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第35話 感動を返せ



「えぐっ……えぐ……」


「エレファ、泣いては駄目。ベアルはパンチャだけでなく私達まで守ってくれた。四武太守として役目を果たした。誇りなさい」


「そして見習いなさい。……本当に見習うべきところだけですが。決して覗きや夜這いを見習ってはいけませんよ」


「今の言った悪い所がベアルの全てのような気がするが、そのシープの意見には異論は全くない」


「キリー、酷いよ!」


「うぎゃぁぁ!」


「きゃあぁぁ!」


「ひぇぇぇぇ!」


「ベアル。おはよう」


 いきなり目を見開いて不満を口にするベアル。そして響き渡る絶叫。

 ベアルとラビィー以外がダッシュでその場から離れる。


 そりゃそうだろ。怖すぎるシチュエーションだろうがよ。

 えっと、ラビィーよ。お前はどこまでマイペースなんだよ。女子力が低すぎるよ。


 こういう場面では悲鳴を上げながら俺にしがみ付いてくるのが王道でしょ。シープやパンチャ、エレファを見習いなさい。

 ……シープやパンチャが怯える姿って新鮮だな。これがギャップ萌えってやつなのか?


「先生は怯える女の子とギャップ萌えが好み」


「勉強熱心なのは認めるが、メモを取るのは後にしろ。それよりも驚く所やツッコミポイントがあるだろうが」


「あ~、めっちゃ痛かった。パンチャ~、痛いの痛いの、飛んでけ~ってやって」


「三途の川を渡ってケバスットに会いに行け!」


「ひぎゃ~!」


 おぉ~。よく飛ぶわ~。本当に三途の川を渡ってもおかしくないぐらいに飛ぶわ。

 自業自得って言葉がぴったりだな。しかし、なんでベアルはパンチャが【痛いの、飛んでけ~】なんてやってくれると思った?


 その要求は与党でも野党でも絶対に通らない案件だと思うぞっと。

 ……きっと打ち所が悪かったんだろうな。ベアルだし、良しとしよう。


「ベアル、なんで生きているの?」


「ラビィー様、死線を彷徨いかけた僕に対してその言葉は酷くない?」


「本当にそうよ。生きていても私とはバッドエンド一択なのに、よく生きていたわね」


「さらにパンチャからの追い打ち! ご褒美です。ありがとうございます」 


 こいつらって、奇跡の生還を果たしても通常運転なんだな。

 この状況に慣れた自分が逆に怖いです。


「で、ベアルちゃんはどうして無事なんですの? あんなに沢山の血が流れたのに」


「あ~これはね、ドン●ホーテで売っていた血糊付きメイド服(防御力B)なんだよ。凄くない? 破れると血が出るんだ」


「買う人がいるから作るのか、作るから買う人がいるのか。なんにせよ、紛らわしいわ!」


「先生。私、ちょっと欲しい」


「全く欲しがるものじゃないよ~」


「……あ、あたいはこんな奴に騙されて覚醒したんだ」


 おっと、パンチャが握り拳を作って震えてる。これは非常にまずい状況だな。

 うん、巻き込まれないように避難しないと。


 ラビィーやシープ、エレファも逃げるの、早っ! ちゃっかり木の陰に避難してるじゃん。

 言ってよ~。俺が1番巻き込まれるタイプなんだから。


「先生、遅いよ」


「遅すぎるのも女性は疲れてしまうんですよ」


「俺の下半身を見ながらいうんじゃねぇよ」


 おぉ~殴られたベアルがよく飛んでいくわ。綺麗な放物線を描いているよ。

 うん、推定距離は170mってとこですかね。野球で言ったら特大ホームラン級。


「やりましたね、パンチャ。自己新記録ですわよ」


「カルサカ記録更新」


「またつまらぬ物を殴ってしまったわ」


「お前、絶対にそのアニメ世代じゃないだろ。斬鉄剣を使う人みたいな事を言うんじゃねぇ」


 うわ~、ベアルが白目になって恍惚の表情でピクピクしてるよ。

 キモっ! まあ、ベアルだからほっときましょうか。


 で、1つ不思議な事があるんだよね。

 いきなり戦闘だったからツッコむ暇がなかったんだけど、この付近ってあのアホ勇者、尊敬すら出来ない勇者の結界が張ってあるんだよね。

 なんであの格闘馬鹿は入ることが出来たのだろう?


「なあ、ラビィー。ここって結界が張ってあるんだよな? なんでケバスットはここに来れたんだ?」


「結界はレベルの高い魔物には効かない。あのレベルになると流石に結界が役に立たない」


「ラビィー様! 麒麟様に向かって役に立たないなんて言ってはいけませんわ。麒麟様は経験がないのですから」


「だからそういうセリフを言う時は視線を俺の下半身を見るなっ」


「ねぇ、ぶっちゃけていい?」


「パンチャお姉ちゃん、どうしたのですの?」


 どうした、パンチャ。いきなり座り込んで。

 そうしていると駄々をこねている小学生にしか見えないぞ。


「お腹が空いた~。もう1歩も動けない~。指1本、動かしたくない~」


「分かったよ! 天井のシミを数えている間に終わるから、ちょっと待てって」


「お前、復活したと思ったら何を言っちゃってるの? 空気を読めや!」


「まあ! 空気、嫁ですか? 麒麟様はもう、空気嫁。つまりダッ●ワイフとご結婚されていると。ラビィー様、麒麟様との結婚は諦めてください。私が責任を持って麒麟様を引き取りますわ」


「シープお姉ちゃん、ずるいですの! 私が麒麟お兄ちゃんとですの!」


「シープ、エレファ。そんな心配はいらない。先生はちゃんと私が面倒を見るから」


「お前ら、何を言っているの? あと、俺に空気嫁なんていないから。それと今現在の主流はシリコン製だからな!」


 ちなみに高級品はダッ●ワイフじゃなくて、ラ●ドールって言うんだって。

 明日使えない、どうでもいい知識でした。読者の皆さん、引かないでください。


 6割ぐらいの男性はこういう知識を知っている物ですよ。

 この世に白馬に乗った王子様なんていませんからね。


 で、俺の面倒をみるって、こいつらは本当に頭は大丈夫? 俺はラビィーをちゃんとした女王にしたら元の世界に戻るんだよ。

 やっぱりさっきの戦闘で頭を強く打っているんじゃないのか?


「先生が元の世界に戻れなかったら私と結婚する」


「うん、夢を見るのは自由だよね」


「麒麟お兄ちゃん。今まで召喚された教育係で元の世界に帰った人はいませんですの!」


「エレファ、冗談でもそういう事は言っちゃいけないよ。じゃないと俺の心が折れちゃうぞっと」


「麒麟様、エレファの言っている事は本当ですわ、今まで召喚された教育家係の方は、元の世界に戻れず、勇者、又は四武太守の誰かと結婚し、幸せに暮らしてきたんですわ」


「……え~っと、暮らしてきたんですわ。じゃねぇよ。めでたし、めでたしみたいに言ってんじゃねぇ」


 本当に何を言っちゃっているの?

 そりゃ元の世界に戻った所で何かあるわけじゃないけどね。


 でもさ、一応だけど友達もいれば俺を生んでくれた親もいるんだよ。

 俺の事を好きな女の子だっていたかもしれないのに。


「それはないわ。断言出来る。先生、私、断言出来る。えぇ、大事な事だから2回言ったわ」


「だから心の中を読むな! 大事な事じゃないから2回も言わなくていいからっ」


「帰れない事なんて世界の危機に比べたら些細な事ですわ」


「躊躇なく、そして清々しく言う事じゃないよ~」


「さすがに麒麟お兄ちゃんに同情するですの」


 この世界に来て、もう数週間。さすがに親も心配してる……のか?

 あいつら、自宅に帰ってきてるのか? 俺の親の方が帰ってきていないかも。


 実は俺の親、親父は自衛隊勤務で海外特殊隊(?)とか言うやつでほとんど帰ってこない。母親は考古学者でほぼ海外。

 2人とも家にいないんだよね。まあ、ここまで来たら最後まで付き合うけどね。


 ケバスットを倒した森は静寂を取り戻し、さわやかな風が流れる。

 そんな中、完全に死に体と化したパンチャが消えそうな声を発した。


「ね、ねえ。ご、ご飯はまだ? お腹と背中がくっつきそうなんだけど」


「覚醒は身体のエネルギーを瞬間的に使うみたいですの。確かにベアルちゃんも覚醒後の食事量は多いですの」


「ケバスットに結界を破られましたし、とりあえずここを離れましょう。パンチャ、もう少しだけ我慢してください」


「とりあえず今は携帯食で我慢してくださいですの」


 あぁ、なるほど。確かにベアルも覚醒をした後はよく食べる気がする。

 まあ、なんでも良いからパンチャに食べさせて、ここから移動した方が良いとは俺も思う。


 ここに留まるのは子供でも危険だと分かる事だしね。

 えっと、動けないのはパンチャとエレファかな。まあ、体格的に俺がエレファをおんぶして移動だな。



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