表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
51/58

第51話 勇者と教育係



 北の砦に着いた俺たちは、闇夜に紛れて通称”魔物が守護する森”に入っていた。

 木々の隙間から差し込む月明かり。風が吹くたびに、どこかで枝が軋む音がする。

 

 誰も、無駄口を叩かない。……いや、いつもなら絶対うるさい連中が、だ。

 少しだけ仮眠を取り、朝食をとる。


「おっ、野営の朝食にしては豪勢だな」


「私が作りましたわ」


「あたいはそれを見ていたわ」


「なんでそれでパンチャがドヤ顔なんだよ」


 焚火を囲みながら朝食を取る。……不思議と、誰も長話はしない。

 これから魔王城に侵入する。全員が、その事実を理解していた。


「みんな、聞いてほしい」


 ラビィーが口を開くと、全員の視線が自然とそこに集まる。 


「私はもちろん魔王を封印する。それは……絶対に変わらない」


 覚悟を決めたラビィーの表情。


「だって……これは勇者たる私のやるべきこと」


 何も言わず、ラビィーの話を聞く面々。


「……先生。エレファと2人で砦に戻って。……エレファと先生がいれば例え私に何があっても守り切れる。……そして2人で次世代の勇者、四武太守を導いてほしい」


 エレファが驚きの表情を浮かべ、口を開こうとする。が、俺はそれを制した。


「ラビィー、それは本気で言っているのか?」


「大真面目に言っている」


「なおさら悪いわ!」


「先生……?」


「勇者だからなんだ。四武太守だからなんだ。万が一のためにエレファを連れてかない? 意味が分からん。お前ら、たまたま運命に選ばれただけだろ! もう! ここで! みんなで終わらせるんだよ! んで勇者だろうが四武太守だろうが平民だろうが、笑顔で暮らせる時代を作るんだよ!」


 ラビィーが言葉に詰まる。パンチャやシープが驚きの顔をする。


「前にも言ったよな。1人で抱え込むな。周りを頼れって。もう、保険をかけるときじゃないだろ。みんなで終わらせるんだよ」


 焚火の火が揺れる。ラビィーが、ほんの少しだけ息を吐いた。


「パンチャ、シープ、ベアル、エレファ。私と共に来てくれる?」


「はっ!」


 片膝をつき、頭を下げるシープたち。


「先生……頼っていい?」


「もちろんだ。俺はお前の教育係だ。大体、俺がいなくてこのメンバーで誰がツッコミ担当するんだよ!」


 ラビィーの口元がわずかに緩む。さっきまでの“勇者”の顔じゃない。

 少しだけ、いつものラビィーに戻っていた。


「でも先生は目立たないし、戦闘では役に立つか微妙」


「そこはほっとけ」

______________________________________


 目の前には魔王城。

 暗く、圧倒的な不気味さだけが漂う。しかもおかしなことに入口へ繋がるつり橋は下げられ、城門も開いていた。


「これは……私たちにビビッて魔物が逃げ出した? ってことでいい、先生」


「いや、絶対に違うと思うぞ」


「どうみても招かれてますわね」


「罠かもしれないですの」


 どうしようか思案していた俺たちだったが、ラビィーが突然つり橋に向かい歩き出した。


「おいおい。ラビィー、罠だったらどうするんだよ」


「そんな小細工をする魔王なら……簡単に倒せる」


 ラビィーは足を止めない。


「だから行く……罠でも何でも倒すだけ」


 ……誰一人ラビィーを止めない。

 根拠なき理論だが、なんとなく俺たちを納得させた。


 つり橋を渡る足音だけが、静かに響く。風が止み、空気が重くなる。

 おいおいおい。やばいフラグがバンバン立っている気がするわ。


 城門をくぐった瞬間ーー空気が変わった。

 肌にまとわりつくような圧。息をするだけで、胸の奥が軋む。


「……歓迎されている感じじゃないわね」


「歓迎はされてますわよ。……悪い意味で」


 パンチャの問いにシープが答えるが、誰も笑わない。

 長い廊下を進むが、魔物の姿はないし、気配すらない。


 ……静かすぎだろ。絶対罠やん。じゃなければ誘いこまれてるよね、これ。

 やがて、巨大な扉の前に辿り着く。


「ここ、だよな」


 誰が言うでもなく分かる。この先にーーいる。

 ここまで来たんだ。ここで全てを終わらせる。

 ラビィーが俺たちにアイコンタクトを促す。


(……行くよ)


 口に出さずとも、その決意が伝わってきた。その場にいる全員が静かに頷く。

 ラビィーが迷いなく扉に手をかける。重い音を立てて、扉が開いた。


 ーー玉座。

 その上に、そいつは座っていた。


「……遅かったな。勇者と……変態教育係」


「まだその設定、生きていたのかよ」


「全て読んでいたからな。お前の思考を……」


 ゆっくりと顔を上げる。以前、画面越しに見た時より威圧感が数倍、いや数十倍に増している。

 それだけ完全体に近いってことかよ。

 そして魔王の隣に3体の魔物。


「……う、嘘だろ」


 ベアルを瀕死にし、パンチャに倒されたケバスット。

 神殿に潜り込み、神官長に取り付いていたラブッター。

 ファンを殺し、心を読み、エレファに倒されたタクティス。

 いずれも恐ろしい強敵だった。


「この程度で震えるとは……まあいい。わざわざ封印の壺を運んでくれたこと。……ご苦労だったな」


 ケバスットたちの姿が次第に薄くなり、粒子のようになり、魔王に取り込まれていく。

「おいおい……嘘だろ」


 1体取り込まれる度に魔王から放たれる威圧感が増していった。


「なるほど、私たちが戦ったのは魔王の分体だったという事ですわね」


「俺に元気を分けてくれーみたいな?」


「その例え、今ここで出すな」




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ