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第43話 どいつもこいつも好き勝手ですわ!



 瞬間移動、面倒くせー! ケバスットといい、ラブッターといい、なんでこんなに面倒くさいんだよ。

 ……でもさ、戦力の逐次投入って魔王ってアホじゃない? 普通、まとめてくるだろ。順番に倒されに来てどうするんだよ。


「ふふふ。額に汗を浮かべる女性の匂いもまた魅力的ですね。しかしそろそろ終わりにしましょうか」


「髪フェチに汗フェチとか変態に変態を重ねてくんじゃねぇよ!」


 何とかラブッターをシープから引き離そうとライフルを乱射するが、瞬間移動で全然当たらない。

 まだ、ケバスットの方が当たる気がしたぞ。あいつはちゃんと躱してくれたからな、バク転とかで。ちっ、弾が切れた。


 弾薬を補充しようとした瞬間、ラブッターの背中から生えている触手がウネウネを動き出す。そしてラブッターを中心に物凄い勢いで触手が襲い掛かってきた。


「うわっ!」


「きゃああああ!」 


 吹っ飛ばされる俺とシープ。

 何とか立ち上がろうとするが、さらに追い打ちの触手の攻撃で俺もシープも激しく壁に叩きつけられた。


 ダンプカーとかに弾き飛ばされるってこんな感じなのかな? 弾き飛ばされたことないけどね。でも、これに近い衝撃は受けたことある。

 主に味方のロリ娘だけど。って冗談言ってる場合じゃない。こいつ、強い。


「苦悶に満ちたシープ様の表情もいいですね。本当にそそります。あっ教育係の貴方はさっさと死んでください」


「変態を完全に超えてるな。聖職者じゃなくて性職者だろ」


「なんとでも言えばいいですよ。どうせ、貴方はすぐに死ぬんですから。シープ様は私のペットとして一生愛でてあげますよ」


 神官長がいやらしい笑みを浮かべる。


「寂しくはありませんよ。ラビィー様もエレファ様も私のペットとなるのです。あのロリ体型と女装フェチはいらないので教育係の追ってあの世に送って上げますよ」


「パンチャがここにいたら三途の川を超えて地獄送り確定のセリフを言ってるぞ」


 やべぇ。何とかツッコミを入れたけど、さっきの衝撃波の影響で身体が動かねえ。

 シープも一緒か。今は少しでも時間を稼がないと。

 もしかしたら異変に気付いたラビィーやパンチャが来てくれるかもしれないからな。


「神官のトップがなんで魔物に操られてるんだよ。それでも神の使いかよ」


「私はただ、欲しい物を欲しいと言っているだけですよ」


「……欲しいもの?」


「酒……女……金……そして権力! 魔王様と手を組んだ私はこの国を手に入れる!」


「……」


 ため息しかでんわ。


「せめて世界を~とか言えよ。なんだよ“酒・女・金”って。居酒屋の常連かお前」


「権力も追加されてますわよ」


「フルコースかよ。器が小さすぎて普通のツッコミしか出来ん」


「教育係よ。もう黙れ」


 ラブッターが静かにそう言ったが、瘴気は爆発的に膨れ上がる。

 さっきまでとはまるで圧が違う。そしてシープに近づき、髪を掴んで無理やり立たせる。


「きゃあぁぁぁ!」


「あははははは。この力。最高だ……! この力さえあれば、四武太守どころか勇者さえも」


 その背後で、子供たちが、震えている。

 泣いている。

 声も出せずに。

 それを見てラブッターがニヤリと笑った。


「そうだ……お前たちも使えるな……」


「……は?」


「どうせ価値のない命だ。ならば、私の力に変えてやろう」


「おい」


「街の連中も同じだ。弱い、愚か、使えない。だからこそ――」


「おい」


「私のために使われる価値がある――」


 こいつ、完全に魔物に洗脳されてやがる。元々、こういう欲望を持っていたんだろうな。

 こんな奴が神官長に選ばれるって、この世界の神って大丈夫なのかよ。


「……どいつもこいつも……」


「ん? どうされましたか、シープ様。命乞いですか?」


「……どいつもこいつも……好き勝手やりやがって……その手、離しなさい」


 突然シープから光の柱が立ち上がる。そしてラブッターに思いっきり平手打ちをする。

 派手に吹っ飛ぶラブッター。ざまぁ~。


「どいつもこいつも好き勝手やりやがってですわ! 残された身にもなってほしいですわ! 酒? 女? 金? 欲しいと思うなら努力のベクトルを変えなさいですわ。勝手にいなくなって後は任せたってことですか? 理由ぐらい言いなさいよ! ふぅ~。まあいいですわ。とりあえず現状を何とかしましょう」


「ふっふっふ。良い平手打ちでいたよ、シープ様。私、開けてはいけない扉を開けそうでした」


「その扉を開けて入っているのは麒麟様だけですわ」


「いや、入ってもなければ開けてもないからな」


 ゆっくりと立ち上がるラブッター。神官服の埃を払い、余裕を見せる。

 だが頬にはシープの平手打ちの跡。


「やはりペットは従順な方がいいですね。ゆっくり飼い慣らして行くとしましょう。いずれは私の前に跪き、ご主人様と言うことになりますので」


「私のご主人様は麒麟様だけで十分ですわ」


「いや、なった覚えないわ」


 シープとラブッターが正対する。緊張感がこちらまで伝わってくる。

 俺が生唾を飲み込んだ瞬間、ラブッターの姿が消えた。


 ……瞬間移動か。またシープの背後なのか。

 シープがいた場所に視線を移すと、そこにはシープの姿はなく、左腕に矢の刺さり負傷しているラブッターの姿だけだった。


「瞬間移動する時に視線を動かすのは止めた方がいいですわよ。次にどこへ飛ぶかが丸わかりです」


「うぬぅ……」


「2回も攻撃して私たちにとどめをさせなかった。そして常に背後に回ろうとする。自らの攻撃力の無さ露呈してますわ」


「この野郎!」


「私は女性ですので野郎ではないですわ」


「もう余裕じゃん」


 瞬間移動で背後をとろうとするラブッター。

 だが、シープの速度はそれを完全に上回っていた。


 次々にラブッターの身体に刺さる矢の数が増える。

 見えない。俺の目にはシープも瞬間移動しているようにしか見えなかった。


「ここまで苦戦するとはな。ならば!」


 ラブッターの視線が一瞬子供たちの方へ向きかける。


「ーーふっ!」


 が、それを遮るようにシープの姿が現れる。

 ラブッターの視線を誘導しているのか? 覚醒するとそんなことも出来るの?


「麒麟様の視線を感じると興奮しますわ。ラビィーから私に乗り換えますか?」


「いや、ラビィーにも乗ってないからな」


 苦し紛れなのか、ラブッターの触手が、子供たちへと伸びる。

 だが、その触手すらシープの矢がすべて撃ち落とす。  

 確実にラブッターにダメージを与えるシープ。ついにラブッターが肩で息をし始めた。


「ふふぁふぁふぁ。覚醒がここまで戦闘力が上がるとはな。今日は引き下がるとしよう」


 瞬間移動で逃げる気か? 俺は銃を構え、ラブッターの一挙手一投足を見る。

 しかし、退治するシープにはまだ余裕があった。


「強がりはやめておきなさい。あなたの瞬間移動は視認できる場所だけですわよね。私たちの隙を窺おうとするのが見え見えですわよ」


「な、なぜそれを……」


「バレバレです♡」


「語尾にハートマーク付けても怖さしかない」


「では、そろそろ終わりにしましょうか」


 そう言ったシープの姿が消えた。

 と思いきや、弓を構えるシープの姿が次々に増えていく。8人、9人、10人。


「どこへ瞬間移動しても無駄ですよ。移動先は分かりますから」


「ち、畜生!」


 矢が放たれた瞬間、ラブッターの姿が俺の視界から消える。

 残っているのはシープの残像だけだったが、それも次々に消えていく。


「ぐ、ぐおぉ……」


 ラブッターの嗚咽交じりの声のほうへ視線を向けると、シープがラブッターの背後に立っていた。

 手には矢だけ持ち、ラブッターの首筋に刺している。


「あの世で女神リンネに懺悔しなさい。あっ、貴方は地獄行きですので女神には会えませんわね」


 ゆっくりと倒れるラブッター。

 首にはラブッターに取り付いた魔物も一緒にとどめを刺されていた。


「……終わったのか?」


「終わりましたわ、麒麟様」


 そう言ったシープの笑顔はいつもの優しい笑顔に戻っていた。




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