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「身代わりに産んだ娘が、今日も『私』に甘えてくる」 ~概念代行:私が彼女の《母親:父親》になった日~  作者: かおもじ
『新たなるひかり』

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ホップ・ステップ

 大型バス特有の揺れと、微かに漂うディーゼルの匂い。


 弾んだ声が車内に響く中、私たちは顔を寄せ合って三日間の予定表を広げていた。


「今日の午後のレク、長縄とフラフープリレーだって。高校生にもなって長縄とかウケるんだけど。マジだるくない?」


「もー、結衣ちゃんったら。でも高校生で長縄は確かにエグいよね」


「……それもそうだけど、私上手く跳べるかな……」


 気怠そうに予定表をパタパタと仰ぐ結衣ちゃんにみゆきちゃんが苦笑し、隣の静音ちゃんは違う矛先から話題に入っていく。そんな三人をよそに、私は一人闘志を燃やしていた。


「えー? せっかくやるなら、絶対一位取りたいじゃん! みんなで頑張ろうよ!」


 身を乗り出しながらアピールするように拳を握ると、結衣ちゃんは少し目を丸くし、呆れたように笑った。


「ひかり、マジで熱いねー。……まぁ、やるからにはアタシも手は抜かないけどさ」


 そんな他愛ないやり取りを幾度か繰り返すうち、窓の外の景色が、見慣れた街並みから青々とした新緑の山道へと変わっていく。


 その景色の変化に暫し意識が引き込まれているうち、私たちの乗ったバスは、あっという間に高原のリゾートホテルへと到着した。


「ほら、着いたぞ。忘れ物しないように、前の席から気を付けて降りろよー」


 通路を挟んで前の席から、ガタガタと荷物をまとめる音が立ち上がる。私たちは互いのリュックがぶつからないよう気を配りながら、ゆっくりと狭い通路を順に並んで進んでいった。


「わあ……! すっごく空気綺麗!」


 バスのステップを降りた途端、ひんやりとした風が頬を撫でる。


「うわ,見てよ。良さげなホテルじゃん」


「ほんと、想像してたよりめっちゃ立派だわ」


 結衣ちゃんが大きなリュックを背負い直しながら、目の前の建物を見上げて声を弾ませる。それに呼応するように隣に立ったみゆきちゃんもまた、ウンウンと頷きながら大きく声を発していた。


 そびえ立つのは、レンガ調の壁面が美しい広大なリゾートホテル。更にその視線を上まで伸ばせば、遮るもののない青空がどこまでも広がっていた。


 大きく背伸びをして、山特有の澄んだ空気を胸いっぱいに吸い込む。アスファルトの照り返しも、見慣れた街の喧騒もここでは感じられない。


 次々とバスを降りてくるクラスメイトたちの弾んだ声が、高い空へと吸い込まれていく。足元で砂利を踏みしめる音が、今日から始まる三日間の非日常を確かなものとして告げていた。



 ◇ ◇ ◇



 広いホールでの入所式を簡単に終えると、直ぐに昼食の時間になった。


「なんかさ、こういう仕出しのお弁当見ると、お葬式思い出すんだけど」


 配られた幕の内弁当の蓋を開けながら、結衣ちゃんがぽつりと呟く。


「なんか、分かるかも。黒い箱にぎっしり詰まってるしね」


 みゆきちゃんが割り箸を割りながら同意する中、私は首を傾げた。


「え、こういう感じなの? 私、お葬式って出たことないからわかんないや」


「あ〜、まぁ必ずって訳じゃないだろうけどさ。なんかこんな感じのイメージ」


「結衣ちゃん、ご飯の時にお葬式って……」


 静音ちゃんが小さくため息をつき、私たちは顔を見合わせてくすくすと笑い合った。


 ただのお弁当一つでも、こうして顔を突き合わせていれば、いくらでも話は膨らんでいく。他愛のないお喋りが、それだけでたまらなく楽しかった。



 ◇ ◇ ◇



 午後の時間は、パイプ椅子に座ったままのオリエンテーションから始まった。これからの高校生活のルールや心構えについて、先生が前でマイクを握っている。


「……ねえ、あの先生さっきから同じこと三回くらい言ってない? マジで話長すぎ。クソだるい」


 配られたプリントで口元を隠し、結衣ちゃんがぐでーっと背もたれに寄りかかる。


「しーっ、結衣ちゃん、声大きいってば……見つかったらヤバいよ」


 みゆきちゃんが周囲を窺いながら制止するが、その肩は小刻みに震えている。


「だってぇ。あ、ほら見て。静音も完全に寝落ちしてんじゃん」


 視線の先では、静音ちゃんの頭がカックン、カックンと規則正しいリズムで揺れていた。


「あはは、ほんとだ。……って、結衣ちゃんともさっき寝そうになってたの知ってるんだから」


 私が小声でからかいながら結衣ちゃんの脇腹を指先で小突くと、「ひゃっ」と引きつった小さな声が漏れた。


「ちょっと、何すんのよ……!」


 結衣ちゃんが顔を真っ赤にして、睨みつけるフリをしながら、すかさず小声で私の脇腹を小突き返してくる。今度は私が「ふえっ」と喉の奥で変な声を上げそうになった。


 お互いに必死で口元を真一文字に結び、引きつる笑いを噛み殺しながら、私たちは配られたプリントに顔を伏せてクスクスと身をよじらせた。



 ◇ ◇ ◇



 そんなお堅い時間を乗り切った後。体育館で行われたクラス対抗レクリエーションで、空気は一変した。


「よーし、みんな! 絶対一位取るよー!」


 私が大きな声を張り上げると、バァンッ! バァンッ! と体育館の床に、極太の長縄が叩きつけられる重い音が響いた。


「せーのっ、いち、に、さん……!」


 キュッ、と無数の体育館シューズが床を擦る音。全員が息を合わせ、一斉に宙へジャンプする。


「ああっ、クソッ! 引っかかった!」


「あはは、結衣ちゃん! だるいとか言って、一番ムキになってるじゃん!」


「うるさいっ! 次絶対跳ぶし!」


 ジャージの袖を捲り上げた結衣ちゃんが、誰よりも高く跳躍する。


 ふくらはぎがパンパンに張り、全員の息が荒くなっていく。それでも、縄が回るたびに誰からともなく声が上がり、バラバラだったジャンプのリズムが一つにまとまっていく。


「三十八、三十九、四十……!」


 限界を迎えそうな足に力を込め、必死に床を蹴り上げる。あと少し,あと少し。


『ピーーーッ!!』


 終了のホイッスル。


 肩で息をしながら、全員がマイクを持った先生を見つめる。


「えー、一年一組、記録四十二回! 見事,第一位です!」


 一瞬の静寂の後。


「やったーーっ!!」


「うそ、一位!? ヤバッ!!」


 大歓声が爆発した。


 駆け寄り、もみくちゃになりながら抱き合う。結衣ちゃんは私と両手をバシッと合わせた後、そのままぴょんぴょんと飛び跳ねていた。


「長縄なんてメンドイと思ったけど、みんなでやるの悪くないね」


 少し上気した顔で汗を拭いながら、みゆきちゃんがはにかむように笑う。


「まぁそれも、やっぱ勝ったからっしょ!」


 腰に手を当てて、結衣ちゃんが誇らしげに胸を張った。


「……ひかりちゃんが、一生懸命声出してくれたから」


 静音ちゃんがそっと隣に寄り添い、静かに、けれど嬉しそうに目を細める。


「ううん,みんなで跳んだからだよ!」


 私が笑顔を返すと、三人も釣られたようにまた笑った。


 弾むような笑い声が、体育館の高い天井へと抜けていく。

心地よい疲労感の向こうで、開け放たれた窓の外の山並みが、ゆっくりと茜色に染まり始めていた。


この度は私の作品をお読み頂き誠に有難う御座います。

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