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第4話 リザードマン

 翌朝。

 部屋を支配する冷たい空気と共に、サキはまたしても優花里の鈴を転がすような声で起こされた。


「サキ、起きなさい。……今日の客が、もう上の部屋へ到着しているわ」


「……今日の客だって?もうこんな時間に……?」


 まだ下腹部に、初日にユカリに付けられた、生々しい重い痛みを残したまま、サキは這い上がるようにして体を起こした。


 ドレスを着せられ、昨日と同じあの怪しい香煙が漂う天蓋ベッドの部屋へと連行される。


 そこで優花里の口から告げられたのは、予想だにしない種族の名だった。


「今日のお相手は、リザードマン(亜人種)よ」

(リザードマン……? トカゲ人間ってことか?)


 扉の向こうで待っていたのは、その名の通り、全身を緑鈍色の鱗で覆った、強靭な二足歩行のトカゲそのものの怪異だった。


 元の世界で、サキ――美山誠だった頃、トカゲやヘビといった爬虫類全般は特に苦手なわけではなかった。

 だからこそ、実際にその異形と向き合った時、サキは奇妙な安堵に近い感覚を覚えていた。


 昨日の、あの脂ぎった中年の人間の男と比べれば、目の前の生物には『人間の男』特有の生々しい肉欲の臭いや、じっとりとした性別感がほとんど感じられない。


 むしろ、獰猛な野生動物か、あるいは生物感の薄い無機質な『物』と対峙しているかのような錯覚さえ覚えた。


(これなら……同じ種族の人間に何かされるよりは、まだ、物や動物として割り切って接することができるかもしれない……)


 だが、それはあくまで「人間の生々しさがない」というだけの話だった。


「ふん……これが『蜘蛛の糸』の新入りか。随分と美味そうなマナを纏っているな」


 低く濁った声で言葉を操りながら、リザードマンの大きく強靭な三本指の手が、サキの細い肩を掴み、ベッドへと引きずる。


 鱗に覆われた、体温の低い冷酷な皮膚が、サキの女の子の柔らかい肌をじわじわと這い回る。

その硬質で、ざらついた異物の感触が身体中を触るたびに、サキの背筋には本能的な、激しい嫌悪感が突き抜けた。


(冷てえ……っ。キモい、な……っ)


 どれだけ性別感が薄くとも、冷たい手で隅々まで弄ばれる不快感までは消せない。

 

 サキは不快感に眉をひそめ、奥歯をガチガチと鳴らして耐えた。

 だが、どれだけ嫌悪感を抱こうとも、元男としてのプライドが、この化け物の前で涙を流すことだけは絶対に拒絶していた。

 

 ただサキは、限界まで目を剥いて、目の前のトカゲの顔を睨みつけ続けた。


 その最中にも、サキの身体からは容赦なく強大なマナが溢れ出し、肌の接触を通じてリザードマンの体内へと勢いよく流れ込んでいく。


「グルオオオオオオオッ!! なんだこれは……ッ! 凄まじい、マナが、身体に満ちていく……ッ!!」


 リザードマンは歓喜の雄叫びを上げ、その縦割れの瞳孔をカッと見開いた。


 緑鈍色だった鱗が、まるでもぎたての宝石のように鮮やかな輝きを放ち始め、その巨体から溢れる闘気オーラが目に見えるほどに膨れ上がっていく。


 サキのマナは、亜人種の野生と戦闘能力を全盛期以上にブーストさせる、至高の糧となっていた。


 やがて、その異形との、おぞましい時間が終わり、優花里が部屋へと、入ってきた。

 リザードマンが満足げに部屋を去った後、ベッドの上で衣服を整えるサキに向かって、優花里はどこか驚きと、信じられないものを見るような色を瞳に浮かべて呟いた。


「……信じられないわ。まさか、リザードマン相手にすら、あなたの『純潔』が守られるなんてね」


「……え?どういう事だ?」


 サキが怪訝そうに顔を上げると、優花里は静かに説明を続けた。


「あのリザードマン、あなたを完全に抱く(挿入する)ことができなかったのよ。あなたの身体から溢れ出るマナの障壁が強大すぎて……奴がいくら欲しても、中に入る手前で全てのマナを急速に吸収し尽くされてしまった。奴は、あなたの肌に触れて漏れ出すマナを吸うだけで、限界まで満たされてしまったのよ。昨日の男の時もそう。あなたのマナは、他者を拒絶するほどに強すぎるのね」


 優花里の言葉に、サキは自分の身体を見つめた。


 ただ蹂躙されているだけだと思っていた。


 だが、女性としての本当の境界線は、自分の意思とは関係なく、この体内の強大すぎるマナが『障壁』となって、男たちを物理的に拒絶し、守り抜いていたのだ。


(そうか……。俺の純潔は、こいつ(ユカリ)以外には、まだ奪われちゃいない……!生成されるマナが多ければ、男とそういう事をしなくてもいいんだ!)


 その事実は、地獄の底にいるサキにとって、暗闇に差し込んだ一筋の光明だった。


 優花里の驚きに満ちた横顔を見つめながら、サキは心の中で不敵に笑う。

 お前たちが俺を道具として扱おうとしても、この身体の力は、俺を完全には明け渡さない。


(今に見てろよ、ユカリ。この強すぎるマナを俺が完全にコントロールできるようになった時が、お前たちの終わりだ!絶対に復讐してやる!!)


 サキの瞳の奥の『反逆の炎』は、守られた純潔という確かな武器を得て、さらに激しく、冷たく燃え上がっていった。

今回はリザードマンでした。

多種族が出て来ると、異世界感が増しますね。

まあ、その前に魔法が出てきてるので、すでに異世界感十分なのですが……


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