第2話 この世界、色々おかしいんだが?
どれぐらいの時間が経ったのだろう?
謎の少女に襟首を持たれたまま、人間じゃない速度で走られた俺はいつの間にか気絶していた。
当然といえば当然の事だ。衣服で頸動脈を締め付けられ、物凄いスピードで走られたら例えプロレスラーでも気絶するよね。
「うっ……う~ん」
顔に吐息なような物がかかって気が付いた俺は薄目を開ける。
するとさっきの少女が俺の顔を覗き込んでいた。あまりの顔の近さに思わず俺の顔が赤くなる。
そりゃそうでしょ。
アニメの世界にしか出てこないような美少女が、こんな近い距離で俺を覗き込んでいるんだよ。そりゃ顔ぐらい赤くなるでしょ。
「うわっ!」
飛び上がった俺の頭と少女の頭がぶつかり、ゴツンという音が響き渡る。
「ぬぅおぉぉ~~」
声にならない痛み。少女の頭は岩のように固く、ただただ俺は悶絶する。
しかし、少女は何事も無かったかのように俺を眺める。
そして、「えい……」と言う掛け声で少女がいきなり落ちていた木の枝で俺の脚を思いっきり殴りつけてきた。
頭と脚。
どちらの痛みも強烈でさらに悶絶しまくる俺。
「な、なにすんだよ!」
「脚の痛みで頭の痛みを打ち消せるかなって思って」
「そんなわけないだろうが! どちらも痛いわぁ!」
「それで、逃げている最中に何でいきなり眠ったりしたの?」
「足の事はスルーかよ! 後ろ襟を捕まれて、あのスピードで走られたら首が絞まるって! プロレスラーだって落ちるだろ!」
「ごめんなさい。何を言っているのかわからないわ」
「あっそう。ごめん、ちょっと待って。ツッコミ疲れた……よし、お前の方が分からんわ!」
不思議そうな顔で俺を見つめる少女は首をかしげ、頭の上にはてなマークを浮かべている。
そしてつぶらな瞳で俺を見る仕草。
くっ!
可愛いじゃないか……思わず何でも許してしまいそうだ。
やっと頭と脚の痛みが引いた俺は状況をもう1度整理する。
(マテ、まて、待て。少し落ち着け、俺。どうしてこうなった? 何でこうなった? 俺はなぜここにいる?)
静かで木漏れ日が漏れる森の中。腰につけたホルスターから銃を取り出し見つめてみる。 背中にはライフルの重みがはっきりとわかった。
俺は軍人か?それともサバゲーマーか?
と心の中で自分自身にツッコミを入れたくなるぞ。本当になぜこうなった?
「先生、どうしたの?」
少女が不思議そうな顔を俺の目の前に出してきた。
あまりの顔の近さに俺は後ろに飛び退いた。
いきなり覗き込むなよ。童貞男子にそんな行動すると好きになっちゃうだろ!
「わぁぁ~! お、脅かすな! って、先生って誰のことだよ?」
少女にそう言うと少女は俺に指を指す。そして少女は自己紹介をし始めた。
「私は勇者、マンシュリー・ラビリティー。正確には勇者候補。ラビィーって呼んで、先生。で、魔王が来る前に北のお城に行く。肩車するから乗って。それともオンブがいい? お姫様抱っこがいい?」
「……どこからツッコんでいけばいい?」
大きくため息をついた俺は状況を説明してもらえるように目の前の少女に頼んだ。
「なあ、本当にここはどこなんだ? 魔王ってなんだよ? 先生って誰の事だ? この銃って俺にしか使えないってどう意味だよ」
マシンガンのように質問する俺に対してラビィーは首を傾げながら、さらに(?)マークを頭に浮かべる。
……くっ、やっぱり可愛いじゃないか、そのしぐさ。
表情では何を考えているのすらわからないラビィー。どうやら返事は期待出来そうも無い。
だが、こっちも引き下がれない。少しでも今の状況でも理解しないことには俺は何も行動出来そうも無い。
「よし、わかった。1つずつ聞こう。ここはどこだ? これぐらいなら答えられるだろ?」
「森の中よ」
「うん、そんな今いる状況を聞いてない。いや、大きな意味では違ってないけどね。この世界の事を聞いているんだ!」
俺の言葉を聞いたラビィーは不思議な踊り(?)をし始めた。
「先生、一緒にやって」
「なんで?」
「やったらわかる」
「その恥ずかしい踊りを俺にしろと」
俺がそう言うとラビィーは首を2回縦に振った。折れそうな心をしっかりと保ちながら、同じような踊りをする。
恥ずかしい事この上ない。幼稚園児のお遊戯かよ!
俺、高校生だよ。これをクラスメイトに見られでもしたら、俺は間違いなく次の日から不登校生になるね。
腕を2,3回振った後、ラビィーは「マッパ、ファギー」と大きな声を出した。
「えっ? それ、言うの?」
「言って」
「マッパ、ファギー!」
恥ずかしさを押し殺して俺は大きな声で叫んでみた。
すると、自分の手元でポンッと弾けながら本が空中から出てくる。
タイトルは【勇者の教育係、第17代目、ファギーの物語】と書いてあった。
「うわっ! なんじゃこりゃ?」
「ファギーの本よ。それを読めば先生のやることがわかるわ。そして次は『マッパ・ラミン』と言って」
棒読みに近く、無表情で淡々と説明するラビィー。
その説明の中で俺はある疑問を抱き、口に出してみた。
「ちょっと待て、今回は踊らなくてもいいのか? まだ、振り付けがうろ覚えなんだけど」
「踊らなくてもいいわ。さっきは私が踊りたかっただけ」
「意味が全く分からないよっ」
そうツッコんでから俺は小さな声で「マッパ・ラミン」と唱えてみる。
するとさっきと同じように手元でポンッと弾けて本が出てきた。
今度の本のタイトルは【勇者の教育係、第3代目、ラミンの物語】になっている。
「これ、2冊とも読まなきゃいけないのか? 結構な厚さがあるんだが」
「別に読まなくてもいい」
「本末転倒だな、おい」
この変な世界に来てからツッコみ過ぎていい加減に疲れてきた。
しかも話は全然進んでいないし。ファギーと名乗っていた老人は、煙の上がる城に置いて来た為にもう話を聞く事は出来ない。
ラビィーと名乗る可愛い少女は無表情で何を考えているのかわからない。
……これ、読むのかよ。めっちゃ分厚い本なんなんだけど。
自分が速読に近い事が出来る事にこれほど感謝した事は無い。
分厚い2冊の本を1時間ちょっとで読んだ俺は、少しだけだがこの世界の理を知ることが出来た。
しかし、この設定はないわ~。




