第40話 シープの約束
各自で神殿内を捜索することになった俺たち。
いや~こっちの世界に来てから一人になることなんてなかったから不安しかない。
しかし、地下に繋がる隠し通路なんてどうやって探せばいいんだろう? 漫画やアニメだとボタンがあったり、壁を叩いて違う音がしたりって感じなんだけどさ。
そんなお約束展開は現実にはなかなかないって。と思っていたら違うお約束の展開になったよ。
「うん、迷った」
歴代教育係の体術やら能力を受け継いで一般人よりも気配を消したり、パルクール代表並みに動けるようになったから調子に乗っちゃった。
しかも神殿内ってどこも似たような構造になってるからどこにいるか分からない。
「さて、どうしましょうかね」
「なら私と一緒に探しますか? ふう」
ぬぉぉぉぉぉ~~~。びっくりした、びっくりした、びっくりした。
心臓が口から飛び出るぐらいびっくりした。
あと、シープさん。耳に吐息かけるのは止めてもらっていいですかね。感じちゃったらどうするつもりなんだよ。
「麒麟様、こんなに早く神殿の奥まで来るなんて腕を上げましたね。でも、ラビィー様のストーカーになるのは止めてくださいね」
「あなたのジョークは重たくて、ツッコミがしずらいからやめて」
「いえ、今日の私は重たい日ではありませんよ。予定では1週間後なので夜這いされる予定なら、その週は避けていただけると嬉しいですわ」
「はい、明日使えない無駄情報を教えてもらいました~」
おっ、ボケのキレが戻ってきているね、シープ。
かなり重たいパンチになってるけど、それでこそシープだね。
「ちょうど良いところで麒麟様にお会いできましたわ。神殿の構造上、おかしいところを発見しましたので一緒に行きましょう。あっ、ラビィー様には内緒でお願いします。ラビィー様がNTRに目覚めるかもしれませんので」
「うん、ここにいない人にも変な属性を付けるのも止めような」
神官たちに見つからないようにシープの後に続く。
さっきまでの奇麗な廊下とは違い、薄暗く少し埃っぽい。人気もなく、辺りは静まり返っている。
「この辺ですわ。構造上、この壁の裏に空間があるはずです。モザイクが消える薄目が得意な麒麟様なら隠れ結界も分かるのでは」
「逆セクハラで訴えて裁判したら勝てるレベルに来てるからな」
シープと二人で目を凝らし、隠れ結界を探すが見つからない。
ってことは、壁や床にスイッチがあるパターンかな? おっと、石壁に他のところとは色合いが少し違う石を発見。これかな。
俺がその石を押すと音もなく壁に入口が出来た。
「あら、流石ですね。すいません。麒麟様を連れてきましたが、全く役に立たないかな。人選をミスりましたと内心では思っておりました」
「謝りながら傷つけるんじゃねぇよ。素直に褒めろ」
入口に入るとすぐに地下へと続く階段。シープと二人で周囲を警戒しながら階段を降りていく。
これは当たりじゃねぇの。この先には神々しく光る神具がおいてあるパターンだよね。神具を作った神からのお告げとかあったりするんじゃねぇの。くぅ~、神様からの啓示。物語的にもめっちゃ熱い展開じゃん。
そんな俺の予想を裏切り、階段を降りた先には非人道的な光景が俺の目に飛び込んできた。
小さな子供たちが牢屋の中に閉じ込められている。髪はボサボサで身体は瘦せ細り、悪臭も凄い。子供特有のキラキラした目は完全に曇っている。
「なんだこれ。本当に神殿内かよ」
俺はすぐさま牢屋をこじ開けようとするが、シープにそれを制された。
「麒麟様。今は我慢してください。今この子たちを助け、神殿や神官長を問い詰めても下っ端の神官を尻尾切りして上層部には届きません。上層部がこの非人道的なことに関わっている証拠を見つけなければ、また次の悲劇が生まれます」
「それは……」
シープの言っていることは誰が聞いても正論だ。しかし、シープの顔は怒りや悔しさが入り混じった顔をしているのを俺は見逃さなかった。
鉄格子越しにシープが子供たち見つめ歩み寄る。そして子供たちと視線の高さを合わせ、優しい声で語りかけた。
「もう少し、もう少しだけ我慢してください。あなたたちは私が必ず助け出します。少しだけ待っていてください」
シープが持つ慈愛の雰囲気が警戒していた子供たちを安心させる。
その中でもひと際小さな子供がシープの前までやってきて小指を出す。
「えぇ。約束です。必ず私たちは貴方達を救ってみせますわ」
そう言いながらシープは小指を絡ませて子供と約束をかわす。
その笑顔は今まで見たシープの表情の中で一番優しくて綺麗だった。
とりあえず現状況を確認しあうために禁書室に戻る俺とシープ。
禁書室に戻ると他のメンバーは先に戻っていた。
「結局、神具は発見出来なかったのかよ。あのアホ初代勇者の記憶違いなんじゃねぇの?」
「神殿も800年経って拡張などしていますの。なので正確な位置が分からなくなってますの」
「で、捕らわれている子供たちを発見したと。シープお姉さまとふ・た・り・き・りで行った……ぐぬぬぬ」
「落ち着け、パンチャ。初〇機の暴走状態のような呻き声を上げるな」
「明日、もう一回探すですの」
「私の時代に腐敗した神殿はいらない。神具と一緒に神殿の悪事の証拠も探す」
「ラビィー様。今の話について来られたんですね。立派になられて」
「驚くところはそこなの?」
リンネ神殿での寝泊りを断った俺たちはこの町の領主館に向かう。
ん? 空き家? 人の気配がしないけど。俺の疑問を感じ取ったのか、エレファが口を開いた。
「この街の領主館は空き家ですの。王都が陥落したときに、次の標的はここだと思った領主は真っ先に逃げ出しましたの」
「駄目じゃん」
「貴族の風上にもおけない。あたいがいずれボコボコにして三途の川に送り届けるわ」
「そんな屈託のない笑顔で言われたら愛想笑いしかできないよ」
「まあ神殿に泊まると私やエレファの貞操の危険を感じましたから」
神殿の、この街の元領主の駄目っぷりに全員が大きなため息をつく。
腐敗した神殿に奴隷制度。そして牢屋に捕らわれた子供たち。
もし魔王を倒したとしても前途多難だね。まあ、俺も当事者の一人として頑張る。
「久々にお風呂にでも入ってゆっくりしようよ。浴場で欲情。なんちゃって」
「ベアル。そのレベルのダジャレを言い切ってドヤ顔出来るのメンタルだけは尊敬する」
「私は少し身体を動かしてくる」
「ラビィー。俺と少し立ち合ってくれるか。この身体がどこまで動くか限界を知っておきたい」
「分かった。しこってあげる」
「しごいてあげるの間違いだろ。大事なところを噛むんじゃねぇ」
ラビィーの隣に立ち続けるためにも自分自身も磨かないとね。ツッコミのレベルばっかり上がっているけど、身体能力や射撃がどこまで上がっているか。
そんなことを考えていたんだけど、俺の知らないところでも物語は進んでいたんだよね。
「シープお姉ちゃん……」
「エレファ。やっぱり貴方は気付きましたか」
「ラビィー様や麒麟お兄ちゃんにも相談したほうが」
「私たちに重要なのは確信であり、事実です。根拠なき仮定の話をラビィー様たちにしても何も現状は変わりません」
「でも……」
「いずれ事実が判明します。あの人ならそうなるはずです。その時を待ちましょう」




