会ってたのかもね
団欒がひと段落すると、ノエルが立ち上がった。
「さて、そろそろ寝ましょうか」
トワさんもうなずく。
「明日も朝早いものね」
ヒロは湯呑みを置き、軽く伸びをした。
「今日は本当にありがとうございます」
「いいのよ、ガランに会ったってだけでも、面白い話が聞けたしね」
トワさんは笑う。
「あんたこれからどうするの?」
「実はこの世界に来たばかりなので、この世界の食べ物を食べながら旅しようかと思ってます」
「え?ヒロさんは他の世界から来たのか?
どうりで。
そしたら、しばらくここ滞在してこの世界のこと知ってから次の街出発したらいいわよ」
「え、いいんですか?!」
ノエルが立ち上がり、ヒロを振り返る。
「もちろん!部屋、案内するわ」
隣の3階建ての建物に案内された。
灯りがぽつぽつとついていて、まだ何人か起きている気配があった。
「ここが従業員寮」
ノエルが扉を開ける。
「一階は団欒スペースや大きなキッチンスペースとかがあるわ。2.3階がみんなの部屋になってて、厨房の子がほとんどだけど、冒険者とか研究者も住んでるのよ」
廊下を歩き、階段を上がる。
「ここ」
空き部屋の扉を開けた。
中は質素だけど、きれいに整えられている。
ベッド、机、小さな棚。
窓の外には、ギルド本部の灯りが見えた。
「十分すぎます」
ヒロは頭を下げる。
ノエルは笑った。
「遠慮しないで休みなさい」
「おやすみ」
扉が閉まる。
静けさが戻った。
ヒロは窓を開けて、ベランダに出た。
夜風が少しひんやりしている。
遠くから、ギルドの酒場の笑い声がまだかすかに聞こえた。
「……ふぅ」
長い一日だった。
異世界に来て、島を出て、
大陸に着いて、
この店に入って。
いろんなことが一気に起きすぎて、頭が追いつかない。
でも。
腹の奥には、まだあのスープの温かさが残っていた。
(いい店だな)
そのときだった。
隣のベランダの扉が、そっと開いた。
ひよりだった。
「……あ」
少し驚いた顔をする。
「まだ起きてたんですね」
ヒロは苦笑する。
「まぁ、いろいろありすぎて」
ひよりもベランダの手すりに寄りかかった。
夜風が、二人の間を静かに流れる。
少しだけ沈黙が続いた。
やがて、ひよりがぽつりと言った。
「今日は……」
「おいしいって言ってくれて、ありがとうございました」
ヒロは少し驚いた。
「いや、ほんとにうまかったです」
「今まで食った飯の中でも、かなり上位」
ひよりはくすっと笑った。
「そんな大げさな」
「大げさじゃないですよ」
ヒロは空を見上げる。
「なんか……初めてなのに、懐かしい感じがして」
ひよりの手が、少しだけ止まった。
「……懐かしい?」
「ええ」
ヒロは肩をすくめる。
「変ですよね」
ひよりはしばらく何も言わなかった。
夜風が、髪を揺らす。
「……わたしも」
小さくつぶやく。
「あなたの顔、どこかで見た気がしたんです」
ヒロが振り向く。
「え?」
ひよりは少し照れたように笑った。
「夢かもしれないけど」
「小さい頃の記憶みたいな」
ヒロはしばらく黙っていた。
それからふっと笑う。
「じゃあ」
「どっかで会ってたのかもですね」
ひよりも小さく笑った。
「……かもしれません」
夜空には、静かに星が瞬いていた。
✦To be continued✦




