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第39話 神様の家とは思えない



「ラビィー様、そして四武太守の皆様。ようこそ、リンネ神殿へ。現神官長のラブッターと申します」


「18代目勇者ラビィー。そしてパンチャ、ベアル、シープ、エレファ。そして私の現教育係の……先生ってなんて名前だっけ?」


「ラビィーさん、そのボケは予想できなかったので、ツッコミが追いつかないです」


 笑いをこらえているポンコツどもはスルーして。

 ラビィー、俺のこと好きなんだよね? 確かめ合ったわけじゃないけど、俺の気のせいじゃなければ、両想いだと思っていたんだけどな~。100年の恋も覚めるレベルだよ。  


 しかし、この神官長。この間戦ったトロールのケバスットのような体型してるな。

 読者の皆さんに分かりやすく言えばお相撲さんの体型。


 だけど、お相撲さん、力士やケバスットは明らかに筋肉だけど、こいつは違う。

 脂ぎった顔に、だらしない体型。シープやエレファを値踏みするような視線。


 俺、あんまり人を疑うようなことをしたくないけど、こいつはまったく信用できない。

 なんでこんな奴が神官長なの?


「今回こちらには初代勇者、初代教育係のことを調べに参りました。神殿の入室禁止区域、禁書室の閲覧許可を頂ければ、余計な気遣いは無用です」


 シープが一歩前に出て話を掻い摘んで説明をし始める。

 あれ? 神具を取りに来たんじゃないの? 神官長に言って持ってきてもらえばいいのに。


 俺の心情を読み取ったエレファが、服の裾を引っ張り首を振る。

__詳しいことはしゃべるな__って言ってるのかな。そう思った俺は小さく頷いた。


「もちろんですとも。禁書室への許可はすぐにでも出しましょう。魔王は倒すべき存在ですからな。現勇者、そして女王候補のラビィー様には平和な世の中を作ってほしいものです」


 ……胡散臭い作り笑顔って言葉が似合いすぎるだろ、こいつ。

 隙あらばシープやエレファを舐めるように下から上まで見るんじゃねぇ。こっちが気付いてないと思ってんのか。


 あと、こいつ、聖職者だよね。金ぴかの装飾品とか付けすぎじゃねぇ?

 これって偏見?


「ありがとうございます。この街が魔王の次の標的という噂が流れているようですが」


「はっはっはっ。この街には神のご加護を受けた神官戦士隊があります。王都フィーファのような軟弱兵ではありませんよ。では、また何か御用がありましたら、声をかけてください。仕事がありますので、失礼します」


「あと1つだけ質問があるのですけれどもよろしいでしょうか。以前、ここに四武太守のモイズ・ファンが来ましたか?」


「あぁ、ファン様ですか。半年前ぐらいに来ましたよ。いや、あの方も実に見事な……ゲフンゲフン。来ましたけど、何か?」


「いえ、確認したかっただけです」


 はい、エロ神官長が確定しました~。全然隠せてないからな。

 確かにあのご婦人もかなりボン・キュ・ボン体型でしたけど。


「痛っ!」


「先生、顔がキモイ。ベアルと同じような顔をしちゃ駄目」


「おおぅ。ラビちゃん。思わぬところからの流れ弾、ありがとうございます」


「ベアル。お前はパンチャの罵倒じゃなくてもいいのかよ。変態度がどんどん増して、太守とは思えない軽さになってるぞ」


 廊下に出た俺たちはきらびやかに装飾された神殿内を歩き、禁書室へと向かう。

 足音だけが響く。そんな静寂の中、突然の大声が神殿内に響き渡った。


「何をしている! さっさと運ばないか!」


 思わず足を止め、声がする方へ視線を向ける。

 そこには数人の子供たちが重そうな箱を運んでいた。

 痩せ細った腕。擦り切れた服。そして、_首に付けられた、金属の輪。


「奴隷……?」


「奴隷ですわ」


 独り言のように呟いた俺の問いに、シープが怒りを噛み殺すように答えてくれた。

 そしてすぐさまシープは走り出し、今にも奴隷の子供を殴ろうとしていた若い神官に向かって声を荒げた。


「何をしているのです! 確かにこのリーガエスには奴隷制度があります。が、奴隷にも人権はあるはずです。こんな子供に手を上げようとは。恥を知りなさい」


「これはこれはシープ様。いやいや、これは注意ですよ」


 若い神官が悪びれもなく言った。


「私たち神殿はこの者たちを保護し、仕事を与えているのです。寝床も食事もです。仕事が出来なければ叱るのは当然のことでしょう。感謝されこそすれ、非難される謂れはございません」


 ドヤ顔で何を言っているんだ、こいつは。

 殴りたい衝動を理性で抑え込むのが必死だぞ。


 このパーティーの武闘派、パンチャとラビィーも今にも殴りかかろうとしている。 

 が、ベアルがパンチャを羽交い絞めにし、エレファがラビィーの腰にしがみ付き、飛び出さないように抑えている。


「では、もう少しで良いので子供には優しく接しなさい。この子供たちは奴隷とはいえ、この国の未来の財産なのです。四武太守、シャルケ・シープの名においてこの行いは看過出来ません。そう神官長にも伝えなさい」


 若い神官は不満げな顔を隠しもせず「わかりました」と言い、頭を下げてこの場から立ち去って行く。

 俺は見逃さなかったぞ。一瞬だけだったが、いつも優しい笑顔を浮かべているシープの悔しそうにした顔を。


 俺だって全然納得してないぞ。生粋の日本人として百歩譲ってスラムまでは分かるし、しょうがないと思う。

 でも奴隷制度って。俺が文句を言おうと口を開こうとする寸前でシープに腕を捉まれる。


「騒ぎを起こさないでください」


 低く怒りに燃えたシープの声。


「ここはリンネ神殿。……王族ですら干渉できないのです」


 悔しそうなシープの一言で、逆に俺の頭が冷えた。  


「とりあえず禁書室へ向かいましょう。そこでなら邪魔も入らずに話せますので」


 シープはそう言うが早いか、振り向きもせず歩き出した。

 とりあえず禁書室についた俺たち。部屋に入った途端、シープが俺に向かって頭を下げた。


「麒麟様、すいません。この国のみっともないところお見せしてすいません」


「えっ、あっ、いや。別にシープが謝ることじゃないだろ」


「何なの、あいつ。エレファが止めなかったら確実に三途の川を渡らせたのに」


「私も先生が止めてくれなかったら殴ってた。でも、こういう時こそ落ち着いてと本に書いてあった。深呼吸。ヒーヒーフー」


「ラビィー様も落ち着いてくださいですの。それはラマーズ法ですの。赤ちゃんを産むときの呼吸方法ですの」


 ナイスツッコミ、エレファ。しかし、この人たちはこんな時でもボケを忘れないってある意味すげぇな。

 そしてラビィー。色々間違ってはいるが、ちゃんと自分で勉強しているんだな。えらいぞ。


「いくら合法的に虐げられるご褒美とはいえ、あれは流石にちょっとね」


「ベアル。奴隷をご褒美と思えるのはお前だけだからな」


「僕は望んでパンチャの奴隷だからセーフだよ」


「いや、お前のその思考がアウトなんだよ」


「私が女王になったら絶対に奴隷制度は廃止する。公約にしてもいい」


「どっかの政党みたいに言うな。しかも公約にすると実現する気がしねぇ。で、神具はどこにあるんだ」


「そのことなんですが、多分リンネ神殿は神具の存在を知らないと思いますわ。もし神殿に神具があると知っていたら神殿の権力はもっと大きくなっていたと思います」


 へっ? 神具があるから神殿じゃないの?

 まあ確かにあの神官長なら神具を渡す見返りにとんでもない要求してきそうだけどな。


 ラビィーが女王になったら奴隷制度どころか、神殿の権力を絶対に削いでやるからな。あんな奴が神に使える神官長なんて絶対ダメだろ。


「あの舐めるような視線は私の身体をよこせとか言ってきても不思議ではありませんでしたわ。まあ、私の身体は麒麟様に予約済みなので指一本触らせませんが」


「予約した覚えはない。こういうシリアスな時ぐらいはキャラがぶれてもいいと思うぞ」


 しかし、なんというか、シープのボケにキレがないな。

 キレがないから俺のツッコミもイマイチだな。


「とりあえず神具を探しましょう。どこかに地下に繋がる隠し通路があるはず。エレファはここで封印方法などのことを調べるように。あと、私に考えがありますので、なるべく個々で動いてください」


「分かりました。私はここで初代勇者の事や封印のことを調べますの」


 シープがてきぱきと各々の役割を決めていく。

 軍師はエレファかもしれないけど、リーダーの役割はシープなんだよな。ラビィーが女王になった時は、間違いなく宰相はシープだね。

 下ネタだけを止めてもらえば完璧。


「えぇ~、パンチャと一緒じゃないと僕は役に立たないよ」


「胸を張って自信満々で言うセリフじゃねぇ」


「あたいはラビたんと一緒に行って人気のないところで良いムードになって……」


「目的がズレすぎですの!」


「あたいは一線を超えないから大丈夫よ」


「その妄想が一線超えてるというか踏み外してる」


「先生の得意な薄目でモザイクを見る感じで周りを探して。そうしたらぺシャルの隠れ結界も発見できるから」


「お願いだから俺のキャラに変な設定を足さないで」


 こいつらは常に平常運転。まあ、らしいっていえばらしいんけどね。




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