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第57話 教育係



「勝ったのか?」


 やっべ。俺がフラグを立てちまった。

 大丈夫だよね? 残念魔王、最終形態とかないよね?


「まだですわ! ラビィー様! 神具で黒い霧を集めてください!」


 シープの指示に反応するラビィー。


「ラビたん、そっちに逃げたわよ!」


「ラビィー様、こっちにも黒い塊が逃げてきましたの」


 パンチャやエレファの指示で虫取り網で必死に複数の黒い霧状を取るラビィー。

 ……何これ? 死闘を繰り広げた後の光景じゃないよね。遊んでいるようにしか見えないよ。


「先生。全部集めた」


「んで、魔王はどうやって封印すればいいんだ? 封印の壺は俺の中だし」


(……麒麟。……麒麟)


 頭の中に駄女神の声が響く。

 どうしよう。返事したほうがいいのか? 凄く嫌な予感しかしない。


(なんだよ、駄女神)


(封印方法を教えようと思いましたが、そんな態度なら教えませんよ。新魔王になりますか?)


(すいませんでした!)


 突然の俺の土下座にラビィーたちが驚く。


「今、俺の頭の中に駄女神が騒いでる」


 そう聞いたラビィーたちが、片膝を付き頭を下げた。

 いや、そんなたいそうな女神じゃないぞ、あいつ。微妙にしか役に立ってないからな。


(新魔王”麒麟”の物語の始まりですね)


(本当にすいません。呪いでもないのに、俺の心の中を読まないでください)


(まあいいでしょう。これ以上、私の子供たちを傷つけるわけにはいきませんから)


(で、封印方法は?)


(黒い塊の入った虫取り網を頭から被りなさい。そうすれば封印されます。成功すれば)


(失敗したら?)


(さっきも言った通り、新魔王ですね。頑張ってください)


(一言で終わらせるなよ)


 もう~。やるしかないんだよね。

 いや、確かに小学生の時にやったよ。頭に虫取り網を被るって。

 でも高校生になってやるとは思わなかったよ。しかもリスク増し増し。


(もし、新魔王になりそうなら愛する者にその心臓を捧げなさい。そうすれば魔王になる前にこっちに来れますよ)


(心臓を捧げよ。って巨人退治の兵団かよ。ラビィーにそんなことをさせられるか)


(信じてますよ)


(信じるって都合のいい言葉だな~)


 よし、やるか。

 やらなくてもいいことなら、やらない。やらなければいけないことなら、手短に。

 省エネ探偵が言っていた台詞を思い出したわ。良い言葉だね。


「ラビィー。その虫取り網を俺に被せろ」


「先生、遊んでいる場合じゃない。気持ちは分かるけど」


「気持ちが分かるってお前も昔、被ったんだな。駄女神が言ってんだよ」


「分かった。やる」


「あとな……もし、俺が魔王になりそうなら……その剣で俺を刺せ。必ずだぞ」


「あたいに任せろ! 絶対に刺してやるから安心して三途の川を渡ってこい」


「少しは躊躇しろよ!」


「大丈夫。私は先生を信じてる」


「オッケー。さあ、来い!」


 虫取り網を被る俺。

 その瞬間、物理的にも精神的にも俺の目の前は真っ白になった。

 

 親や同級生には見せれない姿だな。黒歴史がまた1つ増えちゃったよ。


(人間は実に矮小な生き物だ)


(差別や平等、平和を口にしながら裏では利己、利益しか考えてない)


(壊せ、破壊しろ。この世は弱肉強食。強いものが治めれば全てが上手くいく)


(力が、恐怖がこの世を支配すれば争いは無くなる)


 頭の中を魔王の思考が支配していく。

 人間の悪意の塊。


「ぐぁぁぁぁ!」


 身体が黒く浸食されていくのが分かる。

 おとなしく封印されろよ。人間はそんなに単純な考えじゃ駄目なんだよ!


「先生!」


「麒麟様!」


「麒麟お兄ちゃん!」


「変態馬鹿!」


「心の友よ!」


 変態馬鹿はただの悪口だろ! そしてベアル、お前と親友になった覚えはねぇよ。

 くっ! やべぇ……意識が……遠くなっていく。


「かっはぁ! ぐっ、うぁぁぁ」


「先生! 先生! しっかり意識を持って! 戻ってきたら私の事、好きにしていいから!」


「じゃあ、戻ってこなくていいわ」


「パンチャお姉ちゃん、そんなことを言っている場合じゃないですの!」


「パンチャが僕にそのセリフを言ってくれたら、地獄の果てからでも戻ってくるよ」


「ベアルちゃん、それどころじゃないので黙っていてくださいですの!」


 なんか周りがうるさい。ラビィーやエレファの声が遠くなっていく。

 エレファ1人にツッコミ役を任せるわけにはいかないのに。


「ラビィー様。剣のご準備を」


「シープ……」


「分かっています。が、麒麟様の覚悟を無駄にしないでくださいですわ」


 ラビィーの表情が強張る。


「大丈夫ですわ。これで麒麟様がラビィー様に愛想をつかすようでしたら、私が麒麟様を引き取りますのでご安心を」


「先生はあげないし、絶対に私のもとに戻ってくる。まだ、教えてもらっていないこと、たくさんあるから」


 何も聞こえない。いや、聞いていたらツッコんでいるんだろうな。

 そう考えたらちょっと気が楽だな。

 でも、この苦しいのはノーサンキュー。ヤバ過ぎるの絶望が俺を包んでいくのが分かる。


(でも……俺は魔王になんかならない)


(俺は……俺は……勇者を導く……ラビィーを導く教育係だ!)


「ぬぉぉぉぉぉぉ!」


「先生!」


 黒い霧に包まれた俺の身体が次第に戻っていく。

 少しずつ光が指し、黒い霧が消えていった。


「先生!」


「封印は成功したようですわ」


「でも、麒麟お兄ちゃんが目を開けないですの」


「変態の心音が弱まっていくわ!」


「キリー、戻ってくるんだ!」

_____________________________________


(どうなったんだ? 封印は成功したのか?)


 ゆっくり目を開けると、そこは見覚えがある世界だった。


「あれ? 封印が成功したのになんで来たんですか?」


「なんで駄女神が俺の目の前にいるんだよ」


 うぁ~、俺、死んだの? ん、封印が成功したって駄女神が言ったよな?

 ならなんで俺はここに来たんだ?


「知りませんよ。貴方が勝手に来たんですよ。死んだんですか?」


「神様が絶望を与えるってどうかと思うんだけどな」


「あっ、魔王は封印されたので安心してください。でも貴方が死ぬと復活しますので注意してくださいね」


「ここに来てる=死んでるってことだろ! すぐ復活するじゃねぇか!」


 呑気に煎餅を食べながらお茶をすする駄女神リンネ。

 お前、女神だからって安心するなよ。そのうち本当にぶっ飛ばすからな。


「まだ死んでないですよ。死にそうですけどね」


「煎餅を片手に言うセリフじゃねぇよ」


「貴方がここに来ると魔王ベスボル……じゃない魔王麒麟が復活するんで困るんですけどね」


「お茶をすするな! 緊張感がないにもほどがあるだろ」


 なんで天界に来てまでツッコミをしないといけないんだ。

 地上の生活と変わらないじゃん。


 ラビィーたちの相手よりもリンネ1人のほうが疲れるってなんでだよ。

 神様、俺、悪いことした? って目の前の奴が神様だったわ。


「貴方の体内で魔王の浄化をしているんで、50年ぐらいすれば浄化できるんですよね。だから今死んでもらっては困るんですよ」


「知らんがな」


 どうしろっていうんだよ。俺だって戻れるもんなら戻りたいわ!

 ラビィーたちと明るい未来を作るって約束したんだよ。


「ってことで貴方はここにいりません。返品です」


 指を鳴らす駄女神リンネ。

 すると俺の足元に穴が開き、落下する。


「クソ駄女神! 覚えていろよ~!」


 やべっ。意識が遠くなる。あのクソ駄女神。本当に女神かよ!


(私の可愛い義妹、義娘が笑顔で生きられる未来を頼むわね)


 意識が薄れる中、そんな声が俺の耳に届いた。


               ~~第18代教育係、真鳥麒麟の書、11章完~~




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