第15話 ハイパーボリアの暗殺者
「だから、これからも、特にあなたを狙ってハイパーボリアからの暗殺者がやってくるのよ」
ユカリは冷淡な声音で、極めて恐ろしい事実をサキに告げた。
その言葉に、サキの背中にヒヤリとした冷たい汗が伝う。
「な、なんで俺に……っ? 俺、ハイパーボリアなんて国、見たことも聞いたこともないのに、何で狙われなければいけないんだよ!そ、それに魔法がほとんど出来ない俺を倒しても、向こうにとっては、なんの意味もないだろ!!」
「意味?今のあなたが弱いからよ」
弁解を許さない、一刀両断の答えだった。ユカリは呆れたように肩をすくめ、サキを憐れむような目で見下ろす。
「あなたはまだ、自分の内にある膨大なマナを全く扱いきれていないわ。奴らにとっては、これ以上ないほど容易く倒せる、格好の的なのよ。しかもマナを多く持っているあなたは、将来的に敵から見て、脅威になると考えるのが当然でしょう?今も、将来も、あなたを、全然恐れる必要はないのにね」
「俺が弱い……確かにそうだけど……」
「私やウルくらいの実力になれば、向こうから襲ってきても、難なく撃退できるけれど、今のあなたにはまだ逆立ちしたって無理でしょ?」
「そ、それはそうだけど……っ」
「弱いという事は、この世界では獲物として狙われるだけ。弱いという事は、この世界では罪なのよ」
返す言葉がなかった。昨夜の襲撃時、サキは男の短刀を前にして、文字通り腰が抜けて、指一本動かすことができなかったのだ。
その現実を思い知らされ、サキは悔しさと恐怖で奥歯を噛み締めた。
ユカリはそんなサキの様子をしばらく見つめていたが、少しだけ声音を和らげた。
「だからこそ、そういう時はもっと強い人を頼りなさい」
「え……?」
「ウルや……不本意だけれど、この私も可能な限り、その時には助けてあげるわ」
(本当に、一言多いよな……。助けてくれるって言うなら、素直にそう言えばいいのに……)
サキは内心でそう悪態をつきつつも、どこか張り詰めていた心がほんの少しだけ軽くなるのを感じた。
「わ、わかった。……よろしく、お願いします」
「ええ。それとね、これだけは絶対に覚えておきなさい」
ユカリは抱きかかえていたウルをベッドへとそっと下ろすと、これまでになく真剣な表情でサキを睨み据えた。
「ハイパーボリアの暗殺者は狂信的なの。変に手加減をして生かしておいたりすれば、隙を見て自爆を試みるか、さもなくば自分が死ぬ瞬間まで魔導兵器を使ってこちらを道連れにしようとしてくるの。だから、襲われたら躊躇なく、息の根を完全に止めなければいけないの。奴らにはこちらの話は通じないわ」
「そ、そんなバカな……! 捕まえて尋問するとか、そういうのは……」
「尋問?尋問して奴らの何を明らかにするの?奴らの放つ暗殺者は、ただの捨て駒なの。何の情報も持たされず、こちらの魔女だけを殺す様に頭をいじられている。だから、奴らに聞いても、何も知らないから、聞く必要もないの。そういう奴らなのよ、人を人とも思っていないのよ!」
ユカリの冷たい声が、サキの甘えをピシャリと撥ね退ける。
「それにね、サキ。……彼らを確実にここで倒してあげることは、結果的に、彼らにとっても『助かる』ことになるのよ」
「助かるって、な……なんでだよ!おかしいじゃないか!」
サキは思わず声を荒らげた。
殺されることが、どうして「助かる」ことになるのか。
それは、命を奪う側が言っていい詭弁ではないはずだ。
しかし、激昂するサキとは対照的に、ユカリの瞳はどこまでも深く、暗い陰を帯びていた。
その視線は、昨夜のあの脈動する不気味な短刀の残像を見つめているかのようだった。
徐々に明らかになる敵の詳細。
サキの気持ちは変わるのでしょうか?
よろしければ、面白い、続きが気になる!と思ってくださったら、ページ下部の【☆☆☆☆☆】を【★★★★★】にして評価や、ブックマークをしていただけると執筆の励みになります!




