第53話 先生、見てて
「先生……見てて」
ラビィーの顔が麒麟の顔に近づく。ためらいなく、その唇を重ねた。
静かに麒麟を横たえ、立ち上がる。
その姿は自信に満ち、完全に覚醒した勇者であった。
「ラビたん……」
「ラビちゃん……」
「ラビィー様……」
「ラビィーお姉ちゃん……」
空気が、変わった。さっきまでとは違う。
ラビィー様から放たれる威圧感そのものが変わっていた。
さっきまで魔王に押し潰されていた空間が、今は拮抗している。いや、違う。均衡じゃないーー“食い下がっている”。
ラビィー様が、一歩踏み出す。ただそれだけで、空気が震えた。
「……ほう」
魔王の口元が、わずかに歪む。
「ようやく“立てる未来”を選んだか」
その瞬間、ラビィー様の姿が消えた。いや……違う。速すぎて、見えない。
次の瞬間、金属がぶつかり合う音が玉座の間に響いた。
ギィィィィン!!
魔王の腕と、ラビィー様の剣がぶつかっている。
「……っ!」
止めた。あの魔王の攻撃を……真正面から。
「遅い」
ラビィー様が、低く呟く。そのまま剣を滑らせ、魔王の懐へ潜り込む。だがーー
「浅いな」
魔王の姿が“ずれる”。だが今度はーー
「知ってる」
私は、はっきりと見た。ラビィー様の剣が、ズレた“先”を斬っている。
ガキィンッ!!
再び激突。今度は魔王が、後ろへ下がった。
「……面白い」
初めてだ。魔王が、自分から距離を取った。ラビィー様が止まらない。
一歩、二歩、三歩ーー踏み込みながら剣を振るう。
速い。だがそれ以上に……迷いがない。
「そこですの!」
エレファの声に、ラビィー様が反応する。魔王の“戻る位置”。
その一点に剣が走る。
ズレる。だが……
ギィンッ!!
今度は完全に、捉えていた。火花が散る。魔王の腕に、わずかに傷が走った。
「……ほう」
魔王の目が、細くなる。
ラビィー様は息を乱さない。ただ、まっすぐに見据えている。
「先生、言ってた」
静かに、言葉を紡ぐ。
「一人で無理なら……みんなでやれって」
その言葉に、胸の奥が熱くなる。
「……だから私は」
一歩、踏み込む。
「勝てる未来をーー作る。パンチャ!」
「まだあたいも終わってないわよ!」
その瞬間、パンチャが魔王の死角から飛び掛かる。頭からの出血も気に留めず。
魔王の姿が消える。”瞬間移動”
だが、次の瞬間、その”先”に、ラビィー様が剣が走っていた。
再び衝突。
今度は互いに弾き合い、距離を取る。玉座の間に、静寂が落ちた。
だが、その静寂はーーさっきまでの絶望のものじゃない。
均衡。……互角へ。
私は、確信した。
(戦える……!)
あの魔王と……ラビィー様は、今、確かに並んでいる。
~~第18代教育係、真鳥麒麟の書、8章完~~




