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第26話 見張り役は昼寝勇者



「頂きます~」


「せ、先生の、お、大きい……口に入りきらない」


「エロい言い方するんじゃねぇ。俺が作ったパンの事だろ!」


 俺の隣で口一杯にパンを頬張るラビィー。完全にどっかの誰かの影響だな。

 あっ、影響って言葉の上に悪を付けるのを忘れていたわ。


 誰も取らないからもっとゆっくり食べなさい。その代わり、食べ終わったら文字の勉強をするからな。

 覚悟しておけよ。俺がお前を立派な国王にしてやる。

 

 すっかり日が沈んでそろそろ就寝タイム。川のせせらぎが心地良い。

 女性陣は岩の向こうで水浴び中。1人を除いてね。


「おい、ラビィー。大丈夫か?」


「……」


 返事が無い……ただの屍のようだ。

 まあ、勉強のやり過ぎで頭から煙を出しているだけだけどね。

 文字を教えただけなのに、なぜこんな事になるの? 立派な国王まで道のりは長そうだな。教えた俺のHPも0に近いけどな。すげ~疲れた。

 これ、小学生レベルだぞ。


 で、隣で何をごそごそしているんだ、ベアル。……大体予想はつくけどな。


「行くよ、キリー」


「どこに行くんだ? いや、言わなくていい。嫌な予感しかしない」


「覗きに行く!」


「言いやがった。聞きたくないって言ったのに言いやがった。前々から思っていたけど、馬鹿だろ、お前。犯罪をするって言い切るんじゃねぇ!」


 なに胸を張って堂々と宣言しちゃっているの? 学習能力ないのかよ。

 パンチャにボコボコにされるだけだからやめとけよ。本当に三途の川を見に行くことになるよ。


「行かないのかい?」


「なんで一緒に覗きに行く前提なんだよ。パンチャに物理攻撃され、シープに精神攻撃され、エレファの信用まで失うんだぞ。リスクがデカすぎるだろ」


「何を言っているんだい、キリー。僕はこの旅に出てから1度たりともパンチャのお風呂を覗きに行った事は無い。そろそろパンチャも油断しているはず。あの天使の身体を見るのは今しかないんだよ! リスクを恐れていたら何も出来ないよ。僕らは一心同体、運命共同体、一蓮托生の持ちつ持たれつの関係だろ!」


「重すぎる上にお前とそういう関係になった覚えはねえよ」


「じゃあ、僕1人で行っちゃうよ」


「勝手に行って三途の川を見てこい。そして帰ってくるな」


「酷いよ、キリー。じゃあ、行ってくる」


 ベアルが岩を登り始める。

 美少女じゃないのに美少女の姿で岩をよじ登るってどこからツッコめばいいんだよ。多分この世界でしか見る事が出来ない景色だな。

 いや、見たくて見ているわけじゃないんだけどね。あいつ、ラビィーとは違った馬鹿だな。


「パンチャの水浴び覗きポイントまであと少し……ここからは慎重に」


「あのね、ベアル。あの変態馬鹿教育係と行動を共にするという事は、あんたの行動も筒抜けになるって事なのよ。あんた、バカ?」


 ベアルがもう少しで岩を登り切りそうな時、突然その声は聞こえた。岩の上に仁王立ちで待ち構えるパンチャ。しっかり服も着ている。


 そしてその笑顔……いや、邪笑と言った方が正しいな。怖い……超怖いわ、その邪笑。悪夢に出てくるレベルだぞ。

 あっ、ベアルが蹴られた。そして落ちてくる。もちろん俺にはベアルを受け止める気なんてない。


 ゴロゴロと転がり、派手な音と共に地面に激突するベアル。

 おおぅ、痛そう~。そっか、そっか。俺と一緒にいるって事は、ベアルの行動も俺の本を読める人なら分かるんだ。

 しばらく本を出してないからそんな設定、忘れてたわ。というか、俺の本を出して俺らを監視していたのか。信用されてないな~。


「ご、ご褒美、ありがとうございます!」


「ベアル。お前、毎日が楽しそうだな」


 ボロボロになりながら口から出るセリフがそれかよ。

 どんだけMなんだよ。俺、絶対にベアルみたいにはならない。

 

 そんな事を思っているとシープとエレファが戻ってきたけど、女性の濡れた髪ってなんか良くない? 色っぽいよね? これってマイノリティですかね?


「さて、明日には勇者余生の地に着きます。何が起きるか分かりませんので、そろそろ寝て万全の態勢で挑みましょう。ラビィー様、見張りをお願いできますか?」


「わかった。その為にお昼寝をたくさんした」


「ただ睡魔に負けただけだろ」


「じっちゃんの名に懸けて間違いないわ」


「全然信用できないから懸けなくていい」


 しゅんとしてこちらに顔を向けるラビィー。

 だから上目使い&涙目の最強コンボはやめやがれ。本当に惚れちまうぞ。


 あれ? そうやって考えるとラビィーはいつも寝ている印象があるな。少しでも時間があれば寝ているイメージ。寝る暇があったら文字の1つでも覚えろよ。立派な国王を目指しているんだろ。


「先生は私を信用しないし、決して褒めない」


「行動で示してからそのセリフを言え」


「……私、褒められるのを諦める」


「いや、そうじゃねぇだろ! そこは諦めちゃ駄目だろっ」

「麒麟お兄ちゃん。そろそろ寝るですの。精神的な疲れも取らないと明日に影響しますの」


 エレファの言う通りだ。こいつらの精神攻撃ってハンパねぇ。

 今日も1日ツッコミを入れ過ぎて疲れたし、さっさと寝よう。


 荷物の中から毛布を引きずり出し、さっさと横になる。ちなみに敵に見つかる可能性があるって事で焚き木等はしていないよ。

 しかし、月明かりのおかげで周りは充分に見渡せる。これならラビィーが見張りやすいし、俺も安心して寝られるね。


「あたいもラビたんと一緒に見張りをするわ」


「お前も馬車で寝まくっていたからな。お昼寝をし過ぎて眠くならない子供かよ」


「はぁ~ん? あんたは見張りの対象外にしてあげるわ。勝手に魔物に襲われなさい。半径1キロ以内で寝ないでね」


「それは視認すら困難なレベルだ! せめて視認ぐらいはしてくれ!」


「本当に色んなツッコミバリエーションがあるんですの。ツッコミの勉強になりますの」


 律儀にメモを取るエレファ。ラビィーといい、変な所で真面目だね。

 エレファはなんでこの環境でこんなに良い子になったんだろう?


 ……こんな環境だからなったのか? ニワトリが先かタマゴが先かって感じなの。さてと、今日のツッコミはこんな所で。寝ましょうかね。


______________________________________


 太陽が昇り、朝が来た。

 ゆっくりと目を開けると岩場の上で見張りをしているラビィーと目が合った。優しい風がラビィーの髪を揺らし、朝日が包み込んでいる。


 やっぱり外見は本当に可愛いな。行動はすごく残念極まりないけどさ。

 俺が起きた事に気が付いたラビィーが口を開く。


「おはよ、先生。昨日はお楽しみでしたね」


「どこの宿屋のオヤジだよ! そのネタ、若い世代には分からんネタだぞ。というか、なんでお前が知ってるんだよ!」


 俺の世界の2大RPG。

 ドラゴンなんやらのネタをお前が知っているか不思議でしょうがない。


 せっかく良い気分で目覚めたのに朝からツッコミって。

 そしてラビィーと一緒に見張りをやっていたはずのパンチャ! なんでシープとエレファの間に入って川の字で寝ているんだ?


 ベアルは縄で縛られて寝ているし。俺が寝ている間に何があったの。

 そんな事を思っていたらシープとエレファが起きてきた。やっぱりおかしいだろ。見張りだったはずのパンチャが、なんで1番遅くまで寝ているんだよ。


「おはようございます。麒麟様、昨晩はゆっくりヌきま……失礼、ゆっくりできましたか?」


「取り繕っても遅いわ! どれだけ下ネタ脳なんだよ。世の中はもっと健全だよ!」


「朝から凄いツッコミですの」


「先生、朝ご飯はまだ?」


「ラビィー様、すぐ準備いたしますので少しお待ちくださいね」


 あぁそうですか。ガン無視ですか。いいけどね、別に。

 じゃ、さっさと飯を食べて『勇者余生の地』とやらに行きましょうかね。また襲われるのも嫌だしね。


 朝食が出来る頃、パンチャとベアルが起きてきた。昨日の夜、何があったか知りたいけど、2次災害に巻き込まれたくはないから知らん顔をしておく。




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