第25話 ゲロ教育係、馬に乗れるようになる
西の城を出発して3日。
馬2頭とは別に馬車まであるから、とりあえずここまでは快適そのもの。リーグエス国内だから治安が良いのは当たり前。
西の城の領主、シープ曰く、「ここからですわ」との事。国境近くは何が起こるか分からないって話だから、警戒しないといけない。
でも、馬車の中で爆睡するラビィー。そしてラビィーを抱き枕にして寝るパンチャ。
こいつら、緊張感無さ過ぎだろ。あっそうだ。読者に報告。
俺、馬に乗れるようになれました。ん? なぜだって? それは出発前にこんな事があったんだよ。
「麒麟お兄ちゃんは馬に乗れないんですの?」
エレファが少し子供っぽい笑顔で、俺の心を言葉と言う刃で抉ってくる。
いや、悪気はわかっているんだけどね。でも、もう少しだけ言葉は選んで欲しかったりして。
「ま、まあ、そうだね」
「でも、銃はかなり上手く使えるんですよね?」
「う、うん。なんか知らんけど、銃は使えた」
「って言う事は……」
俺の答えを聞いて腕を組んで考え込むエレファ。
おいおい、どうしたエレファ。そんな言い方をされたら、気になっちゃうよ。
「麒麟お兄ちゃん。ちゃんと召喚の儀をしてみるのですの」
「へっ?」
「召喚の儀は本来、勇者が。国王が行う事なのですの。勇者が18歳を迎え、国王になる時に教育係を召喚するのですの。でも、今回は非常事態。亡き国王が魔王との戦争の間に、ファギーのおじいちゃんが麒麟お兄ちゃんを無理やり召喚したのですの。だから、ちゃんと能力の受け継ぎが出来てないかも。馬に乗る技術がないのも身体的能力が中途半端なのも、教育係として何も出来ていないのも、全て能力の引継ぎが上手くいってないからかもですの」
俺の後ろではパンチャとベアルが声を殺して笑っている。
笑うなら大声で笑えよ。で、なんなんだよ。
教育係の色んなスキルって引き継ぐものなの? じゃあ俺も馬に乗れたり、バク転とかしながら銃を乱射したり出来るのか?
ラビィーみたいな匂いを嗅ぐとかそんなスキルだったらいらないよ。
「なるほど。一理ありますわね。それほど時間もかからないし、試してみる価値があるかもですわ。ラビィー様、お願いできますでしょうか?」
「わかった。ヤるわ。で、誰を殺せばいいの?」
「いや、その『殺る』じゃねぇ。文字ネタは文章でしか分からないからな。そして、全く話を聞いていなかったのかよ!」
「ごめんなさい、先生。何を言っているか分からないわ」
ここでお約束の台詞は要らない。
そして上目使い&潤んだ瞳の最強コンボで、俺を見つめるのはやめてくれ。台詞と全く合っていないし、うっかり惚れちゃったら責任を取ってくれるのかよ。
「ラビィーお姉ちゃん、儀式のやり方も先代王から引き継いでいるはずですの。しっかりしてくださいですの!」
ラビィーに対して裏手ツッコミを入れるエレファ。
本当に12歳かよ。この中で誰よりも頼りになるじゃん。主にツッコミ的な意味でね。
それにしてもこの天然系美少女。本当に王様になる気があるのかよ。
考え込むラビィーが何かを思いついたか、手を合わせて口を開いた。
「思い出したわ」
「本当かよ。不安しかないぞ」
「先生、私を信じて」
「どう考えても信じる方が難しいだろっ」
「大丈夫だと思う。先生がファギーに召喚された時より、20倍ぐらい目が回るだけよ」
「ちょっと待て。今、聞き捨てならない台詞が出たぞ!」
恐る恐るラビィーの前に出る俺。何されるの? また目が回るとか吐き気とか来るの?
あれだけは本当に勘弁してください。こんな可愛い子達の前でゲロとか無理だよ。2回もゲロを吐くシーンなんて描写したら、読者の俺への好感度だって落ちるだろ。
「始めるわ」
そう言ったラビィーが俺の頭の上に手を載せて何かを詠唱し始めた。
こういう時間って妙に長く感じるよね。読者のみんなもあるよね? 1分が5分以上に感じたりする事。この時間ってなんか無駄に感じない?
そんな事を思っているとラビィーの詠唱に力がこもり始める。あれ? なんか目の前にいるラビィーが回り始めているよ……これ、ヤバくない?
そう思った瞬間……えぇ、読者のご想像通りです。
強烈な吐き気に襲われた俺は、みんなの前で盛大に吐きましたよ。馬に乗れるようになったのと引き換えに『ゲロ教育係』と言う素敵なミドルネームを頂きましたよ。俺のミドルネーム。増え過ぎじゃねぇ?
こんな感じで馬に乗れるようになったんだよ。俺の黒歴史にまた新たな1ページが加わった瞬間です。
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馬に乗れるようになり、旅をし続けて1週間。
太陽が地平線から完全に消えかけようとしている。自分がいた世界ではこんな大自然の景色を見る事は出来ないだろう。
こんな状態じゃなかったら、景色をもっと楽しめたのに……俺はなんでこんな所にいるんだろう。
「もう日も暮れるし、今日はこの辺での野営をする事を提案しますの」
「そうですわね。ここはスブデン領。いつ何が起こるか分かりませんわ。万全の態勢で臨みたいので、あの森の中で野営をいたしましょう」
こいつらに情緒って言葉はないのか。そして俺の気持ちは完全無視なのね。
こんな素敵な風景なのに何も感じないのかよ。読まなくていい時に人の心を読むくせに、こういう時には読まないんだ。なんか寂しい気持ちになるじゃねぇか。いつの間にかスブデン領。ご都合主義、万歳!
んで、ここに来るまでの道のりで魔物の群れとの戦闘が3回。そしてアミレプ軍の人間との戦闘が5回。
はぁ~、人間との戦闘の方が多いってどういう事だよ。あいつら、問答無用で襲い掛かってきやがって。しかも新国王のラビィーって分かっていて襲ってくるんだから性質が悪い。
えっ? なんで、そんな事が分かるかって? だってあいつら、『逆賊の王には死を』とか『死ね~、ラビィー女王』って叫びながら襲ってくるんだもん。誰だって分かるでしょ。まあ、一瞬で返り討ちなんだけどさ。
さて全員で食事の準備を始めましょうか。もちろん警戒は怠らないけどね。
って言っている間にご飯が出来ました。2回目のご都合主義、万歳!




