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第30話 逃げろと言われても



 体長は3メートルぐらいの魔物だろうか?

 身体全体から禍々しいオーラのようなものが見える。筋肉隆々で口からはみ出した牙が禍々しさを増幅している。


 俺のゲーム知識だとトロールとか言う魔物じゃなかったっけ?

 確か超が付くほど強いって書いてあった気がする。


「おいおいおい、ちょっと待てよ」


「ほう、教育係がやっと出てきたか。これで全員揃ったという事か。我が名はケバスット。トロール一族最強にしてベスボル様の右腕」


 不敵な笑みを浮かべ、仁王立ちをするケバスットと名乗る魔物。

 その周りにはパンチャとシープが片膝を落とし、エレファは倒れていた。かろうじて立っているのはラビィーとベアルの2人だけだった。


 しかし、その立っている2人も膝が笑っており、武器で身体を支えている。

 今すぐにでも倒れてもおかしくないギリギリの状態だった。


 マジかよ。いったい何が起きたんだよ。

 ラビィーがこんなにボロボロになるってどういう事なんだ。これってマジでやばい状況じゃねぇ? 


「お、遅いわよ、馬鹿ムッツリスケベ」


「もはや教育係の称号すら言ってもらえないの?」


「ヌいてきて賢者タイムなのですか?」


「うん。お前らにまだ余裕がある事だけは分かったわ」


 倒れそうなのに、まだ罵詈雑言と下ネタは言える余裕はあるのね。ちょっとだけ安心したわ。

 しかし、勇者と四武太守を同時に相手して余裕そうな顔をしているこの魔物。どんだけ強いんだよ。


「さあ、もう全員動けるようになったであろう。我と戦え。我を楽しませよ。命を懸けたギリギリの戦いでこそ、自分の存在意義を感じられるのだ。戦いを再開するぞ、剣を交えるぞ。そして魔王様にお主たちの首を献上するのだ。全員揃った今、もはや手加減する意味も無くなった。次からは本気の戦闘だ。せいぜい足掻いて我を楽しませてくれ」 


 なんだ、こいつ。バトルマニア設定かよ。

 そしてサラッと恐ろしい事を言ってんじゃねぇ。手加減していたって何?

 手加減してラビィー達をこんなにボロボロにしたの? 嘘でしょ。……これ、やばくねぇ?


「先生、今からロウソク半分燃え尽きるだけ時間を作る。だからエレファを連れて逃げて」


「だからその単位は俺には分かんねぇよっ。しかもロウソクってなんだよ。松明じゃないのかよ」


「べ、別にあんたを助けたい訳じゃないんだからね。エレファを逃がすついでにあんたもって事だから」


「初めてのツンデレのデレを見せてくれるのはありがたいけど、状況が状況なだけに嬉しくねぇ」


「麒麟様。エレファが生き残ればリーグエスは立て直せます。勇者も四武太守も生まれ変われます。天才軍師エレファ、そして生まれ変わってくる勇者と四武太守を麒麟様が育ててください。自分好みに育ててハーレムを築けますわ」


「最後の発想は、この状況で絶対思いつかないと思うぞ」


「本当はラビィー様も連れて逃げて欲しいけど、ラビィー様がいなくなると戦線が維持出来ないからね。キリーとエレちゃんとで逃げて。まあ、僕はパンチャと一緒に三途の川を見に行ってもハネムーン気分だから問題ないよ」


「こんな時までポジティブ~」


 こいつらの頭の中って絶対におかしいよ。

 この状況でツンデレもハーレム発想もポジティブ思考も絶対にないわ~。シープに関しては(知識)じゃなくて(恥識)が凄いんじゃないのって思うレベルだよ。


 あれ? 俺、上手い事言っちゃったんじゃない?

 さてさて、この状況を待ってくれているケバスットとか言うトロール。どうしましょうかね。


 一瞬だけトロールに目を向けてみる。仁王立ちで構え、隙だらけに見える。

 全員で飛び掛かれば勝てそうな雰囲気すら漂う。だが、トロールの鋭い眼光はこちらの動きをしっかりと捉えている。


 何か行動を起こそうものなら、すぐにあの大斧を振るってくるだろう。

 ……無理ですな、これは。明らかにレベルが違うね。


 俺にすらはっきりと分かる。あの大斧って切れるの?

 めっちゃ刃こぼれしてるんだけどさ。あれ、叩き潰すって表現の方があっているんだろうな。


 痛そう~。本気出されたら三途の川を見に行くどころか、確実に渡るね。

 でもさ、男ってこうあるべきだと思うんだよね。


「ラビィー、俺が奴を食い止める。その間にお前らが逃げろ」


「先生……」


「お前らの誰がいなくなっても次世代の奴が戦えるようになるまで20年ぐらいかかるんだろうが。俺が死んだら違う教育係を召喚すればいいだけの話だろ」


 どちらが合理的か、子供でも分かる話だ。

 右手にアサルトライフル、左手にハンドガンを構え大きく息を吸う。覚悟を決め、ケバスットの前までゆっくり歩く。


「ほう、最初の相手は教育係。お前か」


「俺だよ。この格闘馬鹿」


 なんかこういうシリアスシーンってなかったから、上手い返しが思いつかない。

 完全に毒され始めているな、俺。慣れって怖いね。


「さあ、勇者と四武太守は期待外れだった。お主は我を楽しませてくれるのだろうな?」


「ちょっと待った~」


「おぉ~と、ここでちょっと待ったコールだ! って、ネタが古すぎて読者は絶対に分かんねぇよ!」


 何十年前のネタなんだよ。

 読者でこのネタが分からない人はお父さんやお母さんに聞いてみようね。多分知っていると思うよ。

 で、女装趣味のベアルよ、いきなりどうした。真剣な表情と台詞があってないぞ。


「ここは僕の濡れ場だよ!」


「カッコいい場面で噛むんじゃねぇよ! 見せ場って言い直せ!」


「パンチャに良い所を見せるのは僕の役目だよ! キリーにパンチャは渡さないよ! 天使のような笑顔と小学生なようなロリ体型は僕の物だ・・・・・・へぎゅぁ!」


 あっ、石……じゃなくて岩レベルが飛んできてベアルの頭にクリティカルヒットした。

 投げたのは当然のようにパンチャだよな。敵は本能寺にありってやつですな。身内に敵がいるって漫画やアニメではよくあるシーンだね。

 実際に俺もパンチャのせいで三途の川を渡りそうになったしね。 


「おい。我はいつまで待てば良いのか」


「律儀に待っていてくれたのか? お前、本当は良い奴じゃないのか?」


 ラビィーが悔しそうに言う。


「私はさっき、あいつにボコボコにされたわ」


「見た目小学生のあたいをふっ飛ばしたわ」


「ええ、それは犯す勢いでしたわ」


「……さ、さあ、戦いを始めようぞ!」


「あっ、話をそらしたですの」



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