第16話 呪い解除と最低最悪の改名
どれぐらい寝ていたんだろう。
書庫で寝ていたはずなのに、今は柔らかいベッドの上。
誰かが俺を運んでくれたのかな? 気持ちがいい。もう少しこの平和な時間を満喫しようっと。
……え~と、なにこれ? 俺の隣に明らかに異物があるね。
布団で隠れて見えないが、大きさや温もりから考えるに人間で間違いない。
アニメやラノベの展開なら本命はラビィー。んで、パンチャが入ってきて、ボコボコにされる俺。
対抗でシープ姉さんかな。まあ、シープ姉さんの展開でも結末はラビィーと一緒でボコボコにされるよね。
なんにせよ、ボコボコにされる展開しか思いつかない。
ベタな落ちだけど誰にでも予想出来るね。さて、ボコボコにされる1歩目を踏み出しますか。完全に色んな事を諦めて、布団をめくり上げる俺。
うん、絶句しちゃった。だって、全裸のベアルが俺の隣で寝ているんだもん。
顔は女、身体は男。そしてなんで全裸なんだよ。
あ~、見たくないけど、見慣れたものが見える。
男だね、うん。本当に見たくなかった。
さらに、なんで一緒に寝ているの? で、こういうタイミングで……
「先生、起きてる?」
「麒麟様、ラビィー様が少し試したいこ……あらあら」
「この変態共が! 朝から何を見せているのよ!」
だよね~。はあ~。踏み出したってより、踏み外したよ、俺。
この展開は予想できなかった。でもこの後の展開は変わらないんだよね。ほら。
「ぐあぁ!」
「ひでぶ!」
投げられた2つの靴が俺とベアルにクリティカルヒットしたね。
パンチャさん、2つの靴を同時に投げて、2つとも顔面を捉えるって、どんな曲芸だよ。
ちょっと練習すればサーカスでナイフを投げられるレベルだね。
……俺、完全に被害者なんだけど。
「ベアルは早く服を着なさい! あんた、両方とも大丈夫な人だったの?」
「やだな~。パンチャ。僕はパンチャ一筋だよ。ここにいるのだってパンチャの部屋と間違えただけ。パンチャが起きた時に僕が隣にいたら事後って勘違いしてくれるかな~って」
「いや、絶対ないだろ!」
何の能力もない俺が未来予知できるレベルだぞ。
ボコボコにされて部屋から追い出される姿が容易に浮かぶ。確実&確定で三途の川を渡る事になると思うよ。読者の皆さんでも容易に想像出来るよね。
そしてベアルよ。両腕を組んで偉そうにベッドの上に立つな! 見たくない中央の物が視界に入るだろうが!
ん、ラビィー? 近づいてきてどうした?
「にゃあ!」
「へぐぅ!」
「ラ、ラビたん。そんな汚い物を触っちゃ駄目だよ!」
……猫パンチが急所にクリーンヒットってどれだけ過酷な罰ゲームだよ。
ベアルの自業自得だけど、さすがに同情するぞ。
同じ男として痛みは凄くわかる。
でも、少し嬉しそうな顔をしながら倒れているのはなんでなんだよ。
「だって、中央でブラブラしていたから」
「ラビィー、君も一応カテゴリー的には女性に入るので少しは恥らなさい」
「ベアル、粗末な物はさっさと隠して会議室に。麒麟様も着替え終わったら来てくださいですわ」
シープ姉さん……粗末な物って、その言い方は同じ男として傷付きますよ。
確かに自慢できるものではありませんけどね。
しかもこの騒ぎを冷静に、そして笑顔を崩さずに眺めるってどんだけSなんですか? でも、少し顔が赤くなっていたのを俺は見逃さなかったですよ。
シープ姉さんってもしかして……あれ、殺気を感じるからこの話題はここで打ち切ろう。シープ姉さんの目が凄いことになっているから。
お願いだから俺の心を勝手に読まないでくれますかね。
着替えが終わって会議室に到着するとラビィー達は椅子に座って待っていた。
「遅れてすまん」
「先生、大丈夫。だから外で待ってて」
「いや、意味が分からん。ならなぜ俺を呼んだの?」
「ラビたんが待っててって言ってるんだから、とっとと出ろ~!」
「はぐっぁ!」
パンチャに蹴り飛ばされ、部屋を追い出される俺。呼ばれたから来たんだよ。
上げて落とすのはオチの基本だけど、(来て)って言われて(蹴り出される)ってどんなオチだよ。
しかも面白くないって最悪じゃん~。このパターン、飽きたよ~。
「ごちゃごちゃうるさい!」
はい、2回目~。椅子が飛んできたよ。この天丼パターンもそろそろ飽きたね。
5分? 10分? 1人廊下で待つ俺。中で何しているんだろうね? 寂しいよ、暇だよ。
そっか、スマホがないからパズ●ラもウマ娘も出来ないんだ。ここまで思い出さなかったって事は、俺はネット依存症じゃないってことだね。
読者の皆さんも気を付けてね。って、この世界にはネットはないわ。
「麒麟様、終わりましたわ。どうぞお入りください」
何したんだよ。シープ姉さん、ちょっと笑顔が怖いぞ。
中に入るといつも通りの無表情なラビィーに対し、ニヤニヤしているパンチャとベアル。
お前ら、絶対楽しんでいるだろ? 本当に一体何したんだよ。
「先生、本出してみて」
「あ、あぁ。マッパ、麒麟」
ラビィーに言われるまま、呪いの言葉を唱えてみる。
いつもなら手元でボンッと弾けて俺の本が出てくるのに出てこない。念の為にもう1度唱えてみる。
「マッパ麒麟」
やはり本は出てこない。
ラビィーの考えた方法が成功して呪いが解けたらしい。少しずつ呪いが解けた喜びが込み上げてくる。
「やりましたわね」
「さすがラビたん」
「さすがパンチャ」
「最後の奴は台詞がおかしいぞっと」
1人だけブレねぇな。
いや、こいつらはみんなブレないな。褒められた本人はきょとんとしてるし。
「なんだよ、ラビィー。お前のおかげで呪いが解けたんだ。もっと喜べよ」
「こんな時、どんな顔していいか分からない」
なんだよ、それ。振りか? 押すなよ、押すなよ~タイプの振りだよね。
2回目だよ、このネタ。でも、無表情美少女に振られたら応えるしかないでしょ。
「笑えばいいと思うよ」
(ニヤッ)
「だからそれはちょっと怖いからやめようか」
ラビィー、もう少しだね。ニヤッからニコッまでもう少しだから頑張ろうね。
あと、その笑顔は他の人の前ではやめようか。幼児が見たら泣くレベルだからね。
「で、何をしたんだ? どうやって呪いを解いたんだ?」
あれ? ラビィーが目をそらした。
パンチャは笑いを堪えて顔を真っ赤にしているし、シープは最高の笑顔をこちらに向けてる。ベアルに至ってはパンチャをずっと愛でてやがる。
本当にブレないな、こいつ。
「麒麟様、1つ言わないといけない事がありまして」
「ん? なに?」
「先生の呪い、解けてない」
「ラビィー、何言ってんの? 本は出てないぞ」
「改名しただけ」
「はあ?」
ラビィーは何を言っているの? 改名? 誰の名前を・・・・・・って、俺か。
そんな簡単な事で呪いって解けるの? いや、解けてないってどういう事?
俺の頭の上にはてなマークが沢山浮かんでいるよ。
「麒麟様。ラビィー様の言っている事は本当ですよ。勇者、女王代行の名において、ラビィー様が麒麟様を改名しました。だから本を出すための言葉が違って本が出なくなったのです」
「先生、名を返そう」
「友人帳があるのかよ! で、それを聞いて俺はどんなリアクションを取ればいいんだよ」
親から貰った大切な名前を勝手に改名ってどういう事だよ。
自分が名前負けしているのは良くわかっているけどさ。まあ、誰でも俺の本が読めなくなるって言うのは嬉しいけどね。
というか、そんな事で本って出なくなるんだ。良いのか、こんな設定で。
「今、麒麟様の改名後の名前を知っているのはここにいる4人だけです。ですので、麒麟様の物語を読めるのは私達だけですわ」
「なるほど。発想の転換ってやつだ。呪いが解けないなら、呪文を変えて見られる人をいなくすればいいってわけだ。凄いぞ、ラビィー」
「……」
無表情だけど、若干顔に赤みがかっている。
照れているのか? うんうん、こうやって少しずつラビィーの表情を引き出していけば、愛想の良い可愛い女王になると思うぞ。
素材はかなり良いんだから。まあ、道のりはかなり遠いと思うけど。
「で、改名した俺の名前はなんて言うんだ?」
「き、聞かれない方がよろしいと思いますが」
「カルサカでの俺の名前だろ。気になるに決まってるだろ」
「で、では言いますね」
「あたいが教えてやろう。あんたの名前は真鳥キリー馬鹿麒麟先生様だ」
「はあ?」
我ながら思わず間抜けな声が出てしまった。
でも、この反応は決しておかしくないよね?
ドヤ顔で何言ってんの、このロリ体型は?
「馬鹿だから聞こえなかったの? もう1度だけ言ってあげるわ。真鳥キリー馬鹿麒麟先生様だ。覚えた? 馬鹿教育係」
「何を言っているの、このロリ体型! そんなふざけた名前があるわけないだろう!」
「先生、私がそれを承認した」
お前、何やっちゃってくれてんの? さっきの俺の感心を返してくれよ。
大体、その名前ってお前らの俺の呼び方をくっつけただけじゃねぇか!
「本もちゃんと出るぞ。マッパ・キリー馬鹿麒麟先生様」
……パンチャの手元でポンッと弾けて本が出たよ。
この名前で反応したのかよ。ありえないだろ。ふざけんなよ、おい。
「改名するならちゃんと改名しろよ! なに微妙に元の名前を残しているんだよ!」
「だって、残しておかないと、先生の呼び名、変わっちゃう」
「お前は『先生』だから変わらん!」
「私は『麒麟様』と呼んでいますわよ」
「名前の中に敬称を入れるってセンスはねぇ」
「あたいは馬鹿って呼んでいるじゃない」
「お前は悪意しか感じない!」
「僕はちゃんと親しみを込めて『キリー』と呼んでいるよ」
「お前の呼び方を入れたおかげで、俺の名前が外国人のようにミドルネームが出来たわ!」
なんで1人1人にツッコミを入れないといけないんだ。
この世界はポンコツばっかりか! そしてなんで全員ドヤ顔なんだよ。あっ、1人無表情の奴がいるか。
「さて、呪いが解決した所で次の私達の行動なんですが」
「いやいやいや、この状況をよしとするってどうなの?」
「次は私の城。(北の城)へ行きましょう。あそこに戻れば天才軍師がいますので」
うん、見事なスルー。綺麗なお姉さんだけど、イラッとするのは俺だけか?
でも、もう抗うことは止めよう。無駄な努力だわ。
「天才軍師って?」
「インテセルム・エレファトーニ。エレファですわ。ババア……もとい、ファンの後継者ですわ」
あっ、そうか。ババア……オホン、ファンはどう見ても40歳手前。
だったら後継者がもう生まれているんだ。25歳前後で四武太守候補が生まれるって言っていたから、今は15歳手前って感じかな。
天才軍師か。諸葛亮とか竹中半兵衛、黒田官兵衛みたいな感じなのかな? クールに采配を振る。
くっ~、カッコいい。
「とりあえず、エレファに会いに行きましょう。エレファなら文献を読めば色々と推論を立ててくれると思いますので」
「でもさ、文献ってここにあるんだろ? あんな沢山の文献を持っていくつもりなのか?」
「何のためにあんたがシープ姉さんと組んで文献を調べたと思っているのよ。あんたが文献を読めば本に載るでしょ。エレファならその事に気付いてもう調べているわ。そんな事も分からないの? あんた馬鹿!」
赤いプラグスーツを着た美少女の物真似かよ!
そしてまだ見ぬエレファ。お願いだからツッコミ役でいてくれ。
ベアルが増えてツッコミの人数が足りな過ぎ。
これでエレファまでボケや天然、中二病だったら魔王を倒す前に俺が倒れるよ。
「先生、出発の準備する。また私の胸を合法的に掴むチャンス。グッ!」
「ラビィー、色々間違っているぞ。親指は挟むんじゃなくて立てるんだ!」
……立派な女王への道のりは長そうだね。
~~第18代教育係、真島麒麟の書、2章完~~




