第5話 助かったと思ったらボコられて気絶したんだが
俺がそう言った瞬間、魔物達の後ろが突然騒がしくなる。
目を凝らして見ると大勢の人間が魔物達の群れに雪崩れ込んできた。
慌てふためく魔物達。
その隙を見逃さずにラビィーがその場から弾け飛んだ。
魔物の群れに飛び込んでいくラビィーを見て、俺もライフルの引き金を引いた。
後ろからの突然の奇襲に慌てふためく魔物達は混乱し、逃げ出す者もいる。
俺は自分に向かってくる敵に集中し、ライフルやハンドガンを使って次々と倒していった。
しばらくすると目の前の敵が全ていなくなり、周囲から騒音が小さくなっていく。
剣と剣がぶつかり合う音。気合いの掛け声やわけの分からない奇声。
鎧などの軋む音。それらの音が俺の耳から消えていった。
「た、助かったのか?」
俺が一言そう呟くと、ラビィーが歩いてこっちに近寄ってきた。
さっきまで荒くなっていた息は整えられ、剣は背中の鞘に収められている。
そしてラビィーは俺の傍に来るなり、無表情のまま口を開いた。
「そうみたい。先生、良かったね。これでまた私のスカートをめくれるチャンスがある」
「お、お前。起きてたのかよ!」
「寝ていたわ」
「嘘だろ! 絶対に嘘だろ!」
「じゃあ、起きていたわ」
「胸を張って自信満々に言うな!」
ラビィーの言葉にツッコミを入れた後に悶絶する俺。
この会話すらも本に載っているのかと思うと、恥ずかしくて穴があったら入りたい気分になる。
無表情なラビィーは膝を抱えて悶絶する俺を興味深そうに眺めていた。
そんな俺達に近づいてくる1人の女の子。見た目は完全に幼女だ。
ツインテール……ではないな。おさげと言うべきか?
自分の身長より長い槍を背中に担いだその女の子は、ラビィーの姿を確認すると物凄い勢いでラビィーに走り寄ってきた。
いや、突進してきたと言った方が言葉として適切だな。
そしてそのままの勢いでラビィー抱きついた。当然の如く後ろに倒れこむラビィー。
「いや~ん、ラビたん。久しぶり~」
「パンチャ、久しぶり」
「ラビたんは相変わらずプリティーだよね。可愛いね~。キュートだよね~。もう~食べちゃいたい」
「それ、全部意味が一緒じゃねぇ? しかも……ラビたんって。プッ」
「三途の川を見に行けや~!」
「ぐわぁぁぁ~~~」
背中に十文字槍を背負った幼女にボコボコにされた俺は完全に気を失った。
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(痛たた……身体中が痛い)
「あっ、気付かれましたわね。すいません、パンチャは手加減を知りませんもので」
「そうですね。本当に三途の川を渡ると思いました。お爺ちゃんとお婆ちゃんが川の向こうで手を振っていました。って、あなたは誰ですかね?」
俺が寝ているベッドの横で綺麗なお姉さんが頭を下げている。
綺麗な緑色の髪。腰まであるストレートの長い髪。
ラビィーが可愛い女の子ならこちらの女性は大人の女性で間違いなく綺麗なタイプ。
羊の髪留めがアクセントになってさらに色っぽさに磨きをかける。
「申し遅れました。私、シャルケ・シープと申します。シープとお呼び下さい、麒麟様」
現実でこんな綺麗なお姉さんに話しかけられた事のない俺。
しかも、丁寧な言葉遣いに加え、礼儀まで完璧。そんなシープを名乗る女性に赤面する。
「あの……どうかなされましたか、麒麟様?」
「いや……あの……その……本当に何がなんだか分からなくて」
「そうですわね。わかりますわ。突然、こんな世界に連れて来られて……それでも私達には麒麟様が必要なんですわ。どうかお許し下さい」
そう言いながらシープが身を乗り出して俺の頬に両手を添えてきた。
こんな事をされて顔を赤くしない男がいるだろうか? 答えは否だ! どっかの芸人の台詞じゃないが
(惚れちまうぞ! 又は……俺を誘っているんじゃないの!)
と言いたくなるぐらい綺麗で整った顔を近づけてくる。
自慢ではないが俺は生まれて1度もモテた事はない。
もちろんこんな事をされたこともない。そんな俺にこの状況で口を開く高等技術があるはずがなかった。
「えっと……その……あの……」
そんな俺を見てシープは全てを悟ったかのように笑顔を返してくれた。
そして俺の両頬から手を離して短く
「マッパ・麒麟」
と唱えた。シープの手の中に俺の本が現れてパラパラとめくり始めた。
時折クスクスと読みながら笑っているが、なんとなくどこで笑っているのかは想像がつくのであえてスルー。
読み終えたシープは小さく頷いた後、優しい笑みを浮かべて俺に語り掛けてきた。
「そうですね。確かに麒麟様はまだ状況をしっかりと把握していらっしゃらないようですね。では細かい補足説明をさせて頂きますね」
そう言ってシープはこの世界の事、俺の置かれている状況、そしてこれから俺がするべき事を語りだした。




