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第37話 先生はずるい



「先生、おはよ」


「おはよう、ラビィー。って起きるのが早過ぎない?」


「大丈夫。天井のシミを数えていたら本当に終わっていたってぐらいの時間は寝たわ」


「はっはっは。その時間の単位は本当に分からないし、意味すら知りたくない」


 う~ん、さっきの頬へのキスの意味を聞くべきなのかな?

 こういうのって聞いてもいいものなの? ……挨拶みたいなものだよね。


うん、異国じゃ恋人でもないのにハグしたり、頬にキスするって言う都市伝説があるみたいだし。

 そんな事を考えている麒麟の横にラビィーが自然に座る。

 優雅に、音も立てずに隣に座るラビィーに見入る麒麟。月明かりに照らされ、美しさが倍増するラビィーに、麒麟は完全に目を奪われていた。


「綺麗だ・・・・・・」


「あ、ありがとう、先生」


「うぉ、声に出てた」


 何を言っちゃってんの、俺。

 いや、確かにラビィーは無表情だけど可愛いし、スタイルも抜群。常識が無いのは仕方がないとしても素直だし、めっちゃ俺を慕ってくれるし。


 あれ? 彼女にするには最高の女性じゃねぇ?

 やべっ、意識したらラビィーの顔がまともに見れなくなっちゃった。


 ラビィーの様子が変だぞ。無表情だけど・・・・・・少しだけ顔が赤い。

 ん? ん? ラビィーの耳、真っ赤になってないか? 


「先生。先生はどうしても元の世界に帰りたい?」


「はっ? そりゃ……」


 そりゃ最低でも1回は帰らないといけないだろう。

 俺にも親がいるし、心配ぐらいはしている……と思いたい。


 あの親ども、何も言わずに2年ぐらい平気で家を空けるからな。親はなくとも子は育つって体現しているよ、俺。

 そう言えば一昨年の正月から親父もお袋も帰ってこないな。大丈夫なのか? 生きているんだろうな?


「ま、まあ、帰るか帰らないかはあの残念魔王を倒してからの話だ。残念魔王を倒してから考えるわ」


「そう。先生、私、頑張るわ。先生は死なないわ。私が守るもの」


「無口、無表情、無感情で白のショートカットの女の子とキャラ被りなのに、台詞までマネしちゃ駄目~」


 うん、ラビィーはこうでないと。変に意識しちゃうとこれからや残念魔王と決戦に影響があるからね。

 ここは余裕の笑顔でラビィーの頭でも撫でてやるか。

 

 ラビィーの頭を優しく撫でる麒麟。

 その行動に目を閉じて流れに身を任せるラビィー。少しずつ撫でられているラビィーの頭が傾いていく。そしてついにラビィーの頭は麒麟の肩の上に乗る形となった。


「お、ちょ、ま」


「おい、ちょっと、待てって言っているの?」


 麒麟の肩に頭を乗せたままラビィーがそう言ってきた。


「よくあれで分かるな。って心が読めるぐらいだから、これぐらいわかって当然だな」


「ううん、先生の事だから分かるだけ」


 なんで俺はこんなに慕われているのだろう?

 この世界に来てから1カ月もたってないよ。ラビィーだけじゃなくてシープもエレファも好意を寄せてくれているんだよね。

 訳が分かんねぇ。どっかのラノベの主人公かよ。


「先生。この世界では先生は特別な存在。私は先生を見た瞬間に・・・・・・」


「ラビィー」


「こう言って、男を手の平で転がせばいいって聞いたわ」


「ないよ~。ラビィーが汚れまくっているよ~。こういう汚れって言うのは、某アイドルが宣伝している『受けて立つ!』の洗剤でも落ちないよ~」


 いつものボケなのかよ。やっぱ、ハッピーエンドになんて期待するもんじゃないね。

 もういいよ。麒麟、おうちに帰る。


「先生、冗談。先生が特別は本当」


 そう言いながら頭を撫でられていたラビィーが麒麟と視線を合わせた。お互いの顔までの距離は約40センチ。

 そしてラビィーは麒麟の目を見つめながらゆっくりと目を閉じる。


 おいおいおい。これって・・・・・・。ドッキリじゃないよね? 顔を近づけたらパンチャに殴られて蹴られるとか、シープがどこかで覗いていて下ネタを連発してくるとか、

 ラビィーは実は寝ているだけとかじゃないよね? でも……


 麒麟は両手でラビィーの肩を掴み、引き離す。

 麒麟の行動が意外だったらしく、目を開き少しだけ表情が変わる。


「先生? 私じゃ駄目? やっぱりシープ? それともパンチャ? エレファ? もしかしてベアル?」


 もはや定番となったラビィーの仕草。首傾げ&上目遣い+袖掴み。

 可愛すぎるのは分かっているから、今はやめて。


 罪悪感どころか残念&後悔まで出ちゃうから。あと不穏な事を言うのはやめてくれ。

 どっかで同人誌とか出ちゃったら誰が責任を取ってくれるんだよ。


「1番最後の選択肢だけはないからな。これだけは絶対だ!」


「じゃあ、本命はシープ? エレフ……ん?」


 ラビィーよ。異性に不意を突かれて手を握られた時ぐらいは感情を表せ。

 俺が勇気を出してお前の手を握っているのにさ。女の子と付き合ったことのない俺にとっては、清水の舞台どころかスカイツリーからバンジーしている気分なんだぞ。


 ……まあ、良しとしよう。うん、俺が好きになった女の子だから仕方がない。


「ラビィー。俺を信じろ。魔王を倒したら、俺からお前に伝えるから。今は待ってくれ」


「先生。……先生、それ、死亡フラグ。勃てるなら下半身じゃないの?」


「字が違う! どっちも立てねぇ~し。人の勇気をキャッチして、地面に叩きつけて、踏みにじるのはやめれ」


 なんなんだよ。俺の人生で初の告白だよ。正確には告白してないけどさ。

 ラビィーを立派な女王にするのは俺の役目。


 立派な女王になるまで帰るつもりはないしね。女王になるのは簡単なんだよ。冠に(立派な)が付くとすっげ~難しくなるんだよな。


 まあ、その前にあの残念魔王を倒さないといけないんだけど。

 って、ラビィーさん。俺の本を出して読むのは止めて頂けますかね。


「先生はずるい。そんな事言われたら。……先生は私が守るわ。だって……私が死んでも代わりはいるもの」


「だからファーストチルドレンのモノマネは止めような。あとラビィーの代わりなんていないから。俺にとってラビィーは1人だけだからな」


 麒麟の言葉を聞いたラビィーが不思議そうな顔をする。

 そして少しだけラビィーの口角が上がったのを麒麟は見逃さなかった。


 うんうん。少しずつだけど、感情が顔に出るようになってきてるね。女王になれば外交もあるし、何より国民の印象が大事だし。ラビィーは絶対に笑顔の方が可愛いしな。


「麒麟様、これを」


「シープ、ありがとう。って、なんで世界に通じる0・03mmの風船モドキを渡してくるんだよ! 現在の最新は0.01mmだよ!」


「麒麟お兄ちゃん、そのツッコミはどうかと思いますの」


「エレファもかよっ。いつから見ていたんだよ」


「おはよう、ラビィー。って起きるのが早過ぎない?」


「大丈夫。天井のシミを数えていたら本当に終わっていたってぐらいの時間は寝たわ」


「からですわ(の)」


「思いっきり最初からじゃねぇか。どっかの企業みたいに、おはようからおやすみまで、暮らしを見つめなくて良いからな」


 しかし、パンチャが起きていなくて心の底から安心したわ。

 パンチャにこんなシーンを見られたら……おぉう、想像だけで心臓が止まりかけた。


 これ、何回目だろ。俺はどれだけパンチャを恐れられているんだろう。

 あれ? ラビィーの様子が少し変。

 


 大きなため息を付くラビィー。麒麟にはラビィーの表情が、なんとなく不機嫌そうな顔に見えた。

 だがラビィーは顔をシープとエレファに向けて


「シープ、エレファ。私が1歩リード」


 と、ドヤ顔を向けた。


 やっぱりラビィーの表情が少しずつだけど豊かになってきてる。

 で、女の戦いで宣戦布告をされた2人はどう返すの?


「大丈夫ですわ、ラビィー様。私は最近、NTRにも興味がありますので問題ないですわ」


「何を根拠にして問題がないのか、俺には全然分からない」


「私も麒麟お兄ちゃんも大好きだし、ラビィー様もシープお姉ちゃんも大好きなので、ハーレムエンドで良いですの」


「お前ら、夏冬にあるイベントの薄い本、略してスマート本の読み過ぎじゃねぇ? どっちもないわ」


「そうよね。あんたに来るのはBAD ENDバッドエンドを通り越してのDEATH ENDデスエンドだもんね」


「ん?」


 声のする方に顔を向ける麒麟。

 そこには左手には真鳥麒麟の書、右手には十文字槍を構え覚醒オーラ全開のパンチャが仁王立ちをしていた。


 うわぁ~、全身から黒いオーラが出まくってますね、パンチャさん。

 覚醒最中オーラは黄金色のはず。なんでそんなにドス黒いオーラなのかな?


 僕には理由が分からないな。あっ、天使が下りてきているね。その後ろで天国に行ったおじいちゃんとおばあちゃんが手招きしてるわ。ここで真鳥麒麟の書は終わりなんだ。


「三途の川を渡って戻って来なくていいわ!」


「うぎゃ~」


 あっ、目の前が暗くなってきた。ラビィー、ごめんな。約束守れなかったよ。

 俺がいなくなっても立派な女王になるんだぞ。

 

                ~~第18代教育係、真鳥麒麟の書、5章完~~




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