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異世界カルコサの魔女回路・理不尽にTS美少女にされた俺、魔女都市の娼館での特訓の末、魔法を駆使し成り上がる!過酷な世界に抗うダークファンタジー  作者: あさなゆうなぎ
第1章 チートもハーレムもない世界

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第54話 鉄壁の魔女

 翌朝、サキは自分の身体がぐぐっと、どこか斜め後ろへと引っ張られるような、妙に現実味のある奇妙な感覚で目を覚ました。


「ん……?なんだろ、身体が重いというか、引っ張られて……」


 寝ぼけ眼をこすりながら、サキは寝返りを打とうとしたが、お尻のあたりに強固な「おもり」でもついているかのように身体が動かない。

 

 不審に思って首を限界まで捻り、自分の下半身の方へと視線を向けると――。


「う、うわあぁぁぁ〜っ!クティラ!?何やってるの!?」


 サキは思わず布団の中で悲鳴を上げた。

 クティラの衣服の奥、お尻の上あたりから獣人の尻尾のように伸びている、あのふかふかの青い触手たち。

 そのいくつもの丸い吸盤が、スカートの裾から伸びて、サキのお尻のあたりの皮膚に『きゅむっ』とこれ以上ないほど強力に密着していたのだ。

 引っ張られる感覚の正体は、クティラが寝返りを打つたびに、吸盤で繋がったサキの身体まで一緒に引きずられそうになっていたからだった。


「ちょ、ちょっと、剥がして〜!これ本当に、お尻のところが真っ赤になっちゃうよ〜っ!」


 サキがシーツの上でもがきながら懇願すると、胸元に抱きついていたクティラが、長い睫毛を震わせながらゆっくりと瞳を開けた。


「んん……。サキっち、おはよぉ……」


「うん、おはよう。おはようは嬉しいんだけど、その前にまずこのお尻の吸盤を剥がして、クティラさん」


 サキが涙目で訴えかけると、クティラはまだ眠たげな顔のまま、サキの腰にしがみつきながらふにふにと身体を擦り寄せてきた。


「ううん。クティラ、サキちゃんが大好きだから。触手ちゃんも、嬉しくてくっついちゃってるの。サキちゃんから離れたくないの〜」


「そ、その気持ちはめちゃくちゃ嬉しいんだけどね……でも皮膚の吸引力がすごすぎて、このままだとお尻に丸い痕がたくさんできちゃうから!」


 サキが必死に説得を試みること数分、ようやくクティラは名残惜しそうに吸盤の吸引を解除してくれた。解放されたサキは、じんじんと熱いお尻をさすりながら、なんとかベッドから這い出た。


「あ〜、お尻に丸い痕がついちゃってるよ……」


「サキっちへの、愛の証」


「あ、愛……ま、まあ、嬉しいけどね……はは」


 その後、二人で食堂に向かって簡単な朝食を済ませると、サキとクティラは今日の訓練に備えるために訓練室へと向かった。


 ルルイエの冷たい石造りの廊下を歩いていると、前をフラフラとした心許ない足取りで歩いているツインテールの少女の姿が見えた。


「おはよう、ルクレ……って、うおっ!? なんだよルクレツィア、そのマスコットの数は!?」


 サキは思わず足を止め、目を丸くした。

 歩いてきたルクレツィアの両腕には、抱えきれないほど大量の、昨日の『あにめ風の女の子』を模した小さなぬいぐるみのようなマスコットが、溢れんばかりに山積みになっていたのだ。


「お、おはようございますわ……お姉様……。昨晩は、あのお方の三面図があまりにも素晴らしくて……。お裁縫術の針を動かすのが楽しすぎて、やめられなくなってしまって……一睡もできなかったのですの……」


 ルクレツィアはマスコットの山から、かろうじて上半分だけの顔を覗かせながら答えた。

 マスコットの出来栄えは、昨日のイラストを驚異的な再現度で立体化した恐るべき完成度だったが、それ以上にルクレツィアの目の下に刻まれた、驚くほど濃い真っ黒なクマが、彼女の壮絶な徹夜の跡を物語っていた。


「マスコットの数もすごすぎるけど、目の下のクマもすっごいことになってるよ!だからハマりすぎちゃダメなんだって!ちゃんと寝なよって、言ったじゃん!」


 サキが呆れ半分、心配半分で怒ると、ルクレツィアはマスコットの山に顔を埋めながら、しょんぼりとツインテールを垂らした。


「は、反省いたしましたわ、お姉様……。わたくし、一度火がつくと止まらなくなってしまいますの。……今晩からは、どんなに作りたくても、10個以内に留めるようにいたしますわ……」


「そ、そうだね……。それならいいんだけどさ。私も、今度はルクレツィアが徹夜しないように、一回に渡す絵の数を考えて描くからね」


「まあ!お姉様、ありがとうございますわ!」


 ルクレツィアが嬉しそうに目を輝かせた、その時。サキの隣で彼女のマスコットの山を興味深そうに観察していたクティラが、人差し指をぴっと立てて、ルクレツィアを見上げた。


「ルクレっち、私にも、ひとつちょうだい」


「いいですわよ、クティラさん。どれがお好きかしら?」


 ルクレツィアが腕の中のマスコットの山を差し出すと、クティラは少しの間じっと吟味したあと、山の下の方に紛れていた、アホ毛の黒髪ストレートで活発そうな女の子のマスコットを指差した。


「これにする〜」


「あら、これですの? なかなかお目が高いですわ。それは『あほげ?』っていうんでしたっけ?髪の毛のハネ具合や、表情の活発さを表現するのに、わたくしが最もマナの糸を、贅沢に使用した自信作ですのよ!」


「うん、これ、なんだか、サキっちに似てる」


 クティラは受け取ったマスコットを自分の頬にすり寄せながら、嬉しそうに目を細めた。

 

 言われてみれば、その黒髪のアホ毛の跳ね具合や、どこか勝気で不器用そうな大きな瞳は、サキの面影をよく捉えていた。


「まあ!確かに言われてみればそうですわね!さすがクティラさん、お姉様への愛が成せる観察眼ですわ!」


「うん!」


「ははは……。まあアレンジして、私のマスコットを作ってくれたのは嬉しいけどね。とにかく二人とも、今日もよろしく。……じゃあ、訓練室に行こうか」


 サキは恥ずかしさを隠すように苦笑いを浮かべ、ルクレツィアを労いながら、三人で目的の訓練室へと足を踏み入れた。


 重厚な鉄扉を開けて中に入ると、そこにはすでに先客がいた。

 

 いつものように冷徹な佇まいで腕を組んで立つユカリ。


 そしてその隣には、サキがこれまで一度も見かけたことのない、見知らぬ銀髪の少女が直立不動の姿勢で静かに佇んでいた。


 頭の左右からクルンと丸まった、艶やかな一対の黒い角。

 シルクのように美しい銀色のショートボブ。 そして、その白磁の肌に映える紫色の瞳には、爬虫類のように細い、縦長の瞳孔が冷ややかに光っている。


「あ、エルダっち、おはよ!」


 クティラが親しげに片手を上げて声をかけると、ルクレツィアも抱えていたマスコットを落とさないように気をつけながら、深々と頭を下げた。


「エルダーサインさん、お久しぶりでございますわ」


 その二人の挨拶を受け、銀髪の少女は表情を微塵も崩すことなく、完璧に洗練された美しい動作で一礼を返した。


「ルクレツィアさん、クティラさん、おはようございます。お久しぶりですね。そちらのルクレツィアさんのマスコット……実に素晴らしい造形ですね。ですが、目の下の隈が酷いです。防衛の観点からも、魔女は常に万全の体調を維持すべきですよ」


「う、うぐっ……。ご指摘、痛み入りますわ……」


 生真面目な正論を突きつけられ、ルクレツィアが気まずそうに目を逸らす。

 ユカリはそんな彼女たちのやり取りを切れ長の目で面白そうに見つめていたが、すぐにサキの方へと視線を移した。


「サキ、今日はこのエルダが、あなたの相手よ」


「え?相手……?」


 サキが戸惑っていると、銀髪の少女――エルダはサキの正面へと歩み寄り、その爬虫類のような紫色の瞳でサキをじっと見つめてから、恭しく一礼した。


「サキさん、初めまして。エルダ・ルウ・ダーレスと申します。ルルイエの『防御魔術編成室』の統括、および絶対防御の星紋を司る、深階第8位の魔女です。本日はよろしくお願いいたします」


「あ、はい……サキです。はじめまして、よろしくお願いします……第8位……」


 サキは彼女のあまりにも凛とした、軍人のような完璧な礼儀正しさに気圧されながらも、挨拶を返した。


 同時に、ユカリの『今日の相手』という言葉の不穏な響きが、じわじわと脳裏を支配していった。

深階第8位のエルダーサイン。

彼女を『相手』にした、今日の防御魔法の訓練はどんなものになるでしょうか?

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