第20話 覗きは犯罪です
「なんでエレファが普通の食事で私がお子様ランチなのよ」
「そりゃ、見た目が……」
「先生、危ない」
うぉ!
ラビィーが手で俺の身体を横に押してくれなかったら、顔面にフォークが刺さっていたぞ!
殺意しか見えない速さでフォークが飛んでいって、石の壁に刺さるぐらいの威力って何なんだよ!
というか、フォークって石の壁に刺さるものだっけ? 日用品なのに殺傷力有り過ぎじゃねぇ?
「あっ、ごめん。つい、うっかり手が滑ったわ」
「ついうっかりって言うレベルじゃねぇ!」
「天然ボケや下ネタ以外にもツッコミを入れるなんて、勉強になりますの」
「ツッコミは俺の本業じゃないぞっと。そしてラビィー。食事は手で食べない。ナイフとフォークがあるんだから、使いなさい。助けてくれたのはありがたいが、俺の身体にお前の手形がしっかり付いちゃっているぞ」
ご飯の食べ方を教えるのも教育係の仕事なの? なんかこれって育児みたいじゃねぇ?
俺、結婚してないのに、流行りのイクメンになるの?
「ほら、こぼさない。良く噛んで食べる。ところでシープは? 飯も食べないで何しているんだ?」
「シープお姉ちゃんなら1人で出かけて行ったですの。城に常駐していた時はよくある事でしたの」
「そう言えば、シープ姉さまは街に良く出かけるわね。何をしているのかしら」
「嫌だな~、パンチャ。大人の女性が街に出かけてする事と言えば1つじゃないか。最も、パンチャにはまだ早……へぐがぁ!」
口は災いの元とは昔の人はよく言ったもんだね。
でも、ベアルが喜んでいるみたいな気がするのは俺だけかな? まあ、いいや。色んな事はこの際置いておいて、シープが何してるかが凄い気になる。
「先生、シープ、追う」
「興味深々の表情で人を誘うんじゃねぇ。ととうか、尾行する気満々じゃねえか」
「大丈夫。このミッション、必ず成功させる。私は絶対に失敗しないから」
「お前はどっかのスーパー女医かよ!」
ちょいちょい俺がいた世界のネタを入れてくるな、こいつら。
どっかで俺の世界と繋がっているんじゃないの? まあ、俺が来たんだから実際どこかが繋がっているんだけどさ。
「さあ、ラビたん、変態教育係。行くわよ」
パンチャ。なんでお前まで行く気満々なんだよ。
ほら~、見た目は大人、中身は子供のエレファが若干引き始めているぞ。
どっかの名探偵のような見た目は子供、中身は大人のパンチャさんよ。
「おい、本当に行く気なのか?」
「マジよ」
「マジに決まっているでしょ」
「マジだよ」
「声を揃えて言うんじゃねぇ。やる事は覗きだ。そしてエレファ。心を折らないで。俺の数少ない味方なんだから」
大人(?)達の悪乗りに完全に引いているエレファ。
そりゃそうだ。俺でもこいつらと行動を共にしていたら心が折れそうだもん。で、この人たち本気で行く気満々だよ。
どうする? どうする、俺! と言っている間にラビィーに連れられて街にいるんだけどね。
エレファは来なかったよ。さすが勇者&四武太守に残された最後の良心だね。
ここにいるのは駄目な大人たち代表ですからね。俺も含まれているけど。良い子のみんなはマネしちゃ駄目だぞ。
「先生、こっち。シープの匂いがする」
「ラビィー、四つん這いで匂いを探るんじゃない!」
「ラビちゃん。人間離れの能力は人の離れた所で使った方が良いと思うよ。 どやっ」
「上手くないから。くだらない事を言っていると、三途の川を見せるわよ」
さぶっ! ベアルよ、一瞬でこの場の空気を凍らせるなよな。
こいつの寒いダジャレを言う勇気も凄いけどラビィーも違う意味で凄いな。
何、その嗅覚スキル。全く、これっぽっちも羨ましくないけど。
そしてパンチャ、四つん這いのラビィーを後ろから覗くな! そしてそのパンチャの姿に興奮するんじゃねぇ、ベアル。俺らはどんな集団なんだよ。
「先生、こっち。あの屋敷からシープの匂いがする」
「なんでドヤ顔で言うんだよ」
「ここからは物音を立てないように近づくわよ」
どれだけ本気なんだよ、こいつら。忍び足スキルも無駄に高いし。
しかし、結構デカい屋敷だな。シープはこんな所で何をしているんだろう。
「おい、扉が開かないぞ。鍵がかかっている」
「どきなさい、変態教育係。あたいに任せておきなさい」
おいおい、パンチャ。扉の錠前に針金1本で開錠しようとしている姿は完全に犯罪者だぞ。
ん? あっ、違う。小学生が扉に悪戯をしているようにしか見えないわ。
しかし、物音1つ立てず、やけに手慣れていねぇか?
ラビィー、部屋の鍵は内側にチェーンとかをかけるようにね。おっと、開いたみたいだな。
「開いたわよ。開けるから静かにね」
そ~っとみんなで覗いてみる。下からパンチャ、ラビィー、ベアル、俺。
見事なトーテムポール状態。
これって端から見たらどんな風に見えるのだろう。
いや、深く考えちゃ駄目だ。我に返るな、俺。
しかし、やけに静かだな。中で何が行われているんだろう。と、扉を開けた瞬間、
「みんな、突撃ですわ~」
と、シープの掛け声と共に扉から出てくる子供の大群。
それを一瞬で避けるラビィー達。
うん、俺1人だけが子供達に押し潰されちゃったね。一緒に助けてくれればいいのに、躊躇なく見捨てたね。
かなり重い……。そろそろ限界に近いので、どいてくれるとありがたいですけど。
俺の肋骨がミシミシと音が鳴って、そろそろボキンって音に変わりそう。
「麒麟様、女性の後を付けるのは犯罪ですよ。ちゃんと言って頂ければ、私の方は受け入れ体勢は万全ですのに」
「顔を赤らめるんじゃねぇ。何を受け入れるつもりだよ」
子供達に押し潰されている状態でツッコミさせるってインドの荒行並みじゃない?
……子供達、本当にどいてください。脳に酸素が届いていません。自分で顔が青ざめてきているのが分かるからさ。
「はい。ではお兄ちゃんの上からどいてあげましょうね」
「た、助かった。しかし、シープはなんで俺達が来るって分かったんだ?」
「麒麟様、お忘れですか? マッパ・キリー馬鹿麒麟先生様」
そういや、そんな設定あったね。
最近、俺の本を読まなくてもラビィーやあんたに心の中を読まれていたからすっかり忘れていたわ。
「あっなるほど。で、シープさん。そろそろその本は閉まって頂けますかね? それ、子供達に見せちゃいけない本ですよ」
「そうなんですか? でも、麒麟様がここに来る前に子供達に読み聞かせていましたわ」
「のぉぉぉぉぉ~~~~」
普通の涙じゃなくて、血の涙が出てきそうだ。
なぜ俺の黒歴史を子供達に教えなきゃならんのだ。俺の本の内容を聞いて、子供達がこの国の将来に絶望しなければいいけどな。
でも、絶望する元ネタはラビィーやパンチャ、あんたの行動や発言だけどね。
「ラビィー達もそろそろ出てきたらどうですか? 一緒に来たのはわかっているんですよ」




