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第56話 勝てる未来



 ベスボルの周囲に黒い霧が渦巻く。床が軋み、空間そのものが悲鳴を上げ始めた。


「調子に乗るなよ、人間共」


 低い声。だが、その圧だけで空気が震える。

 ……来る。


「来るぞ!」


 俺が叫ぶより先に、ベスボルの姿が消えた。


「左ですの!」


 エレファの声にラビィーが反応する。

 ギィィィン!! 剣と剣がぶつかる。

 だが今度は違う。ラビィーが押し負けていない。いや、若干だが押してるのか?


「ほう……」


 ベスボルの眉が僅かに動く。


「先生の愛の力、最強」


「いや、どこのプリキュアだよ!」


 その瞬間、パンチャが低く潜り込む。


「ラビたんから離れろぉぉ!!」


 十文字槍がベスボルの脇腹を掠める。黒い血が飛んだ。

 ちなみにパンチャ、その殺意は俺に向けてじゃないよね。


「っ!」

 ベスボルが後ろへ飛ぶ。だが、そこにも追撃。


「逃がしませんわ! 麒麟様も含めて!」


 シープの分身が空間を囲む。無数の矢が放たれる。さらに。


「三秒後、右後方!」


 エレファが叫ぶ。ベアルが既に動いていた。


「ベアルアタァァァック・改!!」


「改を付けても同じ技! しかも単純に突撃!」


 ドゴォォォン!!

 今度は完全に捉えた。ベスボルの身体が天井へ突き刺さる。


「畳みかけるぞ! おらぁぁぁぁぁ!」


 天井に突き刺さったベスボルに弾の雨を浴びせる。

 ここで終わらせる。……じゃないと。


 じゃないと? じゃないとってなんだ?

 その瞬間。俺の胸の奥が熱くなった。……違う。


 熱いんじゃない。“暴れてる”。

 封印したはずの力が。


「先生!?」


 ラビィーの声が遠くに聞こえる。視界が黒く染まりかける。

 おいおい、なんだこれ? 俺じゃない誰かが俺の中から。


「ふははははは。返してもらおうか、吾輩の力を!」


『失敗したら新魔王になります』


 駄女神の言葉が蘇る。


「こんなタイミングで来るなぁぁぁ!!」


 俺は頭を押さえる。黒い霧が、俺の腕から漏れ出した。

 ベスボルが笑う。


「お前ごとき! 変態教育係が! 分体とはいえ、吾輩の力を封印しようとはおこがましい!」


「うるせぇ……!」


 まずい。意識が持っていかれる。これ、本気と書いてマジでやばい。

 その時だった。


「先生」


 ラビィーの声が聞こえる。そして気付けばラビィーが俺の前に立っていた。


「先生は、先生」


「……ラビィー」


「変態で、ツッコミうるさくて、すぐ調子乗るけど」


「悪口の割合が多くない?」


「でも」


 ラビィーが笑う。


「私を導いてくれた、大好きな先生」


 そう言いながら両手で俺の頬を掴み、優しく唇を重ねてきた。

 その瞬間。俺の中で暴れていた黒い霧が止まった。


 やばい。ラビィーと初キスしちゃったよ。……うらやましいだろ。

 あん? お前が知らないだけで2回目だって? ラビィーとのキスがうらやましいからって読者が俺に嘘ついてどうする。


「っ……」


 身体の熱が引いていく。……戻った。

 だが、長くはもたないだろうな。なんとなく分かる。封印さえしてしまえば、駄女神のところにもう一回行こうが、無問題!


「さあ、先生。本当に終わらせよ」


 ラビィーが俺に手を差し伸べる。

 手を取り、立ち上がった俺が周りを見るとパンチャたちが優しい笑顔を浮かべていた。


「ほ、ほら、あんたがいないとラビたんが寂しがるんだからちゃんとしてよね」

 

 顔を赤くし明らかに照れ隠しのパンチャ。


「レアだよ! パンチャがデレたよ! さすが僕の嫁!」


「あたいはラビたんの嫁なの! あんたの嫁じゃない!」


「シリアスな空気はどこに行った」


 だが。もう迷いはなかった。

 

 ラビィーが剣を構える。


  パンチャが笑う。


 ベアルが前へ出る。


 シープが矢を番える。


 エレファが未来を見る。


 そして俺は銃を構えた。


「行くぞ、お前ら!」


「うん!」


「なんであんたが仕切るのよ!」


「了解ですわ!」


「任せるですの!」


「ベアルアタックの出番だね!」


「そのダサい技名は却下だ!」


 全員が踏み込む。今度こそ。勝てる未来を掴むために。

 

 しかし、そんな俺たちのあざ笑うように黒い霧が玉座の間を覆い、ベスボルの肉体が膨れ上がっていく。


 お前は宇宙を放浪する戦闘民族かよ。

 無駄に主人公より目立つんじゃねぇよ。


「ここからが本番だ……人間共」


 空間が揺れる。床が軋む。

 空気そのものが悲鳴を上げていた。


「ラスボスっぽい第2形態……舐めプしてなきゃ、その形態になる前に決着ついてたのにな!」


「確かにそうですわね」


「残念魔王、本人があたい達にチャンスをくれたってわけね」


「間違いないですの!」


「こっちはヒーローが変身している最中、待ってやっている敵役とは違うんだよ!」


 俺が銃を撃つと同時にラビィーたちがベスボルへと突撃を開始する。

 ……誰だ。セコいとか思っているやつ。誰でも1度は思うだろ。


(なんでヒーローが変身している最中、敵は待っているんだろう)


 ってよ。隙があるんだから攻撃すれば良いんだよっ!


「はぁぁぁぁぁ!」


 剣閃。白銀の一撃がベスボルを裂く。


「パンチャ!」


「任せて!」


 槍を回転させながら突っ込む。寸前で躱すベスボル。


「ベアル!」


「2秒後、左後ろですの!」


「うおおおおお!」


 ベアルの持つ大鎌が何もないところに振るわれる。

 そこに現れ、防御するベスボル。


「シープ!」


「3秒後、左上前ですの!」


 無数の矢が何もない空間に放たれる。またもそこに現れるベスボル。


「エレファ!」


「2秒後にラビィー様の背後ですの!」


「了解! 飛べ、ラビィー!」


 俺はアサルトライフルを撃つ。着弾。


「ヒーロー戦隊は敵が1人でも全員でボコるんだよ!」


 俺がそうツッコんだ瞬間だった。

 ――ゾワッ。全身の毛穴が一斉に開く。


「……っ!」


 次の瞬間。

 ドゴォォォォォン!!

 さっきまで俺たちが立っていた場所が、黒い閃光と共に消し飛んだ。


「きゃっ!?」


「うおっ!」


 衝撃で全員が吹き飛ばされる。床が崩れ、瓦礫が宙を舞う。

 煙の向こう。そこに立っていたのは――。


「調子に乗るなー!」


 肩で息をするベスボル。


「先生……」


 ラビィーが俺の服を掴む。

 分かってる。全員、察してる。

 ――次で終わる。勝っても負けても。


「認めよう、人間共」


 ベスボルが両腕を広げる。


「貴様らは、ここまで辿り着いた」


 床が軋む。城が揺れる。

 ……とりあえず、撃っておくか。

 俺、ヒーローじゃないし。ただの教育係だしね。


「おらぁぁぁぁ!」


 アサルトライフルを乱射する。


「故に我輩も、王とし――」


 セコい? 知らんがな。


「クライマックスの口上ぐらい言わせろ!」


 黒い霧が渦巻く。その中心。

 ベスボルの背後に巨大な“影”が現れた。

 竜? いや違う。魔王そのもの。


「うわぁ……ラスボス感だけは一気に出てきたな」


「そこ褒めるところじゃないですの!」


 エレファからのツッコミが入る。

 なんか久々にツッコまれたな、俺。でも、軽口でも叩いてないと手足が震えるんだよ。


「やっとラスボスっぽくなったじゃねぇか」


 ベスボルの目が細くなる。


「減らず口を」


「教育係だからな」


 ラビィーが隣に並ぶ。


 パンチャが槍を回す。


 ベアルが大鎌を握りなおす。


 シープが矢を構える。


 エレファが静かに未来を見る。


 全員ボロボロ。それでも。

 誰一人、下がらない。


「行くぞ」


 俺の言葉に。全員が笑った。


「当然!」


「当然ですわ!」


「当たり前ですの!」


「ラビたんを勝たせる!」


「僕、結婚式まだなんだけど!」


「だからそのフラグやめろって!」


 そして。俺たちは最後の戦いへ踏み込んだ。

 ベスボルが消える。


「右!」


 エレファの声にラビィーが剣を振るう。

 ギィィィン!!

 火花。衝撃。

 そこへパンチャ。


「オラァァァ!!」


 槍撃。さらにシープの矢。

 ベアルの大鎌突撃。俺の銃撃。

 全てが重なる。

 だが。


「ぬるい」


 黒い霧が爆発した。

「ぐぁぁっ!」


 全員が吹き飛ぶ。

 床を転がる。息が詰まる。

 やばい。強すぎる。

 だが――。


「先生!」


 ラビィーが立つ。

 血だらけになりながら。

 それでも。立つ。


「終わらせる!」


 ラビィーの身体が光り輝く。

 金色。いや違う。

 あれは。


「……麒麟の力」


 俺の中の何かが反応する。

 その瞬間、ラビィーの背後に巨大な光の麒麟が現れた。

 ベスボルが初めて表情を変える。


「神獣……だと……!?」


「行くよ、先生!」


「おう!」


 ラビィーが駆ける。

 速い。今までとは次元が違う。


 未来を選ぶ?

 知るか。

 未来ごと叩き斬れ!


「うぉぉぉぉぉ!!」


 俺は全弾を撃ち込む。


 シープの矢が道を作る。


 エレファが未来を読む。


 ベアルが霧を吹き飛ばす。


 パンチャが魔王を押し込む。


 そして。


 ラビィーが跳んだ。


「これで――終わり!」


 ラビィーの剣が振り下ろされる。


 白銀の軌跡。


 麒麟の光。


 仲間たちの想い。


 全部を乗せた一撃。 


 世界が白く染まった。


 静寂。


 次第に光が晴れていく。

 そこには――。

 胸を斬り裂かれ、崩れ落ちるベスボルの姿があった。


「……馬鹿な」


 黒い血を流しながら、ベスボルが膝をつく。


「吾輩が……人間などに……」


 ラビィーが静かに剣を構えたまま答える。


「人間じゃない」


 一歩。


「先生が導いてくれた仲間」


 そして。


 ベスボルの身体が崩れ始める。黒い霧となって。


              ~~第18代教育係、真鳥麒麟の書、10章完~~



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