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異世界カルコサの魔女回路 〜理不尽にTS美少女にされた俺、魔女都市の娼館での特訓の末、魔法を駆使し成り上がる!過酷な世界に抗うダークファンタジー〜  作者: あさなゆうなぎ
第1章 チートもハーレムもない世界

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第24話 深海からの護衛者

 だが、これまでの賑やかな日常は、ある日唐突に終わりを告げる。


 ハイパーボリア皇国との国境付近で、大規模な小競り合いが発生したのだ。

 事態を重く見たセラーノ王国上層部は、国内で一、二を争う強大な魔女であるユカリとウルの二人に、最前線への出撃命令を下した。


「いい?サキ。私とウルが戻るまで、絶対にここの敷地から出るんじゃないわよ」


 出立の間際、旅装に身を包んだユカリは、いつになく険しい表情でサキに言い含めた。ウルの小さな表情にも、いつもと違う戦士の緊張感が宿っている。


「留守中のあんたの護衛として、私の部下を一人手配したわ。もうすぐここへ来るはずよ。アザレアの指示に従って、大人しく訓練を続けていなさい」


「さきちゃん、行ってくるから待っててね。悪いやつらを、やっつけてくるから」


 そう言い残し、ユカリとウルは緊迫した空気のなか、軍の馬車へと乗り込んでいった。

 最強の二人がいなくなった娼館は、どこか火が消えたような静けさに包まれる。


「さ、サキ。訓練をはじめるよ」


 アザレアの声を聞きながら、サキがこれからの不安に胸を焦らせていると、「あの、失礼します」と、どこか緊張感の抜けた、ふわふわとした鈴のような声が聞こえてきた。


「あ、クティラ」


「アザレアっち、久し振り。あなたが、ユカリ様が言ってた、サキさん?」


「そうだよ、こいつだよ」


 振り返ったサキは、そこに立つ少女の姿に思わず目を丸くした。 年の頃は15歳くらい。小顔で、ぱっちりとした深く青い大きな瞳が印象的な美少女だった。鮮やかな青い髪を、腰のあたりまである長い三つ編みにして垂らしている。全体的に青い雰囲気の少女だった。


「あ、ああ、そうだけど……君が?」


「私はクティラ。ユカリ様の部下で、今日からサキさんの護衛を仰せつかった。お願いします」


 クティラと名乗った少女は、ペコリとお辞儀をした。

 おっとりとした不思議ちゃん系の雰囲気をまとった可愛い女の子だな――サキがそう思ったのも束の間だった。


 彼女が歩を進めた瞬間、そのスカートの裾から、信じられないものがニュルリと姿を現したのだ。


「うおっ!? な、なんだそれっ!?」


 サキは思わず飛び退いた。 クティラのお尻のあたりから生えていたのは、ぬらぬらと濡れた、無数の吸盤がついたタコの足の様な肉厚の触手だった。それは意思を持っているかのように、空気中でウネウネと不気味に蠢いている。


「あ、これ私の触手ちゃん。可愛くて気持ちがいい。触る?」


 クティラは何でもないことのように微笑みながら、その触手の一本をサキの頬にすり寄せてきた。


「ひゃあッ!? 冷たっ! 吸い付くな!気持ち悪いっ!あ……ごめん」


 現代日本の感覚が残るサキにとって、美少女のお尻からタコの足の様な、触手が生えているというビジュアルは、あまりにも狂気的で、最初は生理的な嫌悪感を隠せなかった。


 しかし、クティラはそんなサキの拒絶などどこ吹く風で、「お腹空いた。お団子食べる。はい、アザレアっちにもあげる。サキさんもいる?」などと、完全にマイペースな不思議ちゃん発言を、繰り返してサキを翻弄していく。


「相変わらずね、クティラ」


「うん、そう。私は、いつも変わらない」


 だが、そんな彼女の真の実力を、サキはすぐに思い知らされることになった。


 裏庭での訓練中、サキの放った電撃の魔法が暴走し、近くの大きな石碑が崩れてサキの頭上に降り注いできた時のことだ。


「危ないっ!」


 サキが身を硬くした瞬間、クティラの背後から、あの青黒い触手が凄まじい速度で伸長した。


 ――ドゴォッ!!!


「え……?」


 サキが目を開けると、頭上に迫っていた巨大な岩石が、クティラの触手によって一撃で粉々に粉砕されていた。伸縮自在の触手は槍のように鋭く尖り、硬い岩を一瞬で突き刺し、叩き割ったのだ。


「サキちゃん、大丈夫? 痛いの痛いの、飛んでけ〜」


 驚愕するサキの傍らに駆け寄ったクティラが、触手の一本でサキの擦り傷に触れる。

 すると、アザレアほどではないが、心地よい温かさのヒーリング魔法が流れ込み、傷が瞬時に塞がっていった。


(攻撃も、回復も、両方こなせる万能型……。しかもあの物理攻撃の威力、めちゃくちゃ強力じゃねえか……!)


 呆然とするサキの前で、クティラは「えへへ」とぱっちりとした目を細めて笑っている。

 その無邪気で、けれど頼もしすぎる姿を見ているうちに、サキの心の中から「気持ち悪い」という感情はすっかり消え失せていた。エルフや獣人がいるこの世界だ、お尻からタコの足が生えていたって、それも彼女の立派な「個性」なのだろう。


「ありがとう、クティラ。助かったよ」


 サキが素直にお礼を言い、触手の一本の先を握った。クティラは嬉しそうに三つ編みを揺らし、触手をパタパタと動かした。最強の二人が不在という緊迫した状況のなか、サキの元に、少し風変わりで最高に心強い護衛者が加わった瞬間だった。


******


 セラーノ王国とハイパーボリア皇国の国境付近。そこは、肉を焦がす臭いと、鉄の味が立ち込める、地獄の戦場と化していた。


「突撃せよ! 魔女どもを蹂躙しろ!」


 ハイパーボリアの兵士たちが、禍々しい魔導兵器を構えて津波のように押し寄せてくる。しかし、それを迎え撃つセラーノ王国最強の魔女たちの力は、まさに天災そのものだった。


「――『イーデ・エタドの放逐』」


 最前線に立つユカリが、冷徹な声で術式を起動する。彼女が細い指先を戦場へ向けた瞬間、突撃してきた敵兵たちの身体が、外傷一つないままバタバタと崩れ落ちた。肉体から魂だけを強制的に抜き取られ、虚無の器となった死体が泥にまみれていく。


「ウオオオォォンッ!!」


 そのユカリの側方から、凄まじい風圧を伴って飛び出した影があった。 ウルだ。しかし、今の彼女はカルコサで見せる6歳ほどの幼い姿ではない。マナを強制循環させ、肉体を戦闘用に最も敏捷な17歳程度へと、急激に成長させた、大人の魔女としての姿だった。艶やかな髪をなびかせ、圧倒的な戦士のオーラを放つウルが、敵陣の真っただ中へと跳躍する。


「――『幽体の剃刀スペクラルレイザー』!!」


 ウルの鋭い叫びと共に、戦場に不可視の刃が吹き荒れた。前触れも気配もない空間の断裂が、殺到していた何十人もの敵兵の首を、一瞬にして綺麗に切断する。宙を舞う無数の生首と、噴き上がる血飛沫の雨のなか、ウルは冷酷な瞳で敵を睨み据えた。


 後方に控える50人ほどの味方の魔女たちも、一斉に呪文を唱える。


「『ケラエノ』ッ!!」


「『クトゥグア』――ッ!!」


 天空から降り注ぐ紫色の雷撃ケラエノが敵の魔導兵器を次々と爆砕し、戦場を埋め尽くす生けるクトゥグアがハイパーボリアの兵士たちを焼き尽くしていく。魔女たちの圧倒的な火力を前に、戦況は間違いなく、セラーノ王国側が優勢だった。


 しかし、ハイパーボリア皇国側もタダでは引き下がらない。


「魔導弩弓、放てっ!!」


 敵の残党が放った、マナを極限まで収束させた魔導兵器の矢が、鋭い風切り音を立てて魔女たちの陣地に降り注いだ。


「――あぐっ!?」


「いやああぁっ!」


 容赦のない光の矢が魔女たちの身体を貫く。激しい爆発が巻き起こり、何人もの魔女たちが傷つき、その場に崩れ落ちて命を落としていった。共にカルコサで生きてきた仲間の血と悲鳴が、戦場に響き渡る。


「……ぁ」


 それを見たウルの青い瞳が、激しい怒りと憎悪で一瞬にして染まった。


「よ、よくも……よくもみんなをーッ!!」


 ウルの感情の爆発と同調するように、彼女の周囲の大気がミシミシと悲鳴をあげ、どす黒いマナが天を衝くほどに噴き上がった。それはユカリの制止の声すら届かない、完全な暴走状態だった。


「ウル!それを使っちゃダメ!!」


「滅びろォォォ!!! 『萎縮ウィザー』――ッ!!!!」


 ウルが両手を地面に突き立てると、彼女を中心に、漆黒の波動が地を這って爆発的に広がった。


「が、は……っ!? な、なんだこれ……体、が……っ!」


 漆黒の波動に触れたハイパーボリアの兵士たちの肉体が、一瞬にしてボコボコと歪み、内臓も、筋肉も、骨も、あらゆる組織が内側から急速に「萎縮」し、枯れ果てていく。水分を失ったミイラのように干からび、絶叫をあげる暇すらなく、数百の敵兵が一瞬にして生ける屍へと変えられた。


 しかし、その魔法の恐怖はそれだけに留まらなかった。


『ウィザー』の術式はマナの敵味方を識別しない。敵兵だけでなく、周囲に生い茂っていた木々や草花、大地の水分、果ては空気中の微生物に至るまで、ウルの周囲のあらゆる生命が巻き込まれ、文字通り「枯死」して灰色に砕け散ったのだ。周囲一帯が、生命の存在を許さない完全な不毛の地へと壊滅的に破壊されていく。


「みんな!後方へ急いで逃げて!!ウル! その魔法を無闇に使うなと、何度も言っているでしょう!味方も巻き込んでしまうかも知れないのよ!」


 破壊の嵐が収まった戦場に、ユカリの鋭い叱咤が響いた。無差別な大量虐殺の術式。

 これこそが、世界のバランスを崩壊させかねない禁忌の力だった。


「はあ……っ、はあ……、はあ……っ」


 しかし、怒鳴られたウルは、もう言い返す気力すら残っていなかった。『ウィザー』は、一撃で戦場を壊滅させる代わりに、術者のマナを底なしに喰らい尽くす。一気に魔力を枯渇させたウルの身体は、維持できなくなった17歳の形態から、急速に縮んでいく。

 骨が軋む音と共に、衣服に埋もれるようにして元の6歳の姿へと戻ったウルは、地面に膝をつき、息も絶え絶えの状態でガタガタと震えていた。その顔は青白く、意識を保つことすら限界のようだった。


「ウルを後方へ!早く!」


 優勢だったはずの戦場に、沈黙が広がる。ハイパーボリアの脅威は退けたものの、魔女たちの払った代償と、最強の二人の一角であるウルの消耗は、あまりにも大きすぎたのであった。


すみません!話数を間違って投稿してました。

修正し直したので、よろしくおねがいします。


今回は、打って変わって、ハイパーボリアとの戦場です。

勝敗の行方は?

また、ウルの容体は、どうなるのでしょうか?

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