第49話 継ぐ者
崩れた街に戻った俺たちは、戦いの余韻を引きずったまま、無言で席に着いた。
……珍しい。パンチャも、ベアルも、シープも。
誰も、ふざけない。エレファはーファンの使っていた鞭を、ぎゅっと握ったまま俯いている。
「エレファ、今日は、一杯泣く。もっと泣いていい」
そっとエレファに近づくラビィー。
「でも明日は。……貴方はファンおばさんの”意思”を継ぐ者」
ラビィーがエレファをそっと抱きしめるとエレファが声を殺してまた涙を流し始めた。
5分……10分……どれぐらい時間が経ったか分からない。だが、エレファがラビィーから離れた。
「……もう、大丈夫ですの」
腫れた目のまま、それでも強い気持ちで言う。
「私は……お義母さんの意思を継ぐ者なのですの」
そう言って、お腹が空きましたのと言いながらテーブルの上のパンに手を伸ばした。
「憶測ですが義姉さんは私たちのために裏切ったふりをしたんですわ」
2つ目のパンに手を伸ばそうとしたエレファの手が止まる。
「……お義母さんらしいですの。1人でなんとかしようとしたんですの」
「良い人だったんだな……」
「ただのババァよ。……今頃三途の川で優雅に川下りをして天国に向かっているんじゃない」
少しだけ寂しそうなパンチャが口にする。
「それよりもさ、エレファの能力って何だったんだ? 俺が外から見ていても何が起こっているか全く分からなかったんだけど」
少し空気を変えるべく、俺は話題を変えてみた。
いや、これぐらいしないと。前回、前々回と俺、全く役に立ってないし。
……一応、俺、主人公だよね? 誰だよ、主人公はシープかエレファじゃないの?って思ったやつは? 影が薄くても俺が主人公だからな。
「それ、私も気になりました。あの敵の言動を読み解けば、心を読む能力とは分かったのですが……」
「あのですね。あいつが読んでたのは”今”ですの。だから私はその先を考えましたの」
「ん?」
「でも、エレちゃんのその考えも読んでいたんだよね」
「だからその先を考えていましたの」
……ごめん、エレファ。全然分からん。
「え~とですね。私もうまく説明出来ないのですが……まあ、何も考えていないラビィー様、猪突猛進のパンチャ、パンチャ馬鹿のベアル、超目立たない麒麟様には分からないってことでよろしいかと……」
「すげ~直接ディスりやがったよ、この人」
「で、義姉さんが持ってきたこの壺なんですが、神具なんですよね」
シープの手の中にある、壺。それはファンが命を掛けて俺たちに届けてくれた壺。
「先生。私、それ、見たことある。……台所で漬物を入れて置くやつ」
「俺も幼い頃にばっちゃん家で見たことあるわ」
「麒麟お兄ちゃん、ツッコミが雑すぎですの」
「しかし、虫取り網といい、漬物壺といい、女神リンネ様って何を考えて神具を作ったのかしらね。神様じゃなかったら三途の川に溺れさせるレベルよ」
確かに。壺に神聖な呪文が書いてなかったら、普通に大根や白菜入れるレベルだぜ、これ。
シープからラビィーに壺が移った瞬間、壺の輝きがいっそう増した。
神具には間違いないね。
「先生、これ……」
「どうした? 魔王のぬか漬けでも出来てたか?」
「封印、解かれてない。中途半端に封印されてる」
「はぁ?」(俺)
「ひぃ?」(ベアル)
「ふぅ?」(パンチャ)
「へっ?」(エレファ)
「ほう」(シープ)
「なんで五段落ちなんだよ。重要なことをラビィーが言ってんぞ」
いや、しょうがないのか。脳がフリーズを起こしていて当然だわ。
……俺も分からん。
「え~と、ラビィー様。本当に中途半端に封印されているのですか?」
「今日の夜ごはんにかけて間違いない」
「信用度がめっちゃ下がってんぞ」
自信満々に胸を張るラビィー。その姿に目をハートにするパンチャ。それを見てくねるベアル。キモい。
一方、頭脳組(シープ、エレファ、俺)はどういう事か真剣に考える。
……俺だって考えてんだよ。ツッコミが本業じゃないぞ。
「あのアホ初代勇者が魔王封印に失敗。だから2代目勇者の身体が乗っ取られていたと」
「で、完全に身体を乗っ取るまで眠っていたですの。それを私たちは封印されていると勘違いしていたのですの」
「それに気付いた義姉さまは1人で何とかしようと……」
また重たい空気が戻ってくる。しかし、その空気を変えたのはラビィーだった。
「謎解けた。でも、やることは変わらない。魔王を封印する。それだけ」
ラビィー、立派になって。
……お父さ……じゃない、教育係としてすごく嬉しいぞ。
「ラビィーの言う通り。謎が解けたっていってもやることは変わらない」
「そうですね。なぜ失敗していたのかは分かりませんし、今度は失敗しないように注意するだけですね」
「大丈夫。ベアルじゃあるまいし」
「本人が目の前にいるし、何も失敗してないよ」
「お前は存在自体が失敗してんじゃん」
少しずつだが空気が戻っている。
エレファにまだぎこちないが笑顔が戻ってきた。心の底から良かったと安心する。
「麒麟お兄ちゃんの本を読んで封印方法をおさらいしましょうか」
「オッケー。あたいが憎悪と嫌悪を込めて本を出してあげるわ」
「どんだけ嫌われたらそのレベルになるんだよ」
「真鳥キリー馬鹿麒麟先生様!」
ーーいつもなら、ここでポンッと本が出る。
だが。何度試そうが、誰が唱えようが本は出ない。
「実に面白い」
おい、シープ。いきなり湯川教授になるんじゃねぇ。
その眼鏡、いつ用意したんだよ。
「そういえばあの……名前も覚えてないですが心を読む魔物。あれが自己紹介の時に何か言っていたような気がするですの」
まあ、あの時エレファはそれどころじゃなかったし、覚醒して無双していたから、名前なんか気にしてないんだろうな。
「た・た・た。たくあん?」
「ラビィー漬物封印壺に引っ張られ過ぎだ」
「いいじゃない。仮称を倒したからじゃないの?」
パンチャお前がやっていることは、お前を全肯定する変態のやっていることと同じことだからな。
「出ないなら出ないで問題なし」
「封印方法は私が一言一句覚えていますので問題ないですわ」
……いや、問題なしで済ませていい問題かこれ。




