第29話 胸騒ぎ
「個人個人で違うから私にも分からん」
「・・・・・・俺、帰るわ」
「待って、先生」
俺、こんな茶番を見る為にこんな所まで来たんじゃねえよ。
収穫は魔王が不死身って言う絶望を突き付けられただけ。ありえねぇ。お城で待っている副隊長たちに申し訳ないわ。
帰ろうとする俺の袖を掴み、引き留めようとするラビィー。
袖掴み+上目使い&涙目の最強コンボは反則って言っているだろ。ラビィーみたいな美少女にそんな事をされて、帰れる男がこの世に存在するものか!
断言出来ちゃうよ、俺。でも、帰るけどね。
「離せ、ラビィー」
「先生、急いては駄目。焦らすのは女の役目ってシープが教えてくれた」
「そんな説明は聞きたくない。そして話せって言ったわけじゃねえ。離せって事だわ。そして女性にそんな役目はない」
まだ何かあるの? もうこのポンコツ初代勇者に聞く事なんて何もないだろう。
魔王が霧状の化け物で無敵、そして今の魔王の身体が2代目勇者って。さらに俺たちの覚醒方法は分からないんでしょ。
絶望する事以外に何も教えてもらってないのに、これ以上何をこいつに期待するんだよ。
「慌てるな。ムッツリエロ教育係よ」
「ムッツリエロってなんでお前が知ってるんだよ。そして肯定もしないからな」
「さっきまではアドバイスだ。そしてここからが本題だ」
「本題までが長すぎですの!」
「長くて良いのは性行為のと・・・・・・はっ」
顔を赤らめ、うつむいてモジモジするシープ。
「はっ、じゃねぇ。なんでいまさら顔を赤らめているの? もっと前から顔を赤らめるポイントは沢山あったと思うよ~」
なんで恥じらっているの? それで今更好感度とか上がると思っているの?
一部のユーザーを除いて、あなたに萌えポイントはもうないと思うよ。
そしてロリ体型のパンチャと女装趣味のベアル。
飽き始めちゃったのかな~? たくさんある本でドミノ倒しをやり始めているんじゃねえ。
初代勇者ペシャルが、そんなパンチャたちを横目でチラリと見て大きくため息をついた後に口を開く。
「お前の行動が本に載ってしまう事なんだがな。知らなくても良いと言うなら、そのまま帰るがいい」
「すいませんでした!」
これって録画機能で再生されているんじゃないのかよ。
もう確実に初代勇者ペシャルと通話しているレベルだろ。そしてなんでペシャルが不機嫌になっているんだよ。
もう、こっちが見えている反応としか思えないぞっと。
「あれは後世に色んな事を伝えるような伝記と思われているが、実は呪いなのだ」
「うん、知っているよ~。呪い以外に何物でもないで~す」
「実はあれは魔物の呪いなのだ。したがって、魔王を倒せば呪いは解ける」
「は~い、こっちの案件も詰みました~」
さっき魔王は不死身って言っていたでしょ。無理じゃん。
がっかりする俺の気持ちを察してか、ラビィーが俺の肩に手を置いてくれた。
色んな感情が欠落しているラビィーが、こんな気遣いが出来るようになったなんて・・・・・・先生の立場からしてこんなに嬉しいことはないよ。
色んな事を教えた甲斐があった、うんうん。
「先生」
「なんだ、ラビィー」
「ドンマイ」
「うん、気遣う空気を読めたのは正解だけど、言葉のチョイスは間違っているよ~」
両手を腰に当て、少し成長したという胸を張るラビィー。
無表情だが、どこかドヤ顔の雰囲気を出している。
良かった、良かった。確実に成長しているね。雰囲気も分かるようになってきたし、あとは表情と言葉使いだね。
でも、シープやパンチャ、ベアルにエレファ。みんなが驚いているのは成長の証だぞ。
「さて、魔王の封印の方法は・・・・・・」
「さすがの初代勇者もこの流れは分からなかったみたいだな」
「当然だと思いますの。この映像は録画ですので初代勇者様は私たちの会話は分からないはずですの」
「いや、もうそろそろ疲れてきたから話を切り上げようと思ってな」
「だから返答するんじゃねぇ」
もう誰が見ても録画じゃなくて、リアルタイムで通信しているって答えるよね?
というか、どうでもいいから話を先に進めようよ。
「封印の方法はだな・・・・・・」
そんな時だった。突如揺れる初代勇者ペシャルの屋敷。地震とは違う。
俺は前に同じような揺れを経験していた。あの時だ。ラビィーと出会った城と同じような揺れだ。
ラビィーが外へ向かい、いち早くこの部屋を飛び出していく。
それに続きパンチャ、ベアル、エレファも飛び出した。俺もラビィー達に続き、部屋を出ようと駆け出そうとした。
しかしその瞬間、首周りに衝撃が走った。
「ぐわっ! ごほっ、ごほっ。この世界の住人は、人を止める時に襟を引っ張るのが通例なのかよ!」
俺は後ろを向き、襟足を掴んだ犯人を確認する。
そこに立っていたのは、真剣な面持ちをしたシープだった。
というか、俺を止めるだけなら掴むのは肩で良くないか?
さらにいうなら、先にまず声をかけろよ。
この世界の住人は襟足を掴んで首を絞めて止めるのが法律で決まっているの?
もし決まっているのなら、1番の法改正の案件にしてやるからな!
「馬鹿なのですか? 死にますか? 本当に三途の川を見に行きますか? それで本当にラビィー様の教育係になるおつもりですか? いくらラビィー様が麒麟様を意識されているからと言って、調子に乗らないでくださいますか。これだから童貞の殿方は周囲から馬鹿にされるんですよ」
「全国の童貞を代表して謝罪を要求していいですか? そして心に傷を負わせておいて、さらに抉らないで。本当に泣きそうだよ」
正直、パンチャに罵られても赤いプラグスーツを着た女の子を思い出すだけで、個人的にはそこまで心が折れそうになる事はない。
しかし、シープ姉さんの罵詈雑言は心をへし折って踏みにじり、回復魔法をかけて元に戻しておいてから、粉々に打ち砕く。そんな感じがするんですよ。
あっ、駄目だ。涙が出そうだ。……童貞で何が悪い!
必ず絶対にその内、卒業してやるからな。多分出来る……出来るよね……出来るといいな……。駄目だ、願望に変わってきちゃったよ。
「麒麟様はここで初代勇者様から魔王の封印方法を聞いてきてください。麒麟様が聞けば後からみんなで読む事が出来ますわ。伝言ゲームになってしまうと、ちゃんと伝わらない可能性があります」
「あぁ、なるほど」
「麒麟様! ア○ルの話なんてしていませんわ!」
「この緊迫した状況でそんな風に聞こえたの? 違う意味で尊敬するよ~」
「では麒麟様。お願いいたします」
そう言いながらシープ姉さんは身体を翻し、部屋から駆け足で出て行く。
なんか戦力外通告を受けたみたいで寂しいぞっと。
で、そこで説明を待ってくれている、もはや通話状態の初代勇者ペシャルさんよ。
物凄くありがたいんだが、もう録画って言っても信じねぇぞ。
絶対にこっちの声はペシャルさんに届いているよね。確信しかないわ、これ。
「漫才は終わったのか?」
「漫才じゃねぇし。なんかヤバそうな状況なんで、詳しく、でも簡潔に横道に逸れないようにお願いできますかね」
「では説明するぞ。しっかり覚えるのだぞ。とはいえ、お主には呪いがあるからしっかり聞いて本に印すがよい。封印の方法は……」
これほど呪いがあって良かったと思ったことはないぞっと。
女神リンネのお告げで勇者になったとか、魔王を封印するための神具を取りに行った時の冒険話とかさ。
ちょくちょく自慢話とか幼少期の話とかで、横道に逸れまくるんだよ。
虫取り網を使ったとか、どうでもよくねぇ? どこが重要で、どこが余計な部分なのか分からないレベルだ。
記憶力の悪さには自信があるぞっと。あとでシープやエレファに読んでもらって覚えてもらおう。とりあえず、急いでラビィーたちの元へ行かないと。
俺よりも強いラビィーたち。本来なら何も心配はいらないはずだ。
だが、何か胸騒ぎがする。
(無事でいろよ)
そんな思いが俺の足を速めていく。早足から駆け足へ、そして全力疾走へ。
外に出た俺の目に飛び込んできた景色はーー信じられないものだった。




