられるの?」
「それは……」
サキは言葉に詰まった。
自分が今、必死に『魔女回路』を動かして絞り出せるマナの量など、目の前のユカリや、訓練に付き合ってくれたエルダの足元にも及ばない。
そんな自分が、傷つき、手足を失い、あるいは命を落とした無数の魔女たち全員を救う手段など、持っているはずがなかった。
「指揮をした私の立場では、全員を助けなければ、次の脅威に対抗できない」
ユカリの言葉は、酷薄なようでいて、セラーノ王国に生きるすべての魔女の命を等しく背負おうとする、重い責任感に満ちていた。
「強い火力一人だけでは、この国を守ってはいけないの」
静まり返る訓練場に、ユカリの声だけが冷たく響く。
ウルは特別に強い。けれど、彼女一人が目覚めたところで、周囲を支える他の魔女たちが傷ついたままでは、ハイパーボリアの圧倒的な魔導兵器の軍勢には決して勝てない。多勢に無勢だ。
天秤にかけられているのは、ウルの半年という時間と、王国全体の存亡だった。
サキは拳を固く握りしめ、ただ下唇を噛むしかなかった。
ユカリの言うことはあまりにも正論で、ぐうの音も出ない。それでも、自分の無力さと、ウルのために何もできない悔しさが、サキの胸の奥で燻り続けていた。
王国の現状を知ったサキ。
これから自分がどれだけを救えるのか?
王国の現状は厳しい様子です。




