第34話 男の中の男
いつもの外見だけ、見た目だけは可愛いパンチャなのに、目つきが鋭くなったせいか、凛々しく見えるよ。
ちょっと怖いぐらいになってる。だけど、ちょっと怖くなったぐらいでこの状況が打開できるなら良くない? ……俺、どんどん情けない主人公になっているな。
「ベアルの事もあるし、そろそろ本格的に三途の川を見に行かせてあげる」
「ふっ。ふっははは。面白い! 面白いぞ! 我に恐怖を与える事が出来る存在が魔王様以外にいるとはな! 食らえぇぇ!」
ケバスットが何とかパンチャから引き剥がそうとした大斧を諦めて手を放す。
そしてそのままパンチャに目掛け、連続して拳を突き出した。
油断していたのか、それとも避ける必要がないと判断したのか分からないが、ケバスットの拳をまともに食らうパンチャ。
衝撃をまともに食らったパンチャが吹っ飛び、岩に叩きつけられる。
「はっはっはっは。見ろ! まるで人間はゴミのようだ~」
「先生、あの台詞って負けフラグだよね」
「うん、そうだね。最後は目が~、目が~って言うんだろうね~。でも俺的にはどうしてラビィーがその台詞を知っているかの方が不思議だよ~」
「そんなに余裕で良いのか? 次は勇者が覚醒でもするのか?」
「そういう事はあたいをちゃんと倒してから言いなさい」
巻き上げられた砂煙の中からパンチャが姿を現す。
顔に殴られた跡はあるものの、ダメージは全くないようだった。
そして何事も無かったかのようにケバスットに向かって歩み始めるパンチャ。
ケバスットの表情は完全に青ざめている。
うひゃほう! 完全覚醒ってそんなに強いんだね。
こりゃ魔王との闘いまでにまだ覚醒していないラビィー、シープ、エレファの覚醒は絶対だね。
おっと、ベアルも完全覚醒させないといけないね。ベアル。
俺はベアルを信じているぞ。お前のゴキブリ並みの生命力をな。それぐらいの生命力がないと、パンチャにアタックし続けるなんて無理だぞ。
「さっき宣言した通り、三途の川を渡らせてあげるわ。感謝しなさい」
そう言いながらパンチャは足元に落ちていた自分専用の武器、十文字槍を拾い上げる。
俺の目には確実にそう映っていた。しかし次の瞬間、パンチャの姿は消え、代わりにケバスットの悲鳴が森中に響き渡った。
「ぐあぁぁぁ! くっ! な、なんだと……」
「ら、楽に三途の川を見に行けるなんて、お、思わないでよね!」
「なんでこの場面でツンデレなんだよ! 使う場面を完全に間違ってるぞ!」
いつの間にか、ケバスットの左腕が落ちている。
さっきのケバスットの悲鳴はパンチャの攻撃で左腕が切断され、落ちた時のものだった。苦痛で表情が歪むケバスットがパンチャを睨みつける。
「まだだ。まだ終わらぬぞ! まだだぁぁぁ~!」
「先生。これが負け犬の遠吠え?」
「まあ、あながち間違いではないぞ。勉強の成果が出ているな」
「麒麟様、あながちって言葉、ちょっとエッチっぽく聞こえませんか?」
「シープさん。あんた、頭が沸いているんじゃねぇの? ケバスットにボコられて頭でも打ったか?」
この流れはラビィーを褒める所だろうが。
なんで下ネタに走っちゃってるの?
ほら、ラビィーを見てみそ。顔を赤らめて嬉しそうにしているじゃん。
あんた今現在、ラビィーの参謀なんですよね? 多分ですけど、ラビィーは褒めて伸びる子だよ。
ラビィーは現在の立場はこの国のトップ。魔王を倒したら、国民の前に立つんだよ。
下ネタだけじゃなく、色んな事を教えて褒めてあげるぐらいしたっていいと思うよ。
おっと、こんな事をしている場合じゃない。パンチャは大丈夫なのか?
「パンチャ、無事か?」
「ふん。この先、こいつが泣いて謝っても三途の川は渡らせるから。豪華客船タイ●ニックに載ったつもりでいなさい」
「それは私たちが沈むパターンですの!」
「じゃあ、こいつを載せるわ」
「三途の川を渡らせずに沈めるのかよっ」
「上手い。先生に座布団1枚」
「お前はどこでそういう事を覚えてくるんだよ」
会話している間も、負傷しているケバスットから全く目を切らないパンチャ。
まるで弱っている獲物を狩る時のライオンのような迫力。
そしてその迫力に気後れしたのか、ケバスットがパンチャから目を逸らす。
この瞬間が完全に勝敗を分けた瞬間だった。
「あの世でベアルに謝りなさい。違うわね。あんたは地獄に行くんだからベアルには会わないわね。ベアルはきっと天国……天……天国に行ってる?」
「そこの疑問形は駄目じゃねぇ?」
「確かにベアルが本当に天国に行っているかは微妙」
「ラビィー様、女王になったら社交辞令を真っ先に覚えないと駄目ですの!」
た、確かにベアルの普段の行動を考えると天国に行けるかどうかは微妙なラインだな。
パンチャにセクハラをしまくっていたし。年齢的には大丈夫だけど、表面的にはロリコンのかなりイタイ人だしね。
ちょっと考えると地獄確定じゃね? ケバスットに伝言を頼んでも大丈夫な気がしてきたぞっと。
って、違う! まだベアルが死んだって確定したわけじゃないよ!
「ベアルが死んだって決まってないんだから、伝言とか頼まない! 全員で変なフラグを立てるのは止めろ~」
「そ、そうね。んじゃ、さくっとこいつを三途の川に沈めるわね」
そう言ったパンチャは十文字槍を構え直す。
その瞬間だった。きっとパンチャの隙をずっと狙っていたのだろう。ケバスットが小さなモーションで鋭く腕を振るう。
「危ない!」
と声を発する時間もないぐらいケバスットの拳がパンチャに目掛けて繰り出された。
だがしかし、その拳は空を切り、その場所にパンチャは居なかった。
「終わりよ。アンタは強かった。偶然だと思うけど、最初にあたいを倒そうとしたのも正解だったわ。でもね、ベアルが私を助け、あたいを怒らせた事がアンタの敗因よ」
「ぐふぅ」
おいおいおい。マジっすか。
パンチャ専用武器、十文字槍がケバスットの胸を貫いているじゃん。いつの間に……もうパンチャさんを怒らせるのは絶対にやめよう。
というか、俺は怒らせてないけどね! パンチャが勝手に怒っているだけだけどねっ。
そのまま崩れるように地面に倒れ込むケバスット。倒れこんだズシンという音が、この戦いの終わりを告げた。
静寂がこの場を包み込む。その場にいた全員に安堵感が広がった。
強かった……本当に強かった。紙一重の勝利だったぜ、ケバスット。もう2度と会いたくないぐらい強かった。
俺が倒したわけじゃないけどねっ! って、こんな事を考えている場合じゃない!
「ベアル、ベアル! 大丈夫か!」
「あっ」
「そうでしたわ」
「ひでぇ。お前ら、ベアルの存在を完全に忘れていただろ」
「あ、あたいはもちろん覚えていたわよ。ほ、ほ、ほ、本当なんだからね」
「動揺しすぎですの! その演技は園児並みですの!」
そんなやりとりがあった後、全員でベアルの元に集まる。
なんとなくだが、安らかな笑顔を浮かべ、ただ寝ているだけのようにも見える。
しかし、地面に大きく広がるベアルから流れ出た血。
これだけでベアルの状態が今どういうことになっているかが、その場の全員に分かった。
ベアル、お前ってすげえよ。好きな女の子を、文字通り身体を張って守ったんだな。
同じ男として尊敬するよ。男の中の男だよ。
今着ているのがメイド服じゃなければ完璧だったのにな。




