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第36話 見張りは俺だけですか?



「僕がパンチャをおんぶするよ! この役目は誰にも譲らない!」


「あ、あたいにも、え、選ぶ権利ってあるよね。ラビたんかシープお姉さまが良いんだけど」


「パンチャ、ごめん。私、無理。実は鎖骨が折れてる」


「ごめんなさいですわ。私も肋骨の何本かにヒビが入っていますので、おんぶはちょっと」


「俺はエレファをおんぶするから無理だぞ」


「キモッ! エレファが動けないからって合法的にお尻に触るつもりでしょ。三途の川を自分で見に行きなさい!」


「裁判長、俺に容疑を否認する発言権をもらえませんかね」


「仕方ないですわね。苦渋の選択で百万歩譲って発言権だけですよ」


「内容に関しては女王候補権限で却下する」


「それって全然譲ってないよねっ」


 俺には言い訳すらする権利すらないのね。理不尽すぎで涙が出そうだ。

 で、そろそろ出発しないか? なんかパンチャが陸に挙げられた魚みたいに口をパクパクしてるよ。

 さすがに見ていてちょっとだけだけど、可哀想になってきた。


______________________________________


 半日かけてスブデンとアミレプの国境まで移動をする俺達。

 険しい森の中、道無き道を歩いて街道沿いまであと少しの所まで到着した。


「ここはまだ敵国ですの。街道まで出てしまうと何が起こるか分からないですの。なので、この辺りで1泊することを提案しますの」


「確かにその可能性も否定できませんわね。しかし、先を急ぎ、自国に入ってしまった方が良いかもしれません。どうしましょうか、ラビィー様」


「パンチャのお腹も限界みたいだし、ここで1泊する。先生、テントを張って」


「俺の下半身を見ながら言うんじゃねぇ」


「そうですわ、ラビィー様。オカズもないのにテントを張れだなんて。仕方がありませんわ。私が文字通り、一肌脱いでオカズになりますわ」


「脱がなくていいから。ちゃんとテントは張るから。下半身のテントは張らねえけどね!」


 夕日は完全に沈み、辺りは暗闇に包まれている。

 食事の為に付けた焚火は敵に発見される恐れがあるため、今はもう煙すら出ていない。そんな中、俺たちはこれからの指針を決める為に月明かりの下、小声で話し始めた。


「ラビィー様、これからどうしましょうか?」


「はい! あたいはこのまま魔物たちに占領されている王都フィーファに行って、残念魔王ごと殲滅作戦が良いと思うわ」


「うん、さすがは愛しのパンチャ。とっても良い案だと僕は思うよ」


「賛同するんじゃねぇ。頭の中は脳筋かよ。却下の1択じゃ!」


「さすがにそれは却下ですの!」


「そうですわね。今、完全に覚醒できるのはパンチャだけ。それではさすがにあの残念魔王と勝負になりませんわ」


「挑戦と無謀は違うという事。先生、合ってる?」


「本当に勉強しているな、ラビィー。俺は今、猛烈に感動している!」


 ちょっと昔々の野球アニメチックに台詞を言ってみました。

 読者はこのアニメを知っているのか? 調子に乗りました、ごめんなさい。


 でも、この作戦は無茶ってもんだよね。コテンパンにされて逃げ帰る姿が簡単に思い浮かべられる。その前に逃げ帰れるのか?

 これからの方針を悩む俺たち。何も思い浮かばないまま、このまま沈黙が続くとその場にいる全員が思い始めた。そんな空気の中……


「zzz」


「グ~グ~」


「むにゃむにゃ」


「はい~、緊張感が一気に無くなったぞっと。誰だよ、寝てるのはよ! ……確認するまでもないわ。ラビィー、パンチャ、ベアルだろ。って、おい! ラビィーじゃないじゃん。エレファかよ!」


 いつの間にか寝息を立て、スヤスヤと寝ているパンチャ、ベアル、エレファの3人。

 まあ、そりゃそうか。パンチャは初めての覚醒で体力をかなり使ったみたいだし、ベアルも死にかけるほどの戦闘をしたし。


 エレファに至っては、見かけは高校生でも年齢は12歳。確かに寝る時間だよね。

 そりゃ3人とも睡魔に負けても不思議じゃないわな。まあ、俺も眠すぎて全く頭は働いてないから、起きていても役に立たないけどね。


「眠気を我慢しても良い案は浮かびませんわ。ここは1度しっかりと睡眠を取って、明日の朝に方針を決めましょう。では、今日はラビィー様に変わって私が麒麟様の夜伽の相手をいたしますわ」


「いやいや、そんな事をしてもらった事ないからなっ」


「シープ、先生の初めては渡さないから」


「お前ら、もう少しだけで良いから乙女らしさを持て!」


 テントの中にエレファやパンチャ、ベアルを運び、薄手のシーツをかける。

 一息ついてテントの外に出ると、昼間の激戦が嘘だったかのような静けさ。

 

 あまりの静けさに心臓の音が聞こえるかのような錯覚に陥る。

 周囲を見渡すと今度はシープが力尽き、火の消えた焚火の前で深い眠りについていた。


「おいおい、シープもかよ。ラビィーは?」


「私は大丈夫。先生の夜伽の相手。準備は出来てる」


「うん、その台詞で大丈夫じゃない事だけは分かったから、お前も寝ろ。シープは俺がテントに運ぶから」


 お、重い。シープさんが起きていたら、こんなセリフは絶対に言えないね。

 さ、さすがに4人目ともなるとちょっときついぞっと。


 ラビィーは自分でテントに入っていく。

 俺も昼間の戦闘の疲れが残っているんだけど、見張りなしはやっぱり危険だよね。

 シープをテントに寝かしつけ、テントから外に出るとラビィーが立っていた。


「ラビィー、どうした? お前も少し寝ろ」


「うん、分かってる。先生、昼間はカッコ良かった。おやすみなさい」


 ラビィーのその言葉の後、麒麟の頬に柔らかく温かい感触があった。

 表情は一切変わらないが、若干頬を赤らめ、そそくさとテントに入るラビィー。


「あ、あぁ。お、おやすみ」


 今のってキ、キスだよね? ホッペだけどさ。

 こんな経験したことないからどうすればいいの? 明日、どんな顔をしてラビィーに会えばいいんだよ。


 そう言えば、元の世界に戻れなかったら、結婚とか言っていたよな? マジか? マジですか? これが都市伝説のモテキってやつか? 漫画の世界だけじゃなかったんだ! ラ〇ュタは本当にあったんだ!

 あかん、ツッコミ役が寝ているから誰も止めてくれへん。

 さて、頑張って見張りをしましょうかね。


「どうせ起きているんだから、あのふざけた存在の言ったことを読み直しますか。マッパ・キリー馬鹿麒麟先生様」


 読者の皆さん、忘れていませんよね?

 記録書と言う名の呪いの本を出す呪文ですよ。眠気が凄すぎて狂ったわけじゃないからね。


 それにしても自分でこの言葉を言うのってすっげ~抵抗がある。当たり前の事だけ

ど。まあ、このおかげで敵にも普通の人にも俺の物語は読まれないんだけどさ。

 さて、あの残念魔王の封印の方法を復習しますか。


 ……この封印方法、面倒臭ぇ~。いやマジで。というか、こんな方法で本当に封印出来るのかよ。

 そしてなんで勉強している時って眠くなるんだろうね? 見張りなんだから寝ちゃいけないんだけどさ。もういいや。


 良い子のみんな、人間には適材適所って言うものがあるんだよ。

 今までこの本を読んでくれていた人なら分かるよね。


 こういう頭脳系の仕事が得意な人がちゃんと俺の周りにはいるんだよね。

 俺は見た目は大人、頭脳は子供だから無理!

 うん、これはあの2人に任せるとして、俺は見張りに集中しよう。




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