第7話 この世界、まともな奴がいないんだが
……先ほどパンチャが言っていた通り、ラビィーはお風呂に入っていたのだろう。
湿った髪。濡れた身体。湯気が立ち上る素肌。
読者のご想像通り、ラビィーは一糸まとわぬ姿でこの部屋に入ってきたのだ。
俺はもちろん、シープ、パンチャからも言葉にならない声が上がる。
「ぶぅぅぅぅぅー~!」
「あらあら」
「ラビたん、何しているの!」
俺はラビィーの美しさに完全に目を奪われた。
当たり前のことだった。俺はまだ女性と付き合った事はない。そんな俺に真っ白で傷1つない綺麗な身体を見せられれば、目を奪われて当然だ。
その瞬間、近くにあった花瓶が俺の頭にヒットする。
これがゲームなら、確実に画面上で『会心の一撃』と出ていた事は間違いないぐらいのダメージを俺は頭部に受けた。
「うげぇ!」
「見るんじゃない~!」
「誰か、誰かいませんか?」
「何か御用でございましょうか?」
「勇者ラビィーの身体を拭いてあげてくださいな。そしてちゃんと服を着させて。それから連れてきてくださいな」
「御意。さあ、ラビィー様、こちらです」
従者だか使用人だかわからないが、こんな騒ぎでも動じないメイドらしき人達に連れていかれるラビィー。
もう少し見ていたか……もとい、早く連れ出してくれて良かった。頭を擦りながら起き上る俺。
「痛って~。何すんだよ!」
「ふん! ラビたんにイヤラシイ視線を向けるからだ」
「向けてないだろうが! そりゃ確かに少しは見たけ……」
「思い出すんじゃない!」
「げふっ!」
今度は俺の顔面にパンチャの拳が飛んで来て、壁際に飛ぶ。
アニメで言ったら顔面に拳がめり込んでいる感じだ。
……それにしても俺の扱い、酷過ぎじゃねえ?
「やりすぎですよ、パンチャ。もっとも麒麟様はM気質かもしれませんので、むしろご褒美になっているかもしれませんが」
「どこをどう見たらそう思えるのか、教えて欲しいわ! というか、シープさんもボケかよ!」
「さっきのラビィーの行動で少しはわかって頂けたと思いますが、ラビィーには常識がありません。それを教えるのが教育係のあなたの仕事になります。立派な女王になるように指導してください」
シープの話を聞いた俺は、今まで行われたラビィーの非常識な行動を思い返してみた。
後ろ襟首を引っ張られ激走。
頭の激痛を足の激痛で消そうとする思考。
空気や状況を読まないマイペース。
喜怒哀楽が全くでない表情。
お風呂の入り方も知らない天然ボケ。
あの可愛いだけの非常識娘に、一般常識を教えて立派な女王にだと……思い出すだけで(無理!)とわかる難題に俺は思わず疑問の声を上げた。
「はあぁ?」
「耳まで遠いのか? 本当に使えないな。やっぱり三途の川を見に行け。あたいが送ってあげるから」
「麒麟様がMでしたので罵詈雑言はむしろご褒美ですわね」
「……この人も意外にポンコツな人?」
「お姉さまのポンコツ扱いするとはいい度胸だ!」
「ぎゃあぁぁ~!」
パンチャの飛び蹴りを食らって壁に吹っ飛ぶ俺。
今日、後何回吹っ飛ばされるの、俺? というか、これから先、ずっとこんな生活なの?
そんな事をしていると、着替え終わったラビィーが戻ってきた。
「先生、怪我してる?」
「あ痛たた。って、なんで怪我してる事が前提なんだよ」
「えっと・・・・・・怪我した方が面白いから?」
「なぜ疑問形? そしてお前の思考回路を覗いてみたいわ!」
「そんなに褒められると私、照れる」
「今の台詞のどこに褒めたポイントがあった!」
その時だった。部屋全体が揺れ、全員が身構える。
揺れが止まると、ラビィー、パンチャ、シープが何かに気付き、部屋から飛び出していく。それを見て俺は3人の後を追いかけた。
……この世界は落ち着く暇すら与えてくれないのかよ!
「何なんだよ? 何かあったのか?」
廊下を走る4人。俺は前を走るパンチャに声をかけた。
できればこいつにだけは声をかけたくなかったが、ラビィーは視認出来ないような速さでどっかに行ってしまったし、シープも大分先を走っている。
やはり体型&歩幅の問題だろうか。
でもこれをパンチャに言えば、俺は間違いなく殴られるので心の中に閉まっておく。
……あれ? こういう風に思っていても本に載るんだよな。これって不味くない?
「やっぱり馬鹿にはわからないようね」
「うわっ、最高の笑顔で言いやがった!」
「本当に感じないの? とてつもなく邪悪な気配を。これを感じないって、あんた本当に馬鹿?」
「その台詞は言っても大丈夫な台詞だよな? とりあえず……一般人の俺がそれをわかったら確実に厨二病だろ!」
……なんかこっちの世界に来てから、完全にツッコミ役だな。
まるで下ネタばかり言う生徒会のフラグクラッシャーの男になった気分だ。




