第96話 師匠の領地
師匠の領地は正確に言うならヴァンデラー伯爵領だ。
海に面していて農地は塩害があるから錬金術師を雇ってる。そこは多分、領主の持ち出し。漁村も多分、入江が港に適さないから、輸送手段がなくて魚は領外に売れない。領の中でしか、回らないから豊かにならない。
そんな感じじゃないだろうか?
魚を長持ちさせる方法はいくらかあるし、絞めてマジックバッグ入れて売りさばけばいいのだろうと思うけど、多分、直轄地のほうが太い商売のパイプがあって、割に合わないんだろうな。
漁獲量も期待できないのかもしれない。
「まずは領主の館に行く。領の真ん中にあるんだ。その近くに農地と農村がある」
「今はちょうど種まきの時期?」
俺がそう言うとラントとアグリが頷いた。
そうか。師匠と弟子だから似るのかも。今の仕草は双子のようだった。
「なにをメインに作っているの? やっぱり小麦?」
「そうだな。小麦を税のために作っていて、他に雑穀と、野菜だな。漁村があるから肉の代わりに魚を食べるな」
「魚!」
「ルオはなぜそんなに魚に興味があるんだ」
「食べたことないから食べたい!」
「そういえば海がないからな。あの河で川魚を獲ってないし、いたら魔魚だからな……」
うーむと師匠が唸る。
「魔物もあまり出ないな。平原が多いから虫や狼、ボア系魔物はたまに出るが、数は少ない。ああ、スライムはいる」
「スライムかあ。どこでもいるんだね」
「どこでもいるから、いろんな種類に別れてるぞ。下手すると中級の魔物より恐ろしい魔物になる時がある」
「え、そうなの?」
「そうだ。迂闊に近づかないほうがいい」
「わかった。スライムは危険。覚えた」
「本当か?」
師匠がくすくす笑って頭をぐりぐりする。揺れる馬車でやられるとちょっと……
「気持ち悪い」
「おい、ルオ! 待て! ちょっと停めてくれ!」
すぐに停まってもらって泉の水を飲んだらすっきりした。
森に挟まれた街道の端に停めてちょっとだけ休憩だ。
「ん? 何か来るな」
道の先に土煙が見えて俺たちの方に向かってきた。
「ああ、巡回の騎士じゃないか?」
魔馬に乗った鎧を着けた騎士が駆早足で道を通り過ぎていった。
「巡回? 早馬とかじゃなく?」
「王族の管理する領地が東はほとんどだからな。騎士団が目を光らせてるんだ。だから街道の治安は一番いい」
「へえ……あれ? 北は?」
「北は河に隔てられた森と山しかないからなあ。領地はないが、森にはエルフの自治領があるぞ」
「エルフ!?」
「ああ。エルフは排他的種族だが、王国とは不可侵条約を結んでいる。交流もしていて、たまに貴族学院に留学するエルフもいるぞ」
「え、学院に行くとエルフに会えるの?」
「長命種だから子供が少なくて、いる年といない年があるな。それにエルフは被害妄想の酷い種族だからなあ。森に住んでるエルフには気をつけろ。街に住んでいるエルフは温厚だが森にいるエルフは攻撃的だからな」
「え、そうなの?」
「エルフは自分が高貴な種族だって思ってるらしいからな。人族は下賤な種族と思ってるらしい」
「えっ」
「まあ、会ってみればわかるさ。会わないほうが幸せだろうけどな」
師匠、エルフと何かあったんだろうか? すっごい苦虫噛み潰したような顔してるんだけど。
「まあ、いい。俺はエルフよりドワーフと気が合うんだ」
「師匠、ドワーフの人たちに何をしたの? すっごい信頼されてるんだけど」
「あー、まあ、そのうちな。特に言うほどのことじゃない」
ええ、逆にすっごく気になるんだけど!
街道の旅はそれほど馬車も揺れなくてよかった。野営はほぼなく、大体馬車で半日行ったところに村か町があった。
王都と港を繋ぐ大動脈で、道幅も広く、交通量が多いせいかもしれない。
そうして一週間、広い草原に出た。
「ああ、もう、うちの領地だな」
「え、門なかったけど?」
「うちは関税は取らないんだ」
「そうなの!?」
「先代がそんなものとったら、誰も来ないと言い切ったせいかな」
「……」
え、どうリアクションしたらいいの?
「そんなわけで、ここはもうヴァンデラー伯爵領だ。ようこそ、我が領地へ」
「お邪魔します」
ぷっと吹き出したのがわかった。ラントとアグリだ。
「そういえば、何故二人を連れてきたのか、いい加減教えてくれてもいいだろう?」
「う~ん……美味しいトマトが作れるか、実験かなあ?」
「は? トマト?」
「そう! 塩トマトを作りたいんだ!」
「しょっぱいトマト?」
「違うの! とっても甘いトマト!」
「はあ」
師匠が頭に? マーク浮かべてるよ。
「ね! ラント、アグリ」
「はい。きっと美味しいトマトが獲れます」
「ね!」
と三人で顔を見合わせて微笑んだ。
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