第44話 サキの魔女回路
大粒の涙を流しながら訴えるクティラを、ユカリは静かに見つめ、その震える小さな肩にそっと手を置いた。
そして、諭すように、けれど冷徹な現実を突きつけるように言葉を紡ぎ出す。
「クティラ、あなたやルクレツィア、アザレアはこの世界で生まれながらにして、魔女回路を身体の器官として持っているの。だから、あなたの心臓も内臓も、最初からマナの強烈な負荷や圧力に耐えられるだけの強度を十分に持っているわ。……でも、サキは違う。あの子は魔法という概念すら存在しない異世界から来たから、魔法やマナというエネルギー自体に対して、肉体が全く耐性を持っていないのよ」
ユカリは腕を組み直し、銀色の光に包まれて激しく苦しむサキへと視線を戻した。
「もちろん普通の異世界人なら魔女回路を全く体内に持ってないわ。ただ、あの子はほんの少しだけ魔女回路を持っていた。もちろん、私たちとは比べるべくもないほど貧弱なものだけれど。ただそのままでは、あの子の心臓をマナの圧力に耐えられるように、基礎から強引に強化しなければ、いずれ自身のマナの熱量で心臓そのものが侵されて、腐り落ちてしまうの」
「サキっち、そんなに大変、だったんだ……」
「しかも、それだけじゃないの。魔女回路が少ないということは、マナの通り道が体内に、ほとんど無いということ。そうすると、マナが体内に溜まり過ぎてしまい、身体が破裂し、全てが破壊されてしまう。だから応急処置で、彼女は男たちにマナを分け与えなければいけなかったの。それに回路がほとんどない状況で、そのまま魔法を使おうとすれば、回路以外の臓器に容赦なくマナが流れ込んで、全ての臓器の動きを破壊して、完全に止めてしまうのよ。私が魔法を教えたけれど、それは回路が未熟でも打てる魔法だけだった。もちろん弱い魔法しか、教えられなかったけれども」
「うう……頑張れ……」
ユカリの語る、あまりにも過酷な異世界人の肉体の真実。
それを聞いたクティラは息を呑み、自身の青髪の三つ編みをきゅっと握りしめた。
ユカリの言葉は、さらに重みを増していく。
「それなのに……あの子は体内でマナを、この世界の並の魔女以上、それどころか、私たちに匹敵するほどの相当量のマナを、毎日毎日、異常なまでの速度で生み出し続けているわ。……だから、その膨大すぎる力に耐えられる頑強な身体を今すぐ作るために、あの子はあれだけ大変な目に遭っているのよ。これを乗り越えなければ、待っているのは破滅よ」
「サキっち……」
クティラは再びサキを見つめ、自身の胸を痛々しげに押さえた。
「そっか……。サキっちは、私たちの当たり前を持っていないから……いちから、全部作り直さないといけないんだ……頑張れ!」
二人の前で、銀色のマナの奔流に曝され、今まさに体内の魔女回路のバイパスを無理やり押し広げられているサキは、床を血が出るほど指先で掻きむしり、のたうち回りながら激しい痛みに耐え続けていた。
言葉を失い、ただただ痛々しげにサキの奮闘を見つめ続けるクティラ。
その横で、ユカリはサキの歪な魔女回路が綺麗に、そして力強く銀色の光に順応していく様を見つめながら、ぽつりと、どこか寂しげに呟いた。
「これはあの子がこの過酷なカルコサで生き残るために、絶対に避けては通れない、地獄の儀式なのよ……」
その呟きは、サキをこの世界に縛り付け、過酷な運命へと巻き込んでしまったことへの、魔女としての微かな、けれど深い悔恨のようにも聞こえるのだった。
サキの魔女回路について明らかになってきました。
だからこそ、異世界人であるサキは、これまで辛い目にあってきているのです。




