第3話 初めての男
部屋に取り残されたサキの元へ、男が品性のない笑みを浮かべながら近づいてくる。
男の太い腕が、サキの細い肩を容赦なく組み伏せ、ベッドへと押し倒した。
「ひ……っ、来ないでくれ……!いやだ!やめろー!お、俺は男なんだー!」
「何を馬鹿な事を、さあ、楽しませてもらうよ」
襲いかかる恐怖。だが、男の脂ぎった手がサキの肌に触れ、その重厚な身体がサキの下腹部へと押し当てられた、その瞬間だった。
――ドクンッ!! と、サキの全身の血液が沸騰するような衝撃が走る。
普通の女の子であれば、最後の一線を越えて行為に及ばなければ、男へマナを移すことはできない。
しかし、サキの身体に眠るマナの量は、あまりにも規格外、あまりにも異常だった。
交わりを結ぶまでもなく、ただ強引に組み敷かれ、互いの肌と下腹部が布越しに当たっただけで、サキの体内から凶悪なまでの濁流のようなマナが、触れ合った皮膚を通じて男の体内へと強制的に注ぎ込まれていく。
「おお……っ!? おおお, おおおっ……!!」
男の口から、獣のような歓喜と困惑の咆哮が漏れる。
サキの純度の高すぎるマナを吸い取ったことで、男のたるんだ肉体に、みるみるうちに爆発的な活力が満ちていく。
白髪混じりだった髪には艶が戻り、シワの刻まれた肌が二十代の頃のような瑞々しさを取り戻していく。全身を貫く、圧倒的な若返りと、全能の感覚。
「素晴らしい……! なんだこのマナの濃さは……! ただ触れているだけなのに、力が、魔力が、全盛期を遥かに超えて溢れてくるぞ……! こんなことは初めてだ!まさか若返るとは!!ハハハ、これはたまらん!!最高だ!!」
男は脳がとろけるような至高の快楽に身を震わせ、最後の一線に進むことすら忘れたように、ただ貪欲にサキの身体を、その肌を貪るように抱きしめ続けた。
サキはゾッとするような嫌悪感と屈辱に涙を流しながらも、心の中で血を吐くように叫んでいた。
(今に見てろよ、クソ野郎どもが……。俺に宿ったその力で、いつか必ずお前ら全員を八つ裂きにして、地獄に送ってやる……!)
どれほどの時間が経っただろうか。
「ふぅ……。信じられん、これほど満たされたのは生まれて初めてだ。おい魔女、最高の夜だったぞ!」
満足げな声を上げ、男は衣服を整えて部屋を出ていった。
最後の一線を越えずとも、サキを抱きしめただけで、男の魔力は完全に限界まで破裂しそうなほど満たされていたのだ。
部屋の外で待っていたユカリは、男の放つ異様なまでの魔力の残滓と、すっかり若返ったその姿を見て、息を呑んだ。
男が去った後、ユカリはすぐさま部屋へと入り、ベッドの上で呆然と横たわるサキの元へ駆け寄る。
サキの薄絹のドレスは乱されているものの、最後の一線は超えてはいない。
「……う、嘘、でしょ?」
「なんだよ……嘘って……あんな親父に抱きしめられて、キモすぎて鳥肌が立ったぞ……」
ユカリの冷徹な仮面が、初めて驚愕によって大きくひび割れた。
他の娼婦なら、身も心もすべてを捧げなければ与えられないマナの量を、サキはただ組み敷かれ、触れ合っただけで、あの貪欲な男を若返らせ、完全に満足させて帰らせてしまったのだ。
(これほどのマナの量だなんて……。多いとは思っていたけれど、私の想像を遥かに超えている……やはりこの子は……)
ユカリは改めて、自分が召喚してしまったサキという少女の、底知れなく、恐ろしすぎるポテンシャルに戦慄していた。
(だから、ハイパーボリア皇国はこの子を……気がついて良かった……)
ユカリの脳裏に、ある不穏な仮説がよぎる。
しかし、それ以上に深い思考を巡らせる前に、ベッドからの冷たい視線が彼女を現実へと引き戻した。
驚くユカリを見上げるサキの瞳には、怯えはすでになかった。
あるのは、夜の闇よりも深く冷たい、魔女への剥き出しの敵意。
二人の少女が、それぞれの地獄の中で、互いの運命を削り合う。
異世界カルコサの、セラーノ王国、その首都である魔女都市ルルイエの娼館『蜘蛛の糸』での、残酷で美しいサバイバルが、こうして本格的に幕を開けたのだった。
マナの生成量と、その質に助けられたサキ。
この彼女の特性がどう出るのか?
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