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「身代わりに産んだ娘が、今日も『私』に甘えてくる」 ~概念代行:私が彼女の《母親:父親》になった日~  作者: かおもじ
『ひまわりの笑顔』

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幕間:ないしょのはなし

「ねぇひまりちゃん。お母さんはどうして壊れたものをなおせるの?」


 常盤家のリビングで寛いでいる最中、最近小学校に上がったばかりのひかりが、徐ろにハルさんの持つ不思議な力について尋ねてくる。


「……急にどうしたの、ひかりちゃん?」


「この前お母さんが、おしごとしてるところを見せてもらったの。そしたらね、壊れたいれものも、破れた絵も、ぜーんぶなおっちゃったんだ。わたしびっくりしちゃった」


 ハルの持つ、その特別な力。

 概念に干渉し、あらゆる事象を肩代わりする『身代わり』の能力。


 その対象は当然、人間だけに留まらない。

 彼女が生業の一つとする修復業。それは彼女の持つ『身代わり』の能力によって成り立っている。


「あ~、そうだねぇ。不思議だよねぇ。……ハルさんには聞いてみた?」


 上手い返しが思い浮かばなかった私は、質問に質問を返す形でひかりに問いかける。


「うん、でもお母さんは、『手品みたいなものだよ』って。手品ってハトさん出したりするやつでしょう?」


 その返答に、思わず私は苦笑する。

 あの人はいつもそうだ。

 私を助けてくれた時も、自らのその理外の力を、『手品』と評していた。


 ともすれば、世界そのものをどうにかすることすら可能であろうその能力。

 しかし、彼女自身はその力を、随分と低く見積もっているように映る。


 それは、悠久の時の中で、数多の悲劇を掬い切れなかった、自分に対する諦念から来ているのかもしれないが……。


「……ねぇ、ひまりちゃん! 聞いてる?」


 そのひかりの声にハッとし、「あ、ゴメンね。聞いてるよ」と慌てて返す。

 どうやらハルの事を思うあまり、考えに没頭し過ぎていたようだ。


「それで、お母さんは、なんで壊れたものをなおせるの?」


 振り出しに戻ったそのひかりの純粋な問い掛けに、一瞬の逡巡を挟んで、私は答えた。


「ひかりちゃん、ハルさんはね……本当は『神様』なんだよ」


「えぇ~、そうなのぉ?」


 私のその言葉に、目を丸くして驚きを露わにするひかり。


「そうだよ。ハルさんは本当は神様なんだけど、ひかりちゃんの為に『お母さん』になってくれたの。とっても優しい神様なんだから」


「そうなんだぁ……。お母さんってすごいんだねぇ……」


 私の言葉を疑うことも無く、その驚きを反芻するように「すごいすごい」と繰り返すひかり。


「……でもねひかりちゃん、ハルさんが神様だって言うのは秘密なの」


「なんで〜? わたしのお母さんはすごいんだよって皆に教えてあげたいのに〜」


 そのひかりの言葉に思わず苦笑する私。きっと、自慢のお母さんに、更に自慢が加わった。その位の感覚なのだろう。


「もし皆がハルさんが神様だって知ったら、悪い人が攫いに来ちゃうかも知れないよ? そうしたら、ひかりちゃんとはもう一緒に居られなくなっちゃうかも……」


 その私の言葉に、一瞬で表情を曇らせるひかり。


「え、やだやだぁ! お母さんがどっかいっちゃったらやだぁ!」


 半泣きになりながら話すひかりの頭を撫でながら、私はこう告げる。


「だから、ハルさんが『神様』だって言うのは、二人だけの秘密ね。……約束だよ?」


「秘密にしてたら、お母さん居なくならない……?」


「もちろん! ハルさんはひかりちゃんが大好きだから、秘密にしてたらずっと一緒にいられるよ。……約束、守れる?」


「……うん。わたし、ぜったい、やくそくまもるよ!」


 小さな小指が、私の小指にしっかりと絡みつく。

 その温もりを感じて私が目を細めた、ちょうどその時だった。


「……二人で、何の内緒話をしているんだい?」


 不意にキッチンから優しい声が響き、スッとハルさんが顔を覗かせた。

 その手には、二つのマグカップと、ひかり用の温かいミルクが乗ったトレイを持っている。


「あ、お母さん! な、なんでもないよ!」


「ハ、ハルさん! べ、別に大した話じゃありませんよ! ね、ひかりちゃん!」


 私が慌ててウインクを送ると、ひかりも両手で口をふさぎながら、ぶんぶんと勢いよく首を縦に振った。


「……そうかい。まぁ、二人が仲良くしているのなら、それでいいのだけれど」


 ハルさんは小さく首を傾げながらも、トレイをテーブルへとコトリと置き、ふわりと微笑んだ。その表情を見る度に、私は心の底から温かな安らぎを得る。


 ――ええ、ハルさんがここに居ることは、少しの間だけ、世界にはないしょです。


 あなたがどれだけ自分を低く見積もろうと、長い時間の中で沢山の人を救って来たという事実は変わりません。

 そして、今はここで羽根を休めているけれど、いつかまた悠久の時の流れに戻って行くであろうことも分かっています。


 でも、今は、今だけは――私と、この子のためだけの、神様でいて下さい。


 マグカップから立ち上る湯気の向こう側。そんな想いを胸に抱きながら、私はハルさんの顔を、そっと見つめ続けるのだった。


この度は私の作品をお読み頂き誠に有難う御座います。

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