第38話 リンネ神殿の違和感
・・・・・・なんか枕がえらく柔らかくて寝心地サイコー!
って、俺、生きているの? これって天国のベッドとかじゃないよね。少し怖いけど目を開けてみようか。行くぜ!
「うんしょっと」
「先生、急に動かないで。変な気分になる。あと微妙なところに息を吹きかけないでほしい」
ゆっくり目を開ける麒麟。目の前にはラビィーのお腹。
しかし、この事に対して麒麟は全く驚くことはなかった。
「で、なにこれ?」
「膝枕。先生が私の太ももの感触を堪能している」
「俺が聞きたいのは、この状況になった経緯だね。今の状況報告は求めてないぞっと」
そう言えば初めてラビィーと初めて会った時も膝枕してもらったな。
ラビィーはいつも俺を気にかけてくれてる。訳の分からないこの世界に放り出されて、ラビィーがいたからここまでこれた。
……俺、ラビィーにお礼をちゃんとしたことないな。
丁度いい機会だから俺の気持ちを伝えておこう。名残惜しいけど、膝枕は終わりだ。
そう思った俺はゆっくりと身体を起こし、ラビィーと向かい合うように座り直す。
そして勢いよくラビィーを抱き締めた。急に抱き締められたラビィーは少しだけ身体を硬直させる。
「どしたの、先生?」
「ラビィー、いつもありがとうな。本当に感謝してる。何も分からないこの場所で、いつも俺を気にかけてくれて。絶対にあの残念魔王を倒そうな。それで俺はお前を立派な女王にして……」
「私を立派な女王にした後は?」
「その後は……前にも言ったけど、魔王を倒した後に伝える」
「ふっふっふ。本当にアンタはゴキブリ並みにしぶといわね。ラビたんに告白しようなんぞ、100万光年早い! 三途の川で溺れろ!」
「それは距離の単位で時間の単位じゃないですの!」
さすが天才エレファ。そのツッコミを瞬時に入れるとは!
俺には出来ないツッコミの種類だ。そっか、確かに光年は距離の単位だね。読者のみんな、覚えておこうね。この物語が勉強になるとは思わなかったね。
「で、ここはどこだ?」
「馬車の中」
「あのな、ラビィー。俺が聞きたいのは今いる場所じゃなくて、位置の事だからな。場所と位置は違うから。ここ、テストに出ます」
「メモしておく」
言葉って難しいね。うんうん、良い心がけだぞ、ラビィー。メモを取るならこういう事をメモしないと。
さっきのエレファに教えてもらった距離と時間の単位の違いとかもメモしておくんだぞ。変な下ネタとかはメモしなくていいから。
「現在、リンネ神殿の町タパセローに向かって移動中ですの。麒麟お兄ちゃんが殺されそ……意識を失ってから、ほぼ1日過ぎているのですの」
「俺、本当に殺されかけたんだね。しかも仲間から」
「麒麟様が三途の川を見学に行っている間に、今後の方針が決まりましたわ。ですので急いでタパセローに向かっています」
ん? なんとなくだけどシープの表情が固い気がするな。
いつもなら余裕の表情で下ネタをぶち込んで来るのに。気のせいかな? それよりも
「俺がいなくとも重要な案件が決まる件。俺っていらない子?」
「先生は私の傍にいてくれるだけで良いから」
俺、主人公だよね? なんかラビィーを癒すだけのポジションになってない?
本当に大丈夫? いや、俺にはラビィーを立派な女王にするという目標がある。これだけは誰にも譲らない。よし、気合が入った。
「んで、そのタパセローに行ってどうするんだ?」
「麒麟様の呪いを私とシープお姉ちゃんとで読みましたですの。魔王を封印する神具がリンネ神殿の地下に隠されているみたいなんですの」
「あのポンコツ初代勇者、そんな重要なことを言ってたの?」
「あんたの脳みそじゃ理解できなかっただけじゃないの? やっぱり三途の川に遊びに行った方がいいんじゃない?」
「三途の川はそんなBBQに行くような軽いノリで行くようなところじゃねぇ」
そんなやり取りをしながらタパセローについたのは国境付近を離れて2週間後だった。
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神殿の町タパセローの行き交う人の顔は疲れ果て、街は閑散とし、明らかに活気が消えていた。
首都フィーファが陥落し、次はこのタパセローが狙われているという噂も聞こえてくる。
「次は本当にこの町が襲われるのか? 」
「かなり確率が高いと思われますの。ここは首都フィーファと同じく、初代勇者の結界がありますの。だけど、魔王の力ならフィーファと同じように結界を破って大群で攻め込んで来てもおかしくないですの」
「そっか。まあ神殿もあって神具もあるってことなら狙われるかもな」
あれ? やっぱりシープの様子が変だな。襲うとか破ってとか狙われるみたいなボケるワードがたくさん出ているのに、何か思いつめた様子で真剣に考え込んでいる。
街の雰囲気がおかしい事が気になるのか?
「なあ、ラビィー。これ、どう思う?」
「……変。みんな元気がない。先生の朝の下半身並みに元気がない。枯れちゃった?」
「いや、元気はあるからね。お前らに見せてないだけだからな」
シープがおとなしいと思ったらお前が下ネタでボケるのかよ。
そんな下ネタ女王じゃ国民どころか誰も慕ってくれないからやめなさい。
「しかし、本当に活気がないわね。あたいはタパセローに来るのは初めてなんだけど……本当にリンネ神殿の街なの?」
「本来だったらもう少し神聖な雰囲気があるんだけどね~。あっ、パンチャとの結婚式はこの大聖堂を予約してあるからね。盛大にやるから安心……へぎゅあ」
「やったーーーってなるわけないでしょ! プロポーズもしてないくせに、式場を予約すんな。そしてあたいがなんであんたと結婚する前提なのよ。三途の川で水切りでもして一人で遊んでなさい」
いやいや、パンチャさん。ボケは最後まで言わせてあげようよ。そして普段しないノリツッコミだから微妙だよ。
でも、決め台詞の三途の川バージョンはまだあるんだね。そこだけは感心する、うんうん。
そうこうしているうちに、俺は視界の先に現れたそれに、思わず息をのんだ。
巨大な白亜の建造物
ーーリンネ神殿。
空へと伸びる塔、磨き上げられた外壁、荘厳な門。見た目だけなら間違いなく神の家。だけどな~。
「なんか綺麗なんだけど、うん、綺麗なんだけどな」
「麒麟お兄ちゃん、言いたいことは分かりますが、それは口に出してはダメですの」
「先生、空気が重い」
「なんかさ、雰囲気が悪い。三途の川を近くに感じる」
「分かった。今すぐこの神殿を潰すから待ってって、パンチャ(音符)」
「いやいやいや、言葉の後に音符マークをつけて楽しげにいう言葉じゃねぇ」
こいつら、神殿の入口にいるんだからTPOを考えろよ。
ちなみによく間違える単語としてPTOっていうのがあるけど、こっちは有給休暇って意味だからね。
TPOは時・場所・場合をわきまえるってことだから。良い子のみんなは間違えないようにね。
さて、神殿探索と行きますか。
ラビィーと視線が合わさると、小さく頷く。俺たちは神殿の中へと一歩踏み出した。




