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「身代わりに産んだ娘が、今日も『私』に甘えてくる」 ~概念代行:私が彼女の《母親:父親》になった日~  作者: かおもじ
『新たなるひかり』

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似た者親子

 五時間目の終了を告げるチャイムが鳴り響く。


「え、えー……。それでは保護者の皆様は、この後体育館にてPTA総会が行われますので、ご移動をお願いします……」


 教壇に立つ数学の先生が、ハンカチで滝のような汗を拭いながら、フラフラとした声でどうにかそうアナウンスした。


 その案内に従い、教室の後ろで静かに授業を見守っていたお母さんは、私に向けてもう一度だけ、あのとびきり優しくて美しい微笑みを向けると、静かに教室を後にした。


 パタン、と。

 教室の後ろの扉が完全に閉まった、その数秒後。


「「「…………ぷはぁぁぁぁっっっ!!」」」


 教室内で、凄まじい音量の息継ぎの音が響き渡った。

 今まで水中にでも潜っていたのかというほど、クラスの全員が一斉に肺の空気を入れ替えている。教卓の先生に至っては、もはや膝に手をついて肩で息をしていた。


「……な、なんだったんだ今の……」

「死ぬかと思った……息するの忘れてた……」

「ていうか、最後のあの笑顔なに!? 俺、本気で昇天するかと思ったんだけど!?」

「わかる……っ! 女の私でも、普通に心臓止まるかと思った……!」


 教室のあちこちから、何故か男女の悲鳴にも似た声が上がる。限界を迎えて机に突っ伏す者や、背もたれに寄りかかって虚空を仰いでいる者も少なくない。


「ちょっと、ひかり……」


 グググッっと、隣の席の結衣ちゃんが、私の肩を万力の様な力で掴んできた。


「な、なに…!?」


「あんたのおねだりの結果がコレよコレ。どうすんのよ……」


「え、ええっと……?」


 周囲を見渡し、死屍累々の同級生の姿を見た私は、そこでようやく、お母さんの『本気』がどんな結果を生んだのか理解する。


「マジで責任取りなよ……会ったことあるウチらでさえあのオーラにビビってんだから、初見のヤツとか普通に心臓止まってんじゃん?」


「そ、そうだよ……! 私たち、ひかりちゃんの家で会ってるからかろうじて耐えたけど……!」


「今日のひかりちゃんママ、オーラが神々しすぎたし、最後の笑顔の破壊力はマジでヤバすぎでしょ……」


 結衣の隣で、顔を赤くして興奮気味の静音と、胸を押さえて荒い息を吐いているみゆきが、ウンウンと勢いよく頷いている。

 元々お母さんを知っている三人ですら、今日の『本気』からのギャップには完全にやられてしまったようだ。


「えへへ。お母さん可愛かったでしょ!」


 私がえっへんと胸を張ると、何故か三人が一様に頭を抱えている。


「……そうだよね。ママさんも『天然』だったし、ひかりもそりゃ『天然』だよね」


「子は親を見て育つって言うから……」


「それがひかりちゃんの良いところでもあるんだけどねぇ……そんな所まで似なくても」


 そんなやり取りをしていると、機を窺っていたクラスメイトが一斉に私の席へと群がってきた。


「ねえ常盤さん! 常盤さんのお母さんって楊貴妃かクレオパトラの生まれ変わり!? 絶対国の一つや二つ滅ぼしてるでしょ!?」

「今日から拝もうと思うんだけど、神棚で大丈夫かな?」

「常盤さん、お母さんの連絡先とか……あ、いや、なんでもないです……」


 女子たちの質問攻めと、遠巻きに謎の熱視線を送ってくる男子たち。

 予想以上の反響……というか、もはやパニックに近いクラスの惨状を眺めながら、結衣が呆れたような、しかし戦慄したような声でポツリと呟いた。


「これさ……もしかしたら、ウチらのクラスで今後、男女の恋愛とかマジで起きないかもしんなくない……?」


「……え?」


「だって、一番多感な時期の男子がさ、あんな世界一……てか史上一の美貌と微笑みを見ちゃったんだよ? 理想のハードルが成層圏突破して宇宙まで行っちゃってんじゃん。あんなの、どうやったって勝てるわけないっしょ……」


「あはは……。私たち女子までドキドキしちゃったもんね……違う扉、開きそう……」


 結衣の言葉に、静音が乾いた笑いをこぼし、みゆきも深く頷いている。


 (……あれ、何か間違えたかも?)


 自慢の、世界で一番大好きな私のお母さん。


 みんなの口から飛び出す「綺麗」「美人」「凄い」というお母さんへの称賛の嵐に、胸の奥が誇らしく満たされていくのは事実だ。


 だが、それはそれとして、何だか思っていた結果とは違う気がする。何故だろうか……。そうして一生懸命理由を考えた私は、漸く一つの結論を導き出す。


「……あ、そっか! ビシッと決めた格好良いお母さんがあんなに可愛く笑ったからみんなドキドキしちゃったんだよね! 今度は最初から可愛い服着てもらうね!」


(((違う、そうじゃない!)))


「あんたマジで死人出す気!? 絶対やめてー!!」


 どうやら私の導き出した答えは、また間違いだったらしい。


「なんでぇ? お母さん、かわいい服も似合うんだよぉ〜?」


 周囲のクラスメイトたちは血相を変えて一斉に首を横に振り、結衣の絶叫だけが、クラスの中で只々響き渡るのだった。


この度は私の作品をお読み頂き誠に有難う御座います。

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