第32話 土煙の向こう側
相変わらず次元が違う戦いを続けているベアルとケバスット。
2人が戦っている近くの木々は激しく揺れ、戦いの激しさを物語っている。
あれの中に今から飛び込むのか、俺? ちょっとした竜巻の中に入る気分だな。
「ラビィー! 今から俺があの中に突っ込んで乱戦にする!」
「先生、言い方がちょっと卑猥。乱交って」
「麒麟様。こんな非常事態な時に下ネタですか?」
「三途の川を見に行かせてあげるわ」
「どんな耳をしたらそう聞こえるんだよ! 俺がこの流れで下ネタを言うキャラに見えているのか?」
ツッコミを入れた俺は戦闘中のベアルに向かって駆け出した。
巻き上がる竜巻と砂ぼこり。響き合う大斧と大鎌のぶつかり合う音。近くに寄れば寄るほど目で追えない戦闘。
とんでもない事を口約束したことにちょっと後悔。
だけど、少しでもラビィー達が遠くに逃げられるだけの時間を稼がないと。
「離れろ、ベアル!」
そういった瞬間、俺は手に持っていたアサルトライフルの引き金を引いた。
まだベアルと出会って日は浅い。しかし、俺の行動は、ベアルを完全に信用してのものだった。
(あの変態なら分かってくれるだろ!)
確かに共に過ごした時間は短い。
しかし、その時間はかなり濃密だった。何度も同じ死線をくぐった仲だ。
主にパンチャからの攻撃だけどね。そしてパンチャを愛でろと言われ、ベッドにも潜り込まれた。
あとは覗きに誘われたり……あれ? ベアルとの思い出って、良い思い出がないのは気のせいか?
「でやぁ!」
気合と共にライフルの引き金を引く。
もちろん物凄く当てる気はあるに決まっている。しかし、当たらねぇ~。
当たる気がしない~。ケバスットさんよ、華麗にイナバウアー並みの上体反らしで避けるんじゃねぇ。
某ハリウッド映画を思い出すだろうが! その力士みたいな体型で、俊敏性に加えて柔軟性もあるのかよ。凄いって言う感想を通り越してキモ過ぎだわ!
「早く逃げろ、ラビィー!」
「でも……先生、私を甲子園に連れて行ってくれるって約束したじゃない」
「誰もが南ちゃんを知っていると思うなっ! ネタが古いわ。シープ、早く!」
俺の意図を理解したシープが、自力では立ち上がれないエレファを抱き抱え、逃げる準備をする。
やればできるじゃん。ただの下ネタ好きのお姉さんじゃないね。
シープは軍師の立場なんだから、何よりもラビィーの身の安全を考えてほしい。
最悪、俺やベアルがいなくなってもラビィー、シープ、パンチャ、エレファがいればリーグエスは立て直せる。
うん、絶対大丈夫! だと思いたい。大丈夫だよね?
「シープ……だって……先生が……」
「ラビィー様。ここは麒麟様のお気持ちを汲んでください。パンチャは立てますか? このパンチャの乱れた衣服を見て、麒麟様やベアルの下半身が勃っていますけどね」
「変態……」
「勃ってないわ! 立って戦闘しとるんじゃ!」
下ネタを言っている暇があったらさっさと逃げろよな。
覚醒ベアルの限界はかなり近いんだからよ。ちなみにベアルが覚醒している姿は、とある戦闘民族を読者の皆さんは思い浮かべてくれればいいと思います。
気合を入れると髪の毛が金髪になって、ハリウッドで実写化された作品ね。
で、そのベアルの覚醒オーラ(命名、俺)がどんどん小さくなっているんだよね。
今にもオーラが消えて無くなりそうだ。本当にタイムリミットが近いじゃん!
大鎌を振るうベアルの顔も強張って赤くなっているしさ。
「大丈夫か、ベアル!」
「なんで勃っているってわかったの! 僕はスカートなのに!」
「本当に下半身の1部が勃っていたのかよ! 戦闘中に集中しろよ!」
ベアルが女装趣味で良かった。見たくないものを見るところだったわ。
あっ、ベアルが全裸で俺のベッドに潜り込んできた黒歴史が蘇ってきた。
一生思い出したくなかったな。って、お願いだから早く逃げてくれよ。
「あたいは大丈夫! それよりあんたたち、死ぬんじゃないわよ! あんたたちに三途の川を見せるのは私なんだからね」
・・・・・・パンチャ。膝が明らかに笑っていて全然大丈夫に見えないよ。
死ぬんじゃないわよって言われても約束できるかよ。
しかも運よくここで生き残ったとしても、お前が俺達に三途の川を見せるのかよ。
ツンデレ風に言われても全く嬉しくないわ!
「先生……まだ色々教えてもらってないから。戻ってきてね」
「麒麟お兄ちゃん。ご武運をですの!」
「早く行け!」
「早くイケだなんて……麒麟様、ダ・イ・タ・ン(ハート)」
「語尾にハートマークを付けてんじゃねぇ。早く逃げろと言ってんだよっ」
ベアルの1撃を軽くいなすケバスット。
何とかラビィー達を逃がせるだけの隙を作らないといけない。気持ちだけが先走る。そんな時、ベアルと目が合った。
そうだよな。諦めたらそこで終了だもんな。と言うわけで、戦闘再開!
今度はさっきまでの戦闘とはちょっと違うぜ!
ベアルが1撃を放つ。
だが、トロールのケバスットは余裕をもってその攻撃を受け流す。さっきまでならベアルはそのまま2撃目、3撃目を放ち、その合間に俺が銃を撃っていた。
しかし、今回のベアルは1撃見舞ったあと、すぐにケバスットとの距離を取る。
完全なる一撃離脱! そして離れた瞬間を狙って俺がすぐさまアサルトライフルを速射する。
その攻撃にわずかだが態勢を崩すケバスット。
そこにベアルがまた一撃離脱。さらに態勢を崩すケバスット。
当たれや、このっ! そう思って連射しているけど、ケバスットの野郎、避ける、避ける。
だからその力士みたいな体型でバク転とかしながら避けるんじゃねぇよ。敵のくせに無駄にカッコいいだろうが。
でも表情には余裕が無くなってきたね。
「今だ! 早く逃げろ!」
「ふっ、簡単に逃がすと思うなよ」
ベアルの一撃を避けつつ、ラビィー達の逃げ道を封じるケバスット。
うぜぇ~。TVアニメとかなら「ちっ! ここまでか!」と言って引き上げる場面だぞ。
ラスボスじゃないんだから、さっさと国に帰れよ。
って、ここはお前の国だった。俺らが侵入していたんだったわ。いいからどっか行け!
「パンチャ、後ろ!」
ラビィーがそう叫んだ時、ケバスットはパンチャの背後に立ち、不敵な笑みで大斧を振りかぶっていた。
一気に血の気が引く。
冷たい汗が背筋を通り、容易に次に起こる惨劇が想像できる。
「まずはお前から死ね」
「パンチャ~!」
俺が銃を構えるよりも先に、パンチャに大斧が振り落とされる。
その狙いは寸分狂わず、パンチャの頭をめがけられていた。
ケバスットが振り下ろした大斧が地面に叩きつけられ、土煙が上がり何も見えない。
しかし、俺の顔には血しぶきが飛んでいた。少なからず、パンチャが傷を負ったのは間違いない。
最悪のケースを想像しながら、俺は大きな声でパンチャの名を叫んだ。
ラビィー達からも大きな声で続けて叫ぶ。
「パンチャ!」
「パンチャ!」
少しずつ土煙が晴れていく。ケバスットと思われる大きな影が見えてくる。
そして、地面に突き刺さった大斧の影。
次第に視界を遮っていた土煙が晴れ、ケバスットの姿がはっきりと視認できるようになった。




