第54話 駄女神リンネ
「……もし……もし」
誰かの声が聞こえる。
うるさいな。やっと楽になれたと思ったのに。
「うらぁぁぁぁ~~。いい加減に起きんかい! このエロ教育係が~!」
「へぐぁ!」
痛ててて。ん? ここはどこだ?
「ようやく起きましたか。これでも起きないようでしたら、神としてしてはいけない方法で起こそうと思いましたよ」
声がする方に視線を向けると、そこには光り輝く……一目で女神と分かる存在がそこに立っていた。
「おま、いや、貴方は」
「ふっ、私の名はリンネ。カルサカの女神であり、絶対神」
その一言だけで、空気が一瞬で張り詰める。
「もっと敬いなさい」
「いや、絶対神が自己申告って初めて聞いたわ」
「何も分かってないのですね。これだから童〇は……あら失礼」
アメリカンジェスチャーを身体で表現する女神。
俺、無神論者じゃないけど、この女神をぶっ飛ばしたい。
「さて、貴方は死にましたが、下界ではまだ魔王ベスボルとの激しい戦いが続いています」
「あっ、そういやあの魔王、名前あったな」
「忘れてたんですか? まあ、私より上位の神(作者)も忘れていた感じですからね」
リンネが手をかざすと、地上の状況が空中に映し出される。
そこには覚醒したラビィー、そしてサポートするパンチャたちがいた。
「ベアル、いつまで寝てるのよ。あたいのご褒美が欲しければ、魔王に突撃しなさい!」
「それは僕に死ねって言っているも当然だよ!」
「お前はもう死んでいる」
「なんでラビィー様が、七つの傷を持つ男になっているんですの!」
目が点になる俺と女神。
「……リンネ様、割と余裕に見えるのは俺の気のせいですかね?」
「気のせいです。私の可愛い子たちの最大のピンチです」
軽口を叩いていても、戦闘は徐々に劣勢になっていく。
当然だ。俺が死ぬ前にあれだけのダメージを全員喰らっているんだ。疲労の蓄積もあるだろう。
「このままでは負けますね」
「分かってるよ。で? 神様、チートくれるんだろ?」
「簡単に言いますね。だから童〇なんですよ」
「それ今関係ある?」
よし、ラビィーに女神リンネの信仰をやめるように進言しよう。
って、おいおい。ラビィーが魔王ベスボルの攻撃を喰らって吹っ飛んでるじゃん。
ベアルなんて、確実に片腕が折れているだろ。
「まだまだぁぁ! 先生の仇! 先生はとんでもない物を盗んでいった。私の心を!」
余裕があるんだか、ないんだか分からん状況だな。しかし……
「こいつら、ル〇ンのネタ好きだな!」
「流石、私が生んだ可愛い子共たちです」
まさに総力戦。
だが、俺の目から見ても明らかに魔王には余裕が見える。
「おい、リンネ。何とかする方法があるなら早くやってくれよ。その可愛い子供たちが死んじゃうよ。ここに来ちゃうよ!」
「まあ、あの子供たちに会えるのはやぶさかではないですか……」
「はい、この女神もポンコツ決定!」
「失礼ですね。私はやる時はやる神です」
「今の流れでその自己評価は無理があるだろ」
軽口を叩きながらも、視線はずっと空中に映る戦場に向いている。
ラビィーが立ち上がる。だが、足取りは明らかに重い。
「おいおいおい、本当にやばいぞ。神の一撃! ドーンみたいなことを出来ないのかよ!」
「出来ません」
「即答かい!」
「しかし、本当にまずいかも。魔王ベスボルがこれほど力を持っていたとは……参りましたね」
本気で考え込む女神リンネ。
ポンコツ女神を通り越して駄目女神。略して駄女神リンネでよくねぇ?
「あんた、一応神様ってカテゴリーの端っこに引っ掛かてる存在なんだろ」
「神様が何でも出来ると思ってます? 」
「何でもするからなんとかしろよ」
「私、そんな安っぽい女神じゃないので」
「神様がどこからそんな言葉を覚えてくるんだよ」
ふぅ~と大きく息を吐くリンネ。
そして自分の両手で頬を叩く。
「冗談で済む状況なら、とっくに済ませていますよ」
スッと、空気が変わる。
さっきまでふざけていた女神の気配が、ほんの一瞬だけ“神”になる。
「方法はあります」
「あるなら最初から言え! 何をすればいい? 神に捧げる裸踊り?」
「見たくないんで遠慮しますよ。そして、代償があります」
はい来ました。そういうやつ。
「……ちなみにどんな?」
恐る恐る駄女神に聞いてみると、リンネが指を一つ立てる。
「あの封印の壺。あれは神具です」
「知ってる。漬物壺にしか見えないけどな」
「あれを貴方の体内に取り込めば、復活出来ますよ。成功すれば」
「成功すれば? つまり失敗もあると」
リンネが、顔を横に背ける。
明らかにデメリットあるやつやん。しかも駄女神、お前が信用できん!
「まあ、失敗すれば身体がバーンと弾けますね。魂ごとなくなります」
「却下」
「却下出来る状況じゃないですよ」
間髪入れず返された。くそ、正論すぎる。
「安心してください。履いてますよ。じゃなくて、貴方がそれで復活すれば、もれなく全員の回復おまけ付きですよ」
「ちょっとネタが古いな! ……割にメリットがいいのがムカつく」
視線を下に戻す。
ラビィーが、また吹き飛ばされる。パンチャが、それでも立ち上がる。
シープの分身が消える。
「デメリットはまだあるんですよ」
「まだあんのかよ!」
「魔王を倒したとして、本体の霧状の魔王が出てきますよね。それを虫取りで集めて貴方の体内で封印してもらうんですが……失敗したら新魔王になります」
「デメリットがデカすぎ! ラスボス再抽選じゃねぇか!」
「新魔王”麒麟”で新たな物語の始まりですね」
「それ、俺が最終的に倒される確定じゃん」
下ではラビィーが、何度も立ち上がる。でも、明らかに足が震えてる。
パンチャも、ベアルも、シープも、エレファも……全員限界だ。
「魔王を身体に入れるって、どんな罰ゲームだよ」
「罰ゲームではありません。世界救済です」
「言い方だけ立派にすんな!」
リンネは肩をすくめる。
「ですが、他に方法はありません」
「あっそ」
「ありません。大事なことなので2回言いました」
「神様って希望を与える存在じゃねぇのかよ」
くそ。分かってる。こういう時の“ありません”は本当にないやつだ。
あいつらとの冒険した日々が思い出される。
「封印の壺に耐えて、魔王を倒して、魔王の封印に耐えるのかよ。めっちゃ賭けだな」
「いや、賭けにすらならないレベルですよ」
「神様が絶望させてどうするんだよ」
くそ、駄女神のくせに情報だけ的確なのが腹立つ。
……ああ、くそ。
「……時間、どれくらいある」
「ほぼありません」
「だよな」
深く息を吐く。
だが、俺の決意は変わらない。少しでもあいつらを助ける可能性があるのなら。
「……まあいいや」
リンネが、少しだけ驚いた顔をする。
「いいんですか?」
「良くねぇけどな。でも……」
もう一度、下界を見る。
ボロボロになりながら、それでも立ってるあいつら。
「教育係ってのはな」
肩を回す。痛みは、もう感じない。
「教え子を勝たせるためなら、何でもやる仕事なんだよ」
リンネが、ふっと小さく笑った。
「知ってますよ」
「なら話は早い」
「ええ」
リンネが手をかざす。
「行きなさい、麒麟」
視界が白く染まる。
「勝てる未来をーー作りなさい」
次の瞬間、俺の意識は落ちていった。
「行きなさい、教育係。信じていますよ」
~~第18代教育係、、真鳥麒麟の書、9章完~~




