表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
27/58

第27話 本当の敵は身内でした



 朝ごはんを食べた俺達は森の奥深くに足を進める。

 道なき道を進むために馬や馬車は置いてきた。茂みで視界が遮られ、だんだん方向感覚が失われていく。

 不安になった俺は先頭を歩くラビィーに話しかける。


「なあ、本当にこの道で合っているのか?」


「私の勘がそう言っているから大丈夫」


「さすがラビたん。ポジティブだね」


「ポジティブと楽観的は違うですの!」


 エレファ、ナイスツッコミ。全くその通りだ。

 こいつらの頭の中を覗いてみたいわ。悪気が無い分だけ性質が悪い。これは確実に迷ったな。さて、どうしましょうかね。


 地図を片手に周囲を見回すシープ。

 そしてそのシープと全く同じ動きをするパンチャ。ラビィーに至っては犬のように匂いを嗅ぎ始めたし。


 この状況で苦笑する以外に何が出来るかな?

 ラビィー、はしたないから女王になった時にはそういう事はやめような。大体800年以上経っているのに、匂いで分かるって事はありえないよ。


「あっちだね。木の隙間から建物のような物が見えたよ」


 いないと思っていたベアルが突如木の上から降りてきた。

 しかも(褒めて、褒めて)と言うような目でパンチャの側に寄っていく。


 本当に犬だな、あいつ。鎧で隠れて見えないけど、尻尾が付いている気がするわ?

 っておい! パンチャだけ連れて行こうとするんじゃねぇ。なんか違う目的があるんじゃないかって疑うレベルだぞ!


「先生、私達も早く行こう」


「あらあら、ラビィー様。早くイこうだなんて、乙女としてはしたないですわ」


「その言動が1番はしたないよ~」


 ベアルを先頭にして道なき道を歩く。

 少し歩くと完全に廃墟化した屋敷らしき建物が見えてきた。


 こんな場所に何か隠されているのかよ。もしこの世に神様がいるのなら、ヒントになるような物がここにあってくれ。

 こんな辺境まで出向いて何も無かったら、城で戦っている副隊長さんに申し訳が立たないし。


 しかし、一応原型を留めているとはいえ、完全に壊れているじゃねぇか。

 家に入ったら崩れ落ちるなんて事は無いよな?


「では、私とエレファ、パンチャで家の中をくまなく調べてみましょう。麒麟様とベアルで離れの建物をお願いします。ラビィー様は周囲の警戒をお願いしますね」


 いつぞやのようにテキパキと指示を出すシープ。

 うん、まさに参謀だね。そしてラビィーはいつものように表情を崩さず、「わかった」と一言。


 俺には分かっているからな、ラビィー。悔しいよな。うん、わかるよ。

 少しずつだけど文字を覚えて、本が読めるようになってきているのはわかっているから。もう少しだから。今は我慢だぞ。教科書になっているのが、俺の物語の本って事は問題なんだけどね。

 

 実際のところ、ラビィーの物覚えはかなり良い。元々会話は出来ているんだし、負けず嫌いの性格も手伝って、平仮名以外にも簡単な漢字なども完全に読めるようになっている。

 あとは難しい文字だけだ。もう少しだからな。


「では何かありましたら大声で呼びますので」


「ん、分かった。ほら行くぞ、ベアル」


 ベアルさんよ、ちょっとパンチャと離れるぐらいで血涙を流すんじゃねぇ。

 生ける屍になっているベアルを引きずって離れにある建物の扉を開ける。


 おおう、なんかアンデットモンスターとかでも出てきそうな雰囲気だな。意外に広いし、暗いし……用心のためにハンドガンは準備しておこう。


 決してビビっているわけじゃないからね。うん、ビビってねぇし。

 大事な事だから2回言ったよ。人の印象って大事だから。


「おい、ベアル。早く立ち直ってくれよ。1人じゃ調べきれねぇぞ」


「パンチャぁぁぁぁぁ~~~」


 もはや役立たずどころか、ただのウザい女・・・・・・もとい、男になっているぞ、ベアル。

 こいつも本当にブレねぇな。この世界の奴らって斜めに筋が通ってないか? 超が付くほど面倒くさいぞっと。


「ここをとっとと調べ終えればその分早くパンチャに会えるだろ」


「おぉ~。そうだよ、そうだよ。キリー、冴えているね!」


 ベアルの死んだような目が一気に輝きを取り戻す。

 するとベアルは覚醒してないはずなのに覚醒したような動きで色んな所を探索し始めた。


 なんとなくこいつの扱いが分かってきた気がする。パンチャを餌にすれば何でもやるんじゃねぇの? さて、俺も探索しましょうかね。

 ……どこから始めればいいんだよ。蜘蛛の巣は凄いし、埃っぽいし。しょうがない、ベアルの真似をして床を調べたりしますか。


「うぉっ!」


 はい、床が抜け落ちました~。こんなベタなオチかよ!

 床板まで腐っているってどれだけ放置されていたんだ、この屋敷。こういう偉人の住んでた家とかってさ、普通なら観光名所とかになるんじゃないの?

 世界を救った英雄なんだよね。俺がいた世界なら間違いなく記念館にしているよ。


「キリー、大丈夫かい? 心臓が止まってないかい?」


「俺がどんだけノミの心臓だと思っているんだよ」


「でも、キリーはビビりじゃん」


「び、ビビってね~し」

「キリー。わかった。わかったからその銃口をこっちに向けないでくれ」


 こんなベタな展開があったものの、探索は終了。めぼしい物は特になし。

 ただ単に身体中を埃まみれにしただけ。とりあえずラビィーの所に戻りましょうかね。


「先生、お帰り」


「ただいま、ラビィー。シープ達は?」


「まだ帰ってきてない」


「じゃあ、僕は愛しのパンチャに愛の告白をしに行ってくるよ」


「お前、完全に壊れたのか?」


「酷いよ、キリー。それじゃ僕が前から少し壊れていたみたいじゃないか!」


「ベアルは生まれた時から壊れていて不良品ってパンチャが言っていたわ」


「そんなご褒美な台詞をパンチャが言ってくれていたんだ。興奮して鼻血が出そうだよ! なぜ直接言ってくれないんだ!」


「そのリアクションは人として間違っていると思うぞ」


 俺がツッコミを入れた時にはベアルはもう勇者が住んでいた家の中に入っていた。

 おい、人の話は最後まで聞けって親に教わらなかったのかよ。あっ、こいつら、普通の親に育てられてないんだった。

 

そう考えるとちょっと涙が出てきたわ。ラビィーもパンチャもシープもベアルもこの制度の犠牲者だわ。

 ……エレファは何としてでも守ってやろうっと。


「で、周囲は異常なしなのか?」


「大丈夫よ、先生。この建物を中心に結界が張られている。だから魔物は入ってこられない」


「そうなの?」


「うん、800年以上たった今も正常に機能している凄い結界。初代勇者の凄さがわかる。今の私にはこの結界は張れない。……先生が毎朝、下半身に張るテントも私には張れないわ」


「なんでその一言を付け加える必要があったのかな」


 元勇者が住んでいた屋敷。

 ここは魔物の国『スブデン』なんだから、こんな屋敷は普通なら壊されているはず。それなのに現存している。


 それだけ魔物たちが近づく事さえ出来ない凄い結界が張られているって事か。歴代勇者でもラビィーはかなり優秀ってシープが言っていたけど、そのラビィーが出来ないって事はどれだけ初代勇者は凄かったんだろう?


「先生、人生相談に乗って?」


「千葉の兄弟たちのような話の持って行き方はやめて。時事ネタは廃れるし、ネタ自体が古いよ~」


 そう言って俺はラビィーの横に腰を下ろそうとする。

 その瞬間、殺気を感じた俺はすぐさま横に弾け飛んだ。俺がいた場所に飛んでくる石の飛礫つぶて


 敵襲か! ショットガン並みの範囲でそれ以上の威力って、敵はどんな魔法を使っているんだよ。……ってあれ? この世界って俺の呪い以外に魔法なんか無いって言っていなかったっけ?


 恐る恐る飛礫が飛んできた方向に顔を向ける。やっぱりお前か、パンチャ。

 段々と殺意レベルが上がっていませんかね? 殺意一杯で石を投げるのはそろそろやめてくれませんかね。いや、マジで。


「ちっ、外したか。ラビたん、シープ姉さまが呼んでいるわよ♡」


「いや、語尾にハートマークを付けてんじゃねぇ。その前に言うことがあるだろ!」


「死ねばいいのに……」


「よりによって口から出る言葉はそれかよ!」


「3割は冗談よ。あんたもシープ姉さまが呼んでいたわ」


「逆に3割の冗談があったことに驚きだわっ」


「ベアル。少し汗をかいたから、団扇で扇いで」


「地味な作業のご褒美、ありがとうございます!」


「俺の意見はスルーなのね」


 本当の敵は身内にいました。もういいよ。

 シープたちが何か発見みたいだし、とりあえず屋敷の中に入りましょうかね。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ