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異世界カルコサの魔女回路 〜理不尽にTS美少女にされた俺、魔女都市の娼館での特訓の末、魔法を駆使し成り上がる!過酷な世界に抗うダークファンタジー〜  作者: あさなゆうなぎ
第1章 チートもハーレムもない世界

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第25話 生ける兵器・迫る影

 ユカリやウルがハイパーボリアと戦っていたその頃、ルルイエでの娼館『蜘蛛の糸』


 ユカリの容赦のない地獄の特訓とは違い、アザレアの訓練は厳しくとも、サキのマナを極限まで使い切るような無茶はしなかった。

 だが、それゆえに体内にマナが過剰に溜まってしまうため、サキは1日に1回から2回は、娼館の男たちにマナを分け与える仕事へ行かなければならなかった。


「今回はこの部屋? じゃあ、私はここにいる」


 クティラはそう言うと、客室の扉の前にあるソファに、ごろんと横になった。どうやら背中やお尻から生えている立派な触手が邪魔をして、普通に腰掛けるのは座りにくいらしい。


「頑張って、中からいっぱい出してきて〜」


 横たわったまま、何本もの触手をふよふよと振って応援してくるクティラに、サキは思わず引きつった顔を向けた。


「……なぁクティラ。なんかその言い方、ちょっとニュアンスが違わないか? すげえ誤解を招きそうなんだけど」


「マナを身体から出して、男の人にあげる。言葉としては何も間違ってない。どこが変?」


 クティラはぱっちりとした目を丸くして、不思議そうに首を傾げた。天然なのか狙っているのか、とにかく、この不思議ちゃんには勝てそうにない。


「ま、まあ、いいけど……。それじゃあ、行ってくるよ」


「頑張って〜」


 サキはため息混じりに、目の前の客室の扉を開け、中へ入ろうとした。

 ――その、刹那だった。


「――っ!?」


 サキの真横から前に向けて、信じられない速度で青黒い肉厚の触手が突き出された。それはサキの身体を一瞬で追い越し、開いた扉の隙間へと猛然と牙を剥く。


 ズグシュッッ!!!


「え……? クティラ、な、にを……っ!?」


 突然の肉音にサキが硬直する。


 扉のすぐ影――そこに潜んでいた、見知らぬ男の腹を、クティラの鋭い触手が見事に貫いていた。

 男は苦悶の表情を浮かべながらも、懐から引き抜いた禍々しい短刀を、剥き出しの殺意と共に、サキへと向けた。


「やらせない」


 普段のおっとりした声とは一変した、鋭いクティラの叫び。彼女は男の腹に突き刺した触手を力任せに振り回し、その肉体を扉の木枠へと叩きつけた。


 ドゴォッ!!


「ひっ!な、なにこれ、何が一体っ!?」


 いきなりの命のやり取りに、サキはパニックになりながらも、あたふたとその場から逃げようと足をもつれさせる。


(そ、そうだ! 魔法を……! ええっと、こんな時はどの魔法を使えば……?)


 サキがまごつき、魔力回路を練るのに手惑う僅かな隙を、プロの暗殺者が見逃すはずはなかった。

 壁に叩きつけられた男は、血を吐きながらも執念で短刀を構え、サキの胸元を目がけて全力で投げつけてきたのだ。


「うっ……!?」


 咄嗟に身を庇うように突き出した、サキの右腕。 衣服を切り裂き、鋭い刃がサキの右手のひらへと深く突き刺さる。


「ぎゃっ!? 痛いー!!」


「このぉぉぉッ!!!」


 サキが悲鳴をあげた瞬間、クティラの怒りが爆発した。背後から伸びた触手が極太になり、男の頭部へと上から強烈に叩きつける。


 ――グシャッ!!!

 熟しきったトマトが踏み潰されるような、おぞましい音が廊下に響いた。頭部を完全に破壊された男の肉体が、痙攣を最後にピクリとも動かなくなる。


「サキちゃん、大丈夫? ああっ、刀が刺さってる……」


 クティラは慌ててサキの元へ駆け寄ると、手の甲に突き刺さっていた短刀を躊躇なく引き抜いた。

 サキが再び短い悲鳴をあげる。


「痛いのごめんね、サキちゃん。『ノーデンス』……!」


 クティラが小さく呟きながら、サキの傷口に両手の掌をかざした。彼女の掌が聖なる白い光で輝き、サキの手の甲を優しく包み込んでいく。 じわじわと傷口が温かくなり、溢れ出ていた血が止まって激痛が薄らいでいくのが分かった。しかし、肉体の奥には、何とも言えない、おぞましい微かな鈍痛が残ったままだ。


「う……なんか、まだ奥の方が嫌な感じで痛むんだけど……」


「私の術式じゃ、ここまでが限界。あとで、癒やしの魔法に特化した、アザレアっちに、体内の『汚れたマナ』を浄化してもらって」


「汚れた、マナ……?」


 サキが顔をしかめると、クティラは床に落ちた、先ほど引き抜いたばかりの暗殺者の短刀を指差した。


「そう。ほら、このナイフ、よく見て」


「え……?」


 サキが這いつくばるようにして床の短刀を見つめ、次の瞬間、総毛立つような恐怖に襲われた。

 短刀の柄の部分に――まるで生き物のそれのような、生々しい『目玉』がついていたのだ。その目玉はギョロギョロと不気味に蠢き、ナイフの刀身全体が、まるで心臓のようにドクンドクンと気持ち悪く脈動している。


「うわっ……! なにこれ、キモっ!? 生きてるの?これ……!?」


「これが『魔導兵器』、魔女回路を持ってない、ハイパーボリアの男が、魔法代わりに使う武器。これ持ってると、魔法が撃てる」


 クティラは事も無げに解説を続ける。サキは右手の鈍痛を抑えながら、冷や汗を流した。


「こ、こんな気持ち悪いもので、何をしようっていうんだよ……?」


「刀の先からケラエノみたいな雷撃や、クトゥグアみたいな炎の魔法を出したり。さっきのサキちゃんみたいに、刺した相手の身体に汚れたマナを直接送り込んで、内側から腐らせて倒したりする」


「え……っ?!」


「ハイパーボリア皇国」の容赦のなさと、技術の不気味さに背筋が凍る。サキはたまらず、ずっと気になっていた疑問を口にした。


「なんで、こんな武器に、こんな気持ち悪い目がついたり、脈動したりしてるんだよ……?」


「これは元々『人』だから」


「……へ? どういうこと?」


 サキの思考が停止する。クティラはぱっちりとした瞳でサキを見つめ、いつものおっとりとした口調のまま、最も悍ましい真実を告げた。


「だから、このナイフの子は、元々は生きた人間」


「うそ…………人間?これが?」


 元々は、人間。 ハイパーボリア皇国が作る魔導兵器の正体――それは、生きた人間を呪術的に改造し、武器へと仕立て上げた「生贄の成れの果て」だったのだ。サキはその底知れない狂気と絶対的な悪意に、ただただ激しく戦慄するしかなかった。


 魔導兵器のおぞましい正体にサキが激しく戦慄していると、廊下の向こうから騒々しい足音が響いてきた。


「サキ! 大丈夫!?」


 息を切らせて駆けつけてきたのはアザレアだった。

 手にした杖を構え、青い瞳を鋭く光らせて周囲を警戒している。

 床に転がる頭部を潰された死体と、サキの手の甲の血に気づき、ハッと息を呑んだ。


「アザレアっち、私が『ノーデンス』で傷は治した。でも汚れたマナが残っちゃったから、後はお願い」


 クティラがいつも通りのふわふわとした調子でバトンを渡すと、アザレアはすぐに状況を理解して頷いた。


「分かったわ。……サキ、手を出しなさい」


 アザレアはそう言うと、自身も「『ノーデンス』」と小さく呟き、サキの右手を両手でそっと包み込んだ。 彼女の手のひらから、先ほどのクティラのものよりも遥かに高密度で純粋な光のマナが溢れ出し、サキの手の甲から全身へと染み渡っていく。その瞬間、肉体の奥深くでジクジクと疼いていたおぞましい鈍痛が、霧が晴れるように綺麗に消え去っていった。


(あ……痛みが完全に消えた。めちゃくちゃスッキリしてる……)


 サキは驚き、それからすぐに、ある一つの事実に思い至った。昨日、ユカリの特訓の後にアザレアが傷を治してくれた時は、わざわざ肉体の奥に嫌な痛みが残されていたのだ。


(やっぱり……この前の特訓の時に痛みだけ残したのは、わざとだったんだな、こいつ)


 サキがジト目でアザレアを睨みつけると、アザレアはふっと意地の悪い笑みを浮かべた。


「バレちった? でも当然でしょ!ウルの純粋な心を騙そうとするあんたみたいなオヤジ女は、一度痛い目に遭わないとね」


「また心を読みやがって! だから騙してなんてないだろ! あ、あれはウルちゃんの方からヨシヨシしてくれたんだよ……!」


「なわけないでしょ! あんたがキモい邪念を飛ばしてウルのことを唆したに決まってるわ!」


「本当だよ! ウルちゃんは私のこと大好きなんだぞ!」


 サキが必死に弁明した、その瞬間だった。アザレアが「ふ〜ん……」と、妙にニヤニヤとした視線をサキに向けてきた。


「……なんだよ、その目は」


 サキが不審がると、アザレアは腕を組んで、勝ち誇ったように言った。


「『俺』、じゃなくて『私』。ってね」


「――っ!?」


 指摘されて初めて、サキは自分が自然と一人称を「私」に変えて喋っていたことに気づいた。アザレアに「似合わない」と言われたことが、無意識のうちに頭に残っていたのだ。


「お、お前が言ったからだろ……っ!」


 サキは急激に顔が熱くなるのを感じ、恥ずかしさのあまりフイッと顔を背けた。そんなサキの様子を見て、アザレアは少しだけ頬を染めながらも、フンと鼻を鳴らした。


「まあ、元々あんたはそういうルックスなんだから、それでいいのよ。……でも、勘違いして私のことまで好きにならないようにね?」


「なるわけないだろ!! このツンデレ!」


「だから、つんでれ、って何よ? あんたの心を読んでも、全然意味が分かんないんだけど」


「分かんなくていいよ!!」


「サキちゃん、俺から私?」


「クティラさ〜ん。それは、もういいから!!」


 心を読まれてもなお噛み合わないオタク知識の応酬に、サキは真っ赤な顔のまま叫び返すしかなかった。


  ハイパーボリアの暗殺者による襲撃という恐怖の直後だというのに、アザレアの容赦のない毒舌とツンデレな態度のおかげで、サキの恐怖心はすっかり吹き飛ばされてしまうのだった。


クティラの攻撃にも少しづつ慣れ出しているサキ。

この世界では、こういう事も慣れないと、綺麗事だけでは、生きていけない世界なのです。

魔導兵器とはどの様な物なのか?もう少しで明らかになります。

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